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マーガレット

 二十年後、かつての領地……ハサルエシアは二十年前とは見違えるほど豊かな市となっていた。身分の差もなく、飢える人々もいない。まさに理想の地であった。


 市長オスカーにはアンナという妻との間に二人の娘が生まれていた。年子の娘たちはそれぞれマーガレット、アイリスという名だった。マーガレットは栗色の髪の母親似、アイリスは鴉色の髪の父親似だった。


 今日はマーガレットの17歳の誕生日だ。誕生日パーティーが開かれる為、マーガレットは白地に黄色と緑色の刺繍が入ったドレスを着ていた。マーガレットは、天真爛漫という言葉がよく似合う娘だった。明るく友人も多く、人気者だった。


「メグ、お誕生日おめでとう。私からのプレゼントよ」

「わぁ!ありがとう、リィ!中見てもいい? 」

「もちろんよ」


マーガレットは、アイリスが渡した包みを嬉しそうに受け取り、リボンを解いた。中からは三つ……本と刺繍されたハンカチ、そしてマーガレットの花の飾りがついた真鍮製の髪飾りが入っていた。


「まぁ素敵!母さん、この髪飾りなんて今日のドレスに似合うと思わない? 」

「そうね、着けてあげるから後ろ向いてちょうだい」


その様子を見てアイリスは貰った当人のように嬉しそうに笑っていた。そして自信満々にこう言った。


「当たり前よ。だってその髪飾り、ドレスに合うように選んだんだから。この本も欲しがってたでしょう? 」

「よく覚えていたわね!本当にありがとう、嬉しいわ」


アイリスはマーガレットと性格は似てなかった。しっかり者で学業の成績も良く、周りから一目置かれる存在だった。


「……にしても、刺繍はとても上手ね。売り物みたいじゃない。ここまでとはいかなくてもメグももう少し……」

「も〜!人によって得手不得手あるのよ!誕生日くらい小言はいいでしょ〜」


確かにアイリスの刺繍は素人のコンテストで一番を取ったことがあるくらい綺麗だった。もともと得意なんだろうが、身内であそこまで得意な人はいない為、どこでそんな才能を得たのか、周囲は不思議がった。


「マーガレット、誕生日おめでとう。ドレス、とても似合っているよ。髪飾りもね」


彼女らの父、オスカーが三人の輪の中に入ってきた。


「父さん!ありがとう、この髪飾りはね、リィがくれたのよ!ドレスに似合うように選んでくれたんですって」

「それは似合うわけだ。それにしても二人とも、大きくなったね。あんなに小さかったのに」


とオスカーは、娘たちの成長に目を細めた。この市に革命が起きてから約二十年、あの悲惨な時代を知らない娘たちがもう立派な大人になったことに、彼は感慨深さを感じていた。


「それはそうと、リィはそれでいいの?いつもと変わり映えしないわ。何かアクセサリーでもつけたらどう? 」


マーガレットの言う通り、アイリスは鎖骨が見えるほど開いた白い襟のついた紫色のドレスに、同じ色のリボンをハーフアップにした髪に結んであるだけだった。


「十分だわ。あまり好きではないし。それに、今日の主役はメグよ」

「そうかもしれないけど……あ、そうだ!私が今度リィに似合うのを選んでくるわ!」

「そうだね、それがいい……そろそろ昼食にしようじゃないか」


オスカーの一言で皆テーブルについた。貴族ほどではなくても、テーブルマナーには厳しい家だった。王族の居住区である中央に出ても恥ずかしくないように、というのが彼の教えだった。

 マーガレットの誕生日パーティーは夕方からである。パーティーといっても、議会の議員が数人と、家族の友人達で行うものであった。


「……にしても変ね、同じ先生に習った筈なのに、どうしてリィの方が所作が綺麗なのかしら? 」

「そうかしら……変わらないわよ。昔からだけど、人と比較するのは良くないと思うわ。良いところなんて、人によって違うじゃない」


アイリスが咎めても不満そうにするマーガレットに、アンナが笑いながらアイリスの言葉を補足した。


「そうね、リィの言う通りよ。確かに、リィは所作とか刺繍とか、細かいことが得意だけれど、メグは、みんなとお喋りしたり、友達の良いところを見つけたり、周りを笑顔にすることが得意でしょう?それは誰にでもできることではないのよ」


そして、リィは言葉足らずね、と付け加えた。


「リィの方が一つ下の筈なのにずっと大人に見えるけれど、それを言ったら大人の女性は人と比較するようなことは言わないわね。やめられるように努力するわ」


最近、マーガレットは、大人の女性は……というのが口癖だった。歳の近い子達でそういうのが流行っているんだそうだ。


「誰かと比べなくたって、二人は僕の自慢の娘たちだよ。……ああ、そうだ。アイリス、あとで執務室に来てほしい。話したいことがあるんだ」

「……わかったわ」






 オスカーが、執務室に入ると、既にアイリスは執務室の窓から街を見ていた。その面影は、オスカーに嫌な記憶を思い起こさせた。


「もういたのか……そこに掛けてくれないか? 」


部屋の中央にある来客用のソファにテーブルを挟んで向かい合って座る。


「それで、お話って? 」


にっこり笑ってそう言うアイリスに、オスカーは厳しい顔をした。


「単刀直入に聞く……お前は誰だ?少なくとも、アイリス・サンダーソンではないな? 」


アイリスはきちんと揃えていた脚の左を下にして組んでみせた。それから、右太腿に右肘を置いて、頬杖をついた。その顔は、先程とは打って変わって、オスカーを見下すように微笑んでいた。


「あら、やっと気がついたわね……さて、私は誰でしょう? 」


西洋文学っぽい書き方に憧れがあります。ちなみにこの話の時期は2月です。

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