89話 酔いどれヒロイン攻略法
※これまでのあらすじ
百合ゲーの異世界に転生してしまったネルは、自分が女勇者に成敗される小悪党だと悟る。そんな三年後の断罪イベントを回避し、ヒモニート貴族ライフを手に入れるため奔走していたが……。
なぜか破滅フラグを持つ女勇者パーティーのメインヒロインたちが、ネルの周りに集結しつつあった。
未来の大賢者、マナリア。
エリート姫騎士、アリス。
ギャル聖女、穴スタシア。
そんな彼女たちと一触即発な学園性活を乗り越えたネルだが、今度は隠しヒロインであるジャポン小国のミコト姫に協力することに。
近々、開催される『七国の英雄杯』は各国の代表選手が凌ぎを削る競技大会。
もはや国家間の代理戦争とも言える大会に、ネルと奴隷騎士シロナはジャポン小国の代表選手となる。
『奴隷』騎士として仕えるシロナの正体が……実は女勇者で、聖国と竜国の第一王位継承者と知らないまま、ネルは国際的な大会に出場しようとしていた。
しかも共に出場するジャポン小国代表の武士たちは実力に乏しく、このままでは苦戦は必定。
そこで訪れたのが、ドーピングを製作できる『錬金屋』だったのだが……。
◇
アルコイン・ヴァラード。
アホ妹曰く、ガチ百合では『酒カス永遠ロリ枠』として根強いファンがいたとか何とか。
真昼間からカウンターで酔いつぶれていても、確かに褐色のお肌はピチピチだし、床に届きそうなほど長い金髪もボサボサだが艶めかしい。
皮だけはサブヒロインに相応しい愛らしさを誇っている。
さすがダークエロフなだけはある。
「おらぁ……しゃけはどうしたあ……依頼、あるんにゃろ」
だがしかし、俺は知っている。
いや、俺じゃなくても察するだろう。
こいつは酒が切れるとまるで使い物にならなかった。
まず戦闘中は『吐いてるようだ』の連続で何もできない。
少しでも安定したパフォーマンスを引き出すには酒を与えなければいけない。
しかもガチ百合での酒は、ほぼほぼ課金アイテムでしか手に入らないという鬼仕様であり、一部界隈では銭ゲバヒロインとも言われるほどだった。
さらには酒を飲ませたら飲ませたで……泥酔デバフがつき、手元が滑ったとか転んだとかで、お得意の錬金物を味方に誤爆していた。
もちろん俺はガチ百合なんぞに課金するつもりもなく、酒カスヒロインは放置していた。
『愛もお金もないバカ兄には、アルちゃんの魅力を堪能できないよねー? うちのアルちゃんってば大天才でッ、万能薬作れちゃうから! どこに行ってもめっちゃ重宝だしビジュも完璧だし一生ペロペロできちゃうんだよねー? うわっ、状態異常を時間経過の自然治癒とかあ……プクククッ、どんな縛りプレイしてるのプククク』とアホ妹によく煽られたので、こいつには嫌な思い出しかない……。
ん。待てよ……?
他のヒロインやサブヒロインと違って、こいつってば酒さえ与えていれば割と何でも言う事聞くから……一周回って扱いやすいのでは……?
泥酔デバフによる多少の誤爆があるとはいえ、ギャル聖女よりパフォーマンスはかなり良かったはず。
しかも三年後にこいつが女勇者と出会って、『ネルわぁ、よくしゃけをくれたいい奴なんよ~』と俺の株を上げてくれたら、女勇者に処刑される死亡ルートを回避できるのではないか?
さらに今の俺は子爵令息の成金富豪。
この世界の酒ならいくらでも用意できるぞ。
これほど扱いやすいおクスリ製造機はいるだろうか、いやいない……!
「いいだろう、酒ならいくらでもくれてやる。だから『筋力爆強剤』と『狂心魔法薬』を作ってほしい」
俺がジャポン代表選手の武士に与えるドーピング作成を依頼すれば、目の前の酒カスロリヒロインさんはほんの少しだけ顔をしかめた。
飲んでいた酒が苦かったのか、カラになった酒瓶を憂いたのか。
彼女の心情はベロベロに酔いすぎていてわからなかったが、『ヒック』とおっさんみたいに喉を鳴らして宣ってきた。
「わっちゃ、たぁーっくさんのしゃけを飲んできたぁ、わっちゃを満足させるしゃけを用意できるならあ、作ってやるほお」
依頼を受ける側の分際で、まさかの条件提示までしてきやがった。
いちいち勘に障る奴だが、缶に触るだけのキャラをしている。
ちなみにアルコインの好感度アップアイテムは『ストゼロ缶ストロータイプ』だ。もちろんこの世界にそんな物は存在しないわけで……ストクッズ大商会に流通しているあらゆる酒でこいつを籠絡するしかない。
そんなわけでアルコインの錬金屋に数多の酒を送り届けた数日後。
改めて錬金屋に足を運べば、以前よりも濃厚なアルコール臭をまとわせた金髪ロリダークエロフさんがいた。
なんか……アルコール以外の異臭というか、雌ガキ臭い何かが混じっていて店内はむわっとしている。
「俺からの報酬に満足できたか?」
ストクッズ大商会を通して送られた品々は、物の見事に空っぽになっていた。
よくまあ数日でここまで飲み干せたものだと感心するが、全ては俺の思い通りになりそうだ。
「はにゃ? ああ、きみかあ」
アルコインはヘロヘロのフラフラでニヘラっと俺を見る。
服もはだけて、よくよく見れば酒以外の何かで濡れている。
「残念だけどぉ、わっちゃが飲んだことないしゃけじゃないとぉ、依頼は受けないのだあ」
全ての酒を飲み干しておいて、酒カスヒロインは堂々と宣言した。
……クッソが!
ほんと、ガチ百合のサブヒロインやってるわ。
そうそうこんな感じなんだよなあ、ガチ百合のヒロインたちって本当に役立たずだし、もらえるもんは容赦なくもらっておくのに扱いづらいクズなんだよなあ。
とはいえ、俺もこれまで数多のヒロインたちを相手にしてきた身。
こんなことでブチギレれていたら、とっくに破滅フラグを踏み抜いていただろう。
最近の俺は余裕があるし、まあなんだ。
酒カスの相手ぐらい余裕である。
「おい、酒カス。お前宛に我がストクッズ大商会から荷物が届いた際、サインをしたな?」
「わっちゃアルコイン・ヴァラードって名前がアルッ中にぃ、もちろん受け取りしゃいんはしたあ」
俺は酒カスが『受け取りサイン』と勘違いした契約書を目の前に突き付けてやる。
「ここには、酒を飲み干した金額分、ストクッズ子爵令息の依頼を受ける、と書かれている。その契約書にお前はサインした」
「へっ?」
「もし15日以内に完済できない場合、ストクッズ子爵家付きの奴隷薬剤師になる、とのオマケ付きだ」
「は、へ……?」
もうね、この際だからね。
三年後も奴隷として完全に幽閉しちゃえば、女勇者と会うこともないだろうし、俺が断罪される心配もない。こういうカスは絞って搾って握りつぶしてしまうのがよろしい。
「金貨400枚の最高級ワインが四本、金貨1000枚の伝説級ウィスキーを二本、金貨12000枚の今は醸造不可能な世界樹果実酒が一本、その他諸々の高級酒も合わせて……ふむ、ざっと金貨1万7000枚か。よくこの数日間だけで、これだけの量を飲めたな」
「なっへっ……そんな、不当な奴隷契約だろぉ」
「もちろんただの契約書じゃないぞ? れっきとした魔紋隷属契約だから、その身に奴隷の紋章が刻まれて抗えない」
「わ、わっちゃを甘くみるなあ。そんな奴隷紋なんてえ、解魔ポーションで消してくれるわあ」
「そちらこそ甘くみないで欲しい。お前の額に刻まれた魔紋はただの魔紋ではない。運命紋である」
「なっ、はっ、へえ……」
「俺の配下の騎士には運命属性を付与できる騎士がいてな」
最近、聖騎士へと叙爵してやったヘリオは、その切っ先に運命を刻む能力を有している。もちろん、一方的に相手の運命を決定づけるような強力無比さは、戦闘でしか発揮されないが、こういった契約書にも『相手が同意した証』さえ残せれば強制力を付与できる。
末恐ろしい配下である。
さてさて、酒カスヒロインは顔を真っ青にしながら、酔いを冷ますようグビグビと自作のポーションを飲んでいるが……一向に額に刻まれた運命紋は消えてくれない。
「くふぅ……わっちゃが奴隷、くふぅ……なにしてくれるのやあ」
酒カスダークヒロインは身をよじりながら、悔しそうに顔を歪めている。
ただ、なんか知らんが存外にも嬉しそうに頬を染めているのが不気味すぎた。
だから俺は容赦なく彼女の特性を封じ込める罰をさっそく命令しておく。
「じゃあさっそく一つ目の依頼を発表しよう」
「どんな命令をぉ、わっちゃに下すつもりじゃあ……」
「一週間は自慰行為、禁止で。報酬は金貨100枚ね」
「ぴ、ぴぁああっ!?」
一週間の禁欲生活で1000万円とか、ぶっちゃけ破格すぎる依頼だ。
しかし酒カスロリダークエロフさんは額の運命紋が輝くと、この世の終わりみたいな顔で突っ伏した。
金貨1万7000枚は巨額だが、いい投資だろう。
なにせ超絶便利なおクスリ製造機使い放題プランを獲得できたのだから。
スキル『ヒモ』が発動する関係性は気付けないだろうが……酒がなければ働かない、酒があっても不安定すぎるアルコイン相手に『自主的に俺のために何かする』なんて期待をしてはいけない。
だったら奴隷にした方が手っ取り早い。
「あるぇー、まってまって? ちみの依頼を達成できなきゃ、わっちゃ奴隷なんやろぉ? じゃあ、あるぇ?」
泥酔ヒロインはようやく気付いたようだ。
「今から……ちみはどんな依頼もふっかけれてぇ……あるぇ、無理難題な依頼をされたらぁ、わっちゃ奴隷確定!?」
サムズアップでにこぉっと笑ってやった。




