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おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―  作者: ほまれ


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第九夜 「香る恋と裏切りの前奏曲」

信じる香りは、時を越えて残る。

疑われても、笑われても――その香りが“誠”ならば、やがて人の心を動かす。

今宵は、美濃と伊勢を結んだ“香りの外交”の夜。

ひとしずくの石鹸が、恋と同盟の運命を変えたのよ。

青年はグラスを転がしながら笑ったわ。

「ママって、本当に……何でも“香り”で考えるんですね」

あたしは肩をすくめて、ふっと笑ったの。

「人間関係ってねぇ、言葉より先に“匂い”が働くのよ。

 記憶と気持ちをつなぐ、一番古い橋だからねぇ」


長良川の戦いが終わった頃、美濃は一応の静けさを取り戻していたけれど、

影では傷ついた兵や忍びが次々と倒れていたの。

血、泥、腐敗、伝染……

あたしはどうしても放っておけなかった。

(わたし、推しの世界で……黙って見てるだけなんて、無理)

陰キャな胸の奥で、そんな小さな意地が燃えてたの。

そこであたしは甲賀の里に戻り、

“衛生”と“栄養”の改良に取り組み始めたのよ。

灰と油を煮詰めて……何度も、何度も。

手は荒れるし失敗ばっかり。

でも、どうしても形にしたかった。

そこへサエが来て、眉間に皺を寄せた。

「ヨシエ……あんた、何をこそこそ作ってるの?

 里で噂になってるよ。“妙な術”を混ぜてるって」

あたしは困って笑うしかなかったわ。

「違うの。これは“汚れを落とす薬”。

 これがあれば、怪我も病も減るのよ。

 みんなを守りたいだけなの」

けれどサエは信じ切れなかった。

その小さな不安と疑いが、後の“裏切り”へとつながるなんて――

この時のあたしは、まだ気づけなかったわ。


その頃、商人仲間を通じて紹介されたのが、

伊勢の豪商・長谷屋五郎左衛門。

「六角様のもとで新しい油を試しておりましてな」と聞いた瞬間――

ピンときたわ。

“良質な油”と“灰”。

これが揃えば、石鹸はきっと完成する。

伊勢と甲賀は職人気質が似てるのよねぇ。

何度も蒸留器を作り直し、温度を調整し……

ようやく、淡い桜色の石鹸が生まれたの。

ほのかに柚子が香る、小さな可愛い石鹸。

正直、初めて“石鹸らしい石鹸”ができた瞬間、

陰キャなあたしでもちょっと泣きそうになったのよ。

六角義賢様はその香りを大層気に入ってくださって、

「これを京や堺にも広めよ」とお命じになった。

それが六角家の財を潤し、

美濃との交易を開く“架け橋”になったの。

あたしはついでに、ある提案を忍ばせた。

「義賢様、美濃の利尚様は御家の娘を娶るにふさわしい御方です。

 どうか、この香りの縁を国の縁にも……」

場に走った緊張。

でも義賢様は、やがて愉快そうに笑った。

「おぬし、忍びにしては随分と大きな夢を語るな。……だが面白い」

――こうして、美濃と六角の同盟は静かに動き出したのよ。

石鹸と香りが外交を繋ぐなんて、ちょっと洒落てるでしょ?


一方その頃。

竹中半兵衛と安藤守就の娘・つきとの婚姻話が進んでいたわ。

でも半兵衛様ときたら、

もう、“心に疎い”どころじゃないの。

「ヨシエ殿、心の距離というものが……よく分からぬのだ」

(あんた……戦略の天才なのに、恋はゼロ点なのね……)

内心でそう思いながら、あたしは笑って言ったの。

「難しく考えなくていいの。

 この石鹸をつきちゃんに贈ってみなさいな。

 香りが、あんたの“誠”を代わりに届けてくれるわ」

ところが翌日――

案の定やらかした。

「つ、つき殿……こ、これを……!

 えっと……け、結婚してほしい!」

差し出したのは石鹸ひとつ。

そりゃ不器用にもほどがあるでしょ。

でも、つきちゃんは笑って「はい」と答えたのよ。

その瞬間、半兵衛様の目が少し溶けた。

“理だけで生きていた天才”が、

初めて恋に落ちた瞬間だったわ。


全ては、美濃の未来を少しでも明るくするため。

義龍様のために縁を広げ、

国を支え、

裏で静かに香りを繋いでいく。

あたしの陰キャな外交作戦は、

こうしてじわりと形になっていったのよ。


青年はくすっと笑った。

「ママって、本当に……香りで全部 つなげちゃうんですね」

あたしはグラスを磨きながら言ったわ。

「疑われても笑われてもねぇ、

 いい香りのする人って、最後はちゃんと愛されるのよ」

青年が少し照れた顔をして、コクリと頷く。

あたしは彼にグラスを差し出した。

「今夜の一杯は――

 柚子ピール入りのジントニックよ。

 記憶を優しく揺らす香り。

 石鹸の夜には、これがぴったりなの」


【今夜の献立】

お酒: 柚子ピール入りジントニック

清らかで優しい香りが、石鹸の記憶を呼び起こすわ。

おつまみ: スモークチーズの蜂蜜がけ

甘じょっぱさが、理屈と感情の間に架かる橋そのものね。

“香り”とは、見えない約束。

人は忘れても、香りは覚えている。

裏切りの種も、恋の芽も、

その香りを辿れば、いつかまた出会うのよ。

ヨシエが作った石鹸は、

ただの薬ではなく、愛と記憶の橋だったのかもしれないわ。

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