プロローグ
その町にはとてつもない奇妙な男がいる。
幽潟町三丁目の古びたアパートに一人で住んでいるらしい。
そのとてつもない奇妙な男は毎週月曜日に人を消すようだ。
ほら、いつか。あなたの隣から、とてつもない奇妙な男が蛙の小便をかけてくるぞ。
――――――
「じっちゃん? どうしたの?」
「おお、たっちゃんか。今日は月曜日だ。庭から蛙の鳴き声がうるさく聞こえてくるから、朝から心臓の調子が悪いんだよ」
「心臓? 調子悪いんだったら、寝てなきゃ」
「お、おう」
ぼくはじっちゃんを布団で寝かせるため、強引に後ろにある襖を開けて寝室まで連れていった。
じっちゃんの顔は、真っ青だ。
布団を広げて、その中にじっちゃんを押し込むと、ぼくは庭を見た。
真夏の酷な日差しを浴びる花壇の周りから、蛙の大合唱がする。今日は月曜日。人が消える日だ。
8月に入ったばかりのぼくの夏休みは、まだほんのちょっとあるんだ。
夏休みが終わるまでに、宿題は全然やってないけど、山先生から頼まれた夏休みの研究はこれからやろうとしているところだった。研究といっても、自由研究だ。
けれども、昨日にそうちゃんが、いっていた。この町には、大きくて古い駄菓子屋が一つあるんだ。だから、その駄菓子屋で自由研究を始めようって、そうちゃんがいいだした。
さて、どうしようかな?
頭の良いそうちゃんは、何を考えたのかな?
ぼくは、そうちゃんとともちゃんに会うため。駄菓子屋へ向かった。
真夏の空が広がるじっちゃんのひまわり畑を通って、建物が多い商店街へとたどり着くと、夏の風がTシャツの乾いた匂いを運んできた。匂いを辿っていくと、そうちゃんが駄菓子屋の前でラムネを飲んでいるのを発見。
言い出しっぺのそうちゃんが、朝早くから来てラムネを飲んでいたのだ。
そうちゃんの隣に、ともちゃんがいた。しきりにすももの酸っぱい汁を飲んでは、顔をしかめている。
そうちゃんは、空になったラムネの瓶を屑籠に捨てると、自由研究のことを唐突にいいだそうとした。
ぼくは、急に不安になって頭がグラグラしてきた。
「この町に移り住んだ。とてつもない奇妙な男を研究しようよ」
ぼくはそうちゃんの言葉を、別に意外とも思わなかった。