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おかまバー〈ゴールデン戦国〉の夜話 ― 推し義龍様と転生ママ ―  作者: ほまれ


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第十二夜 『熱田の炎と、義の絆』

信念って言葉、綺麗に聞こえるけど――

実はね、とても孤独なものなの。

人を遠ざけ、誤解され、それでも折れずに貫く。

そんな夜を、あたしは一度、見たことがあるの。

燃える熱田の空の下。

誇りと愛と義が交錯した夜。

今夜はその話を、静かに、でも熱く語らせてちょうだい。

カウンターの青年が、グラスの氷をゆっくり回しながら、ため息をついた。

「俺さ……ずっと自分が正しいと思ってやってきたんですけど、結局みんな離れていって。

 上司にも“もう独りよがりだ”って言われて。信念って、なんなんすかね。」

 あたしは静かに笑って、手元のグラスを傾けた。

「……信念ってのはね、時にまわりを敵に回すくらいの強さがいるのよ。

 でもね、それを貫いた先で、本当に分かり合える人が、ちゃんと残るの。」

 青年は小さくうなずいた。

 あたしは炭酸の泡が立つ音を聞きながら、ゆっくり言葉を続けた。

「その話、昔にもあったのよ。燃え盛る熱田の地で、信念のために戦った男と、

 その男を救おうとした“義”の人の物語――聴く?」

 青年は無言で頷いた。

 あたしはグラスを彼の前に置き、ほのかに笑った。

「じゃあ、今夜は少し熱い夜の話をしましょうか。」

熱田北方の丘に、利尚様たちは陣を敷いていた。

眼下には黒煙を上げる街。燃えさかる屋敷、崩れる塀。

その下で、兵たちの叫びと金属の響きが交錯していたわ。

その光景を見た犬千代が突然駆け出したの。

「ヨシエ殿、世話になった。槍しかしらぬ某に様々な体術を教えていただき感謝する。」

そう叫びながら燃える街の中に消えて行ったわ。

(そう、主のもとへ行くのね)

あたしは、そう心でつぶやいて見送ったわ。

犬千代を見送ったあたしたちは、遠くに織田信勝と柴田勝家の軍に責められる熱田の町をみたの。

「……信長と信勝が、真っ向からやり合ってるわね。」

あたしが呟くと、光秀様が静かに頷いた。

「しかも今川の支援を受けた信勝の軍勢。兵力は三倍。まともにやれば押し潰されます。」

一鉄様は拳を鳴らして笑った。

「三倍か……ちょうどいい試し斬りじゃ!」

けれど、利尚様の声は低く冷たかった。

「焦るな。一刻の判断を誤れば、濃姫殿が危うい。」

その一言で、空気が引き締まった。

あたしは頷き、丘の影へと駆け出した。

(濃姫様の想いが知られたら、利尚様は……)

心の奥で、その不安が何度も揺れた。

でも、止まるわけにはいかなかった。


燃える屋敷の中。

信長様は剣を杖のように突き立て、疲弊した兵たちを励ましていた。

だが、誰が見ても限界だった。

兵は疲れ、津島の商人たちも離反し、補給は尽きかけている。

それでも、信長様の眼だけは、まだ炎を失っていなかった。

「――もっと早く、美濃へ帰すべきと分かっていた。

 だが離れられなかった。多くの仲間が散った今、そなただけがいてくれる。」

信長様は、濃姫様の手を握りながら、かすれた声で言った。

濃姫様の瞳が揺れ、涙が光を帯びた。

「……信長様。あなたはいつも強い顔ばかりして……。

 本当は、誰よりも人を想っておられたのですね。」

お市様が腕を組んでふくれっ面で言った。

「私もずっといましたけどっ!」

その声に、信長様がわずかに笑った。

一瞬だけ、炎の中に家族の温もりが戻った。


その時、外から大きな喚声が響いた。

「美濃勢だ! 斎藤の旗が来たぞ!」

あたしたちが火を抜けて駆け込むと、信長様は刀を構えたまま振り向いた。

「――利尚。ついにわしを滅ぼしに来たか。」

間を割って、濃姫様が慌てて立ちはだかる。

「お兄様、信長様を切るなら、濃を先に!」

そして、信長様の横にはあの犬千代がいたの!

犬千代は、槍をこちらに向けて言ったわ。

「我こそは、前田又左衛門利家なり。信長様に向ける刃は俺が全てへし折る。」

そう声高に名乗り出たの。

(本当に、前田利家だったの…)

あたしは、本当に驚いたわ。

でも、信長は

「利家、良い!濃と市を逃がせ!」

といって、前へ出てきたのよ。

利尚様は静かに頷き、燃える柱の向こうで信長様を見据えた。

「我が目的は濃姫殿の救出。それだけだ。」

信長様は一瞬言葉を失い、やがて、かすれた声で呟いた。

「……ならば頼む。濃と市を、連れて逃げてくれ。

 この戦、もはや持たぬ。わしはここで散ろう。

 利家、お前は斎藤に降れ。」

「いいえ!」

濃姫様が叫んだ。

「信長様が助からないなら、私もここで果てます!」

利尚様の目に、複雑な影が走った。

一瞬だけ、彼は目を閉じ、そして光秀様へと声を飛ばした。

「――光秀、信勝を退ける策を講じよ。」

光秀様は即座に布陣を描き、堀を利用した奇襲を敢行した。

利家も突撃してきた勝家勢の槍の列を横から断ち切り、熱田の町の外へ押し出す。

それでも、兵の数は圧倒的に不利。

火の粉が降り、焦げた血の匂いが夜風に混じる。

「これ以上は……もたぬか……」

光秀様が低く唸ったその時、地響きが鳴った。

丘の向こうから、無数の旗が現れた。

「斎藤様の援軍だ!」

月を背に立つ男が、声を張り上げた。

「遅れてすまぬ、利尚様。」

竹中半兵衛だった。

その背後には、浅井と六角の連合軍が続いていた。

その光景に、あたしは息を呑んだ。

――利尚様が築いた「義の絆」が、今ここで花を開いたのだ。

圧倒的な兵力差で、信勝と勝家の軍は崩壊していく。

熱田を覆っていた炎の色が、次第に夜空の青へと戻り始めた。


炎の中で、濃姫様は泣きながら信長様にすがりついた。

「よかった……生きていて……。」

利尚様は、その様子を複雑な表情で眺めてたわ。

信長様は利尚様に気が付いたのか、近づいてきたわ。

そして、静かに笑って、利尚様に深く頭を下げたの。

「恩に着る。――この命、そなたに預けよう。」

利尚様は、信長を起こしながら、

「父が認めた其方の才を、尾張や美濃のため存分に振るってくれ。まずは、二人で尾張を平げようぞ。」

と答えたわ。

(利尚様、凛々しい…。利尚様と信長様の連合なんて、夢に描いてたようだわ…)

目の前の光景に興奮していたあたしに

利家がすごい勢いで近づいて

「犬千代あらため前田利家、改めてヨシエの弟子としてよろしく頼む!」

と足元に土下座したの。

「え…、信長様のもとにいなくていいの?」

あたしは、驚きながらもなんとか声にしたわ。

なのに

「いづれ信長様のもとで力を発揮するため、また修行をつけてくれ。」

だって。

利尚様の方を見ると、

「受けろ」

とだけ言うのよ。

利尚様から言われたら断れないわよ。

そんな中で、お市様は利尚様を見つめて、頬を赤く染めていたわ。

「……お兄様より、ずっと頼もしいかも。」

あたしは苦笑して、

(やれやれ、恋の火種がまた一つ増えたわね。)

って、心でつぶやいたのよ。

その光景を、遠くの丘から見ていた影があったわ。

「歴史が……変わった?」

藤吉郎――そして小一郎。

二人は無言のまま、燃え尽きた熱田を見下ろしていたの。

炎の残光が、彼らの未来を、ほんの少し照らしていたわ。

あたしはグラスを磨きながら、静かに口を開いた。

「ええ、信念を貫くって、時に孤独で痛いの。

 でもね、その炎の中でこそ、人の“義”が光るのよ。」

青年は黙ってグラスを見つめていた。

その瞳には、少しだけ迷いの奥に灯る光が見えた。

青年はそっとグラスを持ち上げ、静かに呟いた。

「……自分の信念、もう一度信じてみます。」

あたしは微笑んで、彼のグラスに軽く自分のグラスを合わせた。

氷の音が響く。

それは、遠い戦の夜に交わされた、あの“義の絆”の残響のようだった。


今夜の一杯:スモーキー・ハイボール

 アイラモルトにほんの少しレモンピールを落として。

 焦げたような香りの奥に、やわらかな甘さがある。

 戦の炎が過ぎたあとに残る、静かな余熱の味よ。

おつまみ:燻製チーズとドライ無花果の蜂蜜がけ

 塩気と甘みが寄り添って、強さと優しさがひとつになる。

 利尚様と信長様――二人の“信念”を思わせる組み合わせ。


熱田の夜――あの炎の中で、誰もが信じるものを試された。

利尚様は人を救う“義”を貫き、

信長様は孤独の中で“誇り”を守った。

そして濃姫様は“想い”を捨てなかった。

信念ってね、正しさのためにあるんじゃない。

心の奥にある“譲れない何か”を守るためにあるの。

燃えて、焦げて、傷ついて――

それでも立ち上がる人の姿こそ、美しいと、あたしは思うの。

今夜もその強さを、あなたのグラスに注いでおくわ。

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