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おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―  作者: ほまれ


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第十八上夜 白露の葡萄、霜晴の乳

あたしのバー〈ゴールデン戦国〉へようこそ。

今夜のお話はね――“育てることの意味”についてよ。

誰だって、自分の手で大事に育てたものが、誰にも認められなかったり、まだ早いって言われたりして、もどかしくなるもの。

でもね、歴史の中の人たちも、そんな瞬間を抱えながら、少しずつ未来を変えていったのよ。

今夜の主人公は、利尚様を支え、葡萄を育て、チーズを作ったヨシエ――あたしの前世の陰キャ女子。

彼女が見せてくれるのは、“手をかけたものが実を結ぶ瞬間”の小さな奇跡。

青年がドアを押して入ってきくるやいなや、

どこか沈んだ顔でコートを脱ぎ、席にすとんと落ち着いた。

「……ママ。あのさ、職場で……努力して育ててきた企画をさ、

 上司に“まだ早い”って言われて、出せないんです……」

あたしは磨いてたグラスをくるんと回してウインクしたのよ。

「いらっしゃい。今日のあなたにはねぇ……“効く”お話があるのよ。

  ちょっと深呼吸ね。まずは座って、肩の力抜きなさい。」

あたしは小瓶に入れといた乳白色のお酒をとくりと注ぐ。

「――“白露ワイン”。

それに、炭火で焼いたチーズせんべい。ほら、まず一口いって?」

青年はおそるおそる口に運び、眉がほどけた。

「……甘いのに、ほっとしますね……」

「でしょ? 今夜の物語はね、“育てたものが形になる”夜なのよ。

利尚様、千代殿、芳姫、お市ちゃん……

みんな、苦労して育てたものを未来につなげたの。」

グラスを片手に、あたしはそっと囁く。

「さ、物語に入りましょ。

今夜は“試飲会の夜”……美濃がひとつ先へ進む節目よ。」

――空気が静かに切り替わる。


岐阜・長良川上流の酪農地帯(回想)

ここはね、あたしが利尚様の体を壊させないように、

未来知識をフル動員して整えた“美濃の健康補給基地”みたいな場所よ。

最初は湿気だらけの荒れ地で、

牛なんて連れてきても落ち着かないわ、雑木に虫はわくわ……

もうね、髪かきむしる毎日だったの。

でもねぇ――“守りたい人がいる”って、すごい力をくれるのよ。

農夫たちが木桶を抱えて駆けてくる。

「ヨシエ殿! 今日もよう搾れましたぞ!」

桶からミルクが波立ってこぼれそう。

あたしはそれを温め、固め、塩で整え、布で包んで……

ようやくチーズができるの。

最初のころ?

もう言わないで。

しょっぱいだけの塊、酸っぱすぎて犬も逃げる物体よ。

でも、ある日。

利尚様がそっと口に含んだ。

「……旨い。これは……力が出る味だ。」

その瞬間、アタシの魂が震えたわ。

「ひ、ひゃっ……! あ、その……よ、よかったです……!」

あの頃のアタシは、嬉しいと逆に目が泳いで黙るタイプなのよ。

かわいいでしょ?


白露の葡萄 ── これもまた苦労の果実なのよ。

伊勢の商人が、海の向こうの商人筋から“正体不明の苗”を手に入れたの。

誰も価値がわからない。

でも、アタシは知ってた。

(……こ、これは……ブドウ……!

 ワイン……! ポリフェノール……!)

そこからが地獄。

雨で枯れる、虫に食われる、甘くならない……

何度も夜の畑で膝を抱えて泣いたわ。

でも、3年目。

葡萄が深い紫に熟れて、ふわっと甘い香りを放った。

――白露ワイン誕生。

今日はその初搾りを開けるのよ。

霜晴のミルクとチーズと一緒にね。


それから、稲葉山城から名を変えた岐阜城の大広間で、試飲会を開催したのよ。

大広間には、

霜晴のミルクの甘い香り、炙ったチーズの香ばしさ、

そして白露ワインの華やかな葡萄の匂いが広がり……

まあ、幸せの空間だったわ。

集まった顔ぶれは豪華。

六角義賢

浅井久政・賢政親子

織田信長・濃姫・お市

明智光秀

竹中半兵衛、妻のつき(守就の娘)

美濃三人衆(安藤守就・一鉄ら)

雪斎、松平元康、井伊直盛

そして千代、芳、お市

……権力のデパートよ、ほんと。

食はね、全員をひとつにするの。事実よ?

あたしはコルクに手をかけて言ったの。

「――開けますね。白露の初搾りです。」

ぷしゅ。

甘やかな葡萄香が広がる。


信長ちゃんがまず一口。

「ほう……これが酒になるのか。葡萄というもの、面白い。」

濃姫は香りに目を細める。

「……華やか……まるで花の香り……。」

芳姫は穏やかに微笑む。

「ヨシエ殿……美濃の誇りとなりましょう。」

千代は利尚の袖をそっと引いて。

「ねえ……利尚様に似合う味です。」

お市は袖をくいくい。

「……利尚様、おかわり……」

(かわいい……!)

利尚様は静かにひと言。

「……旨い。ヨシエ、これは――美濃の新しい力となる。」

アタシ(戦国)は両手を胸の前で握りしめて真っ赤。

「っ……あ、あの、その……!

 う、嬉しいです……! ほ、ほんとに……!」

白露の葡萄が場を和ませたあとのことよ。

利尚様が手を軽く叩いて、あたしが用意しておいた小皿を人々に配らせたの。

そこには──

しっとり白く、薄桃色の皮をかすかにまとった、あたし特製の《霜晴しもばれチーズ》。

武将たちも、まずは目で味わうのよね。

さて、最初に口を開いたのは光秀だったわ。

光秀は箸先でそっとチーズを持ち上げ、

まるで宝物に触れるみたいに静かに口へ運んだの。

「……っ。

 これは……想像よりも、深い……。

 乳の甘みと……この発酵の香り……

 兵糧としてではなく、“献上品”の品格がある。

 これほどのものを……この地で作れるのか……」

光秀の目が、ほんのすこし揺れたわ。

あれはね、食べ物に“理”を見つけたときの光秀特有の顔よ。

次に安藤様。

この人は豪胆そうに見えて、食に関しては妙に繊細なのよねぇ。

「む……! ほほう……!

 口に含むとやわらかいのに、後からくる香りが強い。

 これは……酒にも合うのう。

 白露の葡萄酒と合わせれば……戦の席も明るくなるわ!」

守就は笑いながら、

ほら、つきちゃん見てごらんと言いながら、

横にいた半兵衛の妻・つきに小皿をそっと寄せたの。

つきは控えめに手を合わせてから口に運んだわ。

「……あら……。

 おいしい……。

 やわらかいのに、しっかりしていて……

 なんだか……身体まで温かくなる味です……」

その横で半兵衛が、つきの口元にそっと布を当ててやるの。

「おぉ、つき……。

 口に合ったようで良かった。

 ヨシエ殿、我が家にもぜひ分けてほしい。

 つきが笑えば、私の戦は半ば勝ったようなものだからな」

つきの耳が、ぽっと赤く染まったわ。

あたしもつい、胸がきゅっとしたものよ。

そして雪斎殿。

彼が口にするまで、その場の空気が一段引き締まったのを覚えてる。

「……ふむ。

 これは……“静”の味ですな。

 乳の柔らかさがまず心を鎮め、

 次にほのかに残る酸味が、

 舌に“気”を灯す……。

 人の心を整え、争いをおさめる力……

 食とて、立派な“道”を持つものですな」

……あの雪斎が、わずかに微笑んだのよ。

あれは滅多に見られないものよ、ほんとに。

あたしは陰キャなくノ一だったけど、

このときばかりは胸を張りたくなったわ。

六角義賢様は、ワインをくるくる回して光を見る。

この男……ほんと貴族ぶりが似合うのよねぇ。

「ほぅ……なるほど。

 この葡萄酒は“若い香り”を残しつつ、

 舌の上で落ち着きを見せる……。

 霜晴のチーズの塩香と合わせると、

 葡萄の甘みが一歩前に出る……

 まるで“娘を送り出す親”の気分だ」

(あんた比喩が急に文学。そういうとこ好きよ、義賢ちゃん。)

義賢様は軽く頬をゆるめて。

「ヨシエ殿。

 これはただの酒と乳製品ではない。

 ――美濃の“新しい文化”だ。」

もうね、褒められると陰キャヨシエは固まるのよ。

「ひゃ、ひゃいっ……!

 そ、そんな……っ、恐縮です……!」


久政様は義賢様ほど語りすぎない。

けど、静かに一口ずつ噛みしめて、

食べ物の“機微”を感じ取るタイプなのよ。

「……ほぅ。

 このチーズ、やわらかい口当たりのあと、

 ほのかな酸味が残りますな。

 そこへ白露の甘い香りが重なると……

 うむ……“山里の朝”のような……

 静かな調和を感じます。」

(あたし、こういう言い回し好き……控えめで情緒があるのよね。)

最後に一鉄様。

あの“喝!”の人よ。

味に嘘をつかないガチ勢。

杯を置くなり、ぶっきらぼうに言ったの。

「……ふん。」

(えっ……だめだった!?)

と思った瞬間よ。

「“いい”。

 この葡萄酒、喉にすっと落ちる癖に……

 後から芯が残る。

 チーズの塩味が、その芯を引き出す……。

 この二つ……“喧嘩して勝ち残った者同士”の味よ。」

……比喩が戦うのよ。

さすが武家の猛者。

でもそれが一鉄様なのよねぇ。

そして、一鉄様は気難しそうな顔のまま言った。

「ヨシエ。

 これは使える。

 兵を動かす朝にも、

 腹を満たす静かな夜にも“効く”酒だ。」

こわもてだけど、

それは全力の称賛だった。

陰キャヨシエはもう無理よ。

「ひっ……は、はいっ……!

 あ、ありがとうございます……っ!!」

(かわいい。あたしも昔はこうだったのよ……)


宴が盛り上がってきた頃、

門の外から静かな声。

「旅の僧、白露の香りに惹かれ、再び参りました。」

入ってきたのは……もうどう見ても謙信ちゃん。

信長がぼそっ。

「……毎度この“試飲会の日”をなぜ知っている……?」

(ごめん、それアタシが呼んでるの……!)

そこへ利尚様が全力で駆け寄る。

「信濃を抑えてくれたおかげで、 朝倉も武田も動いておらぬ!

 そなたのおかげ――」

会場、凍る。

僧(謙信)、目が点。

「え……あ、あの……?」

あたしはヨシエモードで飛び込む。

「と、利尚様ぁぁ!? だ、だめですってば!!

 そ、その僧の方は……そ、そんな……知らない……はず……!」

利尚様はこてん。

「……そうなのか?」

(かわいいけど! 空気読みなさい!!)

謙信ちゃんは困ったまま白露ワインをひと口。

「……雪国の水に似ている。

 いや……もっと、豊かだ。」

その横顔はとても満足そうで、あたしは心の中で笑ったわ。

(うん、あなた……また来るわね。)


青年はグラスをそっと置き、少しだけ顔を上げた。

「……なんだか、勇気が出ます。俺も……企画、諦めずに育ててみます」

「でしょ? 育てたものって、出すタイミングも大事だけど、ちゃんと価値は残るのよ。

美濃のチーズだって、葡萄だって、あたしが信じて育てたからこそ今ここにあるの」

青年は微笑んで、少しだけ肩の力が抜けたみたい。

「……よし、明日、もう一度上司に話してみます」

「そう、それでいいのよ。あなたの手で育てたものは、必ず誰かの心を動かすから」

あたしはグラスを軽く掲げてウィンクした。

「さて、次の夜は……“六将・御庭番・上洛の誓い”。

次はもっと熱い物語が待ってるわよ」

白露の葡萄と霜晴の乳――この二つは、戦国のヨシエにとって、利尚様のために育てた“小さな奇跡”だったの。

そして現代の青年にも、同じことが言えるわね。努力して育てた企画も、思いを込めた仕事も、いつか必ず形になるのよ。

育てる過程は大変で、時には泣きたくなるくらい辛い。

でも、信じて手をかけたものは、必ず誰かの心を動かす。

それを教えてくれたのが、今回の物語の白露ワインと霜晴チーズなのよね。

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