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おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―  作者: ほまれ


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第二十一夜 「浅井・一乗谷決戦 ―“見えぬ強さ”の正体」

いらっしゃい。

今夜もバー〈ゴールデン戦国〉は、少しだけ灯りを落としてる。

昨日の話がね、

心に残っちゃう夜ってあるでしょ。

分かった“つもり”になったことが、

次の日になって、じわっと痛み出す夜。

今夜はそんな続き。

「強さって、目に見えるものだけじゃない」

その意味を、戦場で思い知らされた夜の話よ。

グラスは、常温でいきましょ。

若さと年輪が混ざる味――

今夜のテーマに、ちょうどいいわ。

例の青年が、昨日に引き続きまた来たのよ。

「ママ……昨日の話、ずっと考えてたんです。

 人って、見えてないところに強さがあるんですね」

あら、いいこと言うじゃない。

アタシはにっこり笑って、

常温の徳利をカウンターに置いた。

「古酒をブレンドした熟成日本酒。

 若いのと老いたの、辛口と丸い甘さ……

 ぜんぶ混ざって、やっと“ひとつ”になるのよ。

 見える部分だけ味わったら、もったいない子なの」

添えたのは、

鯖の燻製に、大根おろし。

「燻製ってクセが強いでしょ?

 でもね、大根おろしを添えると、

 奥に隠れてた旨みが一気に開くの。

 これも“見えない強さ”ってやつ」

青年は少し笑って、

そして真剣な顔で言った。

「……続き、聞かせてもらえますか?」

もちろんよ。

じゃあ――あの“浅井の決戦”の話をしましょ。


美濃からの援軍が揃い、

浅井の陣も、ようやく息を吹き返しつつあった頃。

来たのよ。

朝倉が誇る猛将――真柄直隆。

もうね、鎧の上から分かるの。

あれは“殺気で歩いてる人”よ。

久政様、賢政、光秀、

それからアタシで応対したんだけど――

開口一番、あの男が言ったの。

「浅井はこれまでだ。

 ……それと、美濃の利尚とかいう若造に従っているとか。

 成り上がり者を主と仰ぐとは、浅井も地に落ちたものよ」

……は?

(ちょっと待ちなさい。

 今、利尚様を“成り上がり”って言った?

 あんた、命いくつ持ってるの?)

光秀も賢政も、

同時に空気が変わった。

――でもね。

それより速く、

それより何倍も“重たい怒り”を放ったのは。

久政様だった。

「成り上がり、だと?

 我らの恩人たる美濃の主を侮辱するとは――

 ただでは済まぬぞ」

声を荒げたわけじゃない。

顔色ひとつ変えず、

能面みたいに、冷え切った怒り。

(……ひっ。

 久政様、怒るとこうなるのね……)

真柄はそれ以上何も言わずに引いたけど、

あの背中――

「必ず殺す」と書いてあったわ。


そして合戦。

前夜までに久政様が仕込んでいた策が、

まあ、えげつないほど綺麗にハマったのよ。

・京極には

 「朝倉が浅井を見捨てた」と偽書状

・朝倉には

 「浅井は美濃の援軍五千で討ちに来る」と流布

・小競り合いで賢政を使い、時間を稼ぐ

疑心と焦りが敵の中で絡まり合って、

朝倉・京極は完全に足並みを失った。

(……ねぇ賢政。

 あんたの父上、全然“日和見”じゃないわよ?

 むしろ策が重いのよ……)

賢政も、その全貌を知った瞬間だけは――

父を“恐れた顔”をしてた。


でもね、戦は策だけじゃ終わらない。

敵陣の混乱を突き破って、

ただ一人――

真柄直隆が獣みたいに突っ込んできたの。

大太刀が振るわれるたび、兵が吹き飛ぶ。

あれはもう人じゃない。災害。

その前に立ったのが――賢政。

「真柄直隆!

 浅井を侮辱した、その口……後悔させてやる!」

勢いは満点。

でも、真柄は“圧”で全部潰してくる。

刃が跳ね、

槍が折れ、

賢政の膝が落ちた瞬間――

大太刀が振り上げられた。


「はいはい、そこまでぇっ!!」

横からアタシがねじ込んだ。

ガツンッ!!

小太刀で軌道を叩き、

そのまま回し蹴り。

ドガァッ!!

……正直に言うわね。

痛かったわよ。

あの大太刀、反則。

(あ〜もう……

 甲賀の女じゃなきゃ死んでたわ……)

でもね、

“見えない強さ”ってのは、

こういうとこで出るのよ。

真柄直隆を地面に沈めて、

アタシは叫んだ。

「はい、捕縛しときなさーい」

横を見ると――賢政。

真っ青な顔で、震えながら。

「……ヨ、ヨシエ殿……

 ありがとうございました……!」

さっきまで噛みついてた子が、

一瞬で敬語。

でもね、

その目にあったのは“恐れ”じゃない。

理解。

(この人は強い。

 しかも、僕を見捨てない。

 なら――従うべきだ)

分かったわ。

この子はね、

「価値を見抜いたら、ちゃんと態度を変えられる強さ」を持ってる。

それ、簡単じゃないのよ。


賢政が真柄を引きつけてくれたおかげで、

光秀と久政様は一乗谷側を突いた。

敵は内部分裂のまま崩れ、

勝者は――浅井と、美濃の名。

合戦後。

久政様は、賢政の肩に手を置いた。

「賢政。よう耐えた。

 お前が持ちこたえたから、勝てたのだ」

賢政は、涙をこらえながら、

父の手を握っていた。

(……やっと見えたのね。

 父上の“見えぬ強さ”が)


そこへ馬が一頭。

前田利家。

「ヨシエ殿!

 御庭番より伝令!

 京にて三好勢、兵を並べております。

 利尚様、まもなく京入り!」

……やっぱりね。

戦国って、

勝った瞬間に、次が来る。

アタシは息を吸って、久政様に頭を下げた。

「ここから美濃は、京へ向かいます」

次の嵐へ――。


「――ってわけ」

アタシはグラスを置いた。

「見えてる強さだけが、強さじゃないの」

青年は黙って、

燻製の鯖を口に運ぶ。

「……賢政も、久政も、ヨシエさんも、

 それぞれ“見えない強さ”があったんですね」

「そう。

 あんたも部下を見るとき、

 表に出てるとこだけで判断しちゃダメよ?」

青年の肩が、少し軽くなった。


◆今夜のお酒とおつまみ

古酒ブレンドの熟成日本酒(常温)

若さと年輪が混ざり合う深い味。

見えない部分の積み重ねが、旨みになる一杯。

鯖の燻製 × 大根おろし

クセを削いで、旨みを引き出す組み合わせ。

相手の“隠れた良さ”を信じるための一皿。

強さってね、

一番見えにくいところにあるの。

怒らない父。

支える補佐。

態度を変えられる若さ。

全部、派手じゃない。

でも、折れない。

第二十一夜は、

「見えないものを見抜けるか」が分かれ道だった夜。

さて――

京が、騒がしくなるわよ。

次の夜も、

ちゃんとグラス冷やして待ってるから。

また来なさい。

バー〈ゴールデン戦国〉でね。

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