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88話 正ヒロイン予備軍


「ここが『創造の(あるじ)』という、何でも屋なのだな? マゾリリス子爵」


「は、はひい……くふっ、はふぅ、こ、こちらでございますぅ……」


 俺は自分より数十も年上の中年に向かって、ため口で道案内をさせていた。

 子爵令息である俺が、現子爵に対しこのような振る舞いは普通であれば無礼すぎる。しかし彼の立場上、仕方のないことでもあった。

 何せ獣人などの不当な奴隷売買を行っていた彼の悪事を明るみにし、その処断と処罰を任された家こそがストクッズ子爵家であるからだ。


 さらに言えば、我が領が発祥の地でもある紳士クラブ『母なる女王(マザーズ・クイーン)』の支店をわざわざマゾリリス子爵領に建ててやったので、彼は俺の言いなりでもある。

 今も人気の女王()を店外で付き添わせ、どこぞの不浄の穴を愛と罰(オモチャ)で封印する(たしな)み、『駄犬の散歩』コースを味わわせてやっているのだから。


 ちなみにドーエム侯爵やウケミント子爵は、今のところ利用価値が薄いので、かの領地には『母なる女王(マザーズ・クイーン)』の支店を出してやっていない。

 足繁く、我が領地にこそこそと通う重鎮たちの姿は滑稽だ。


 もちろん先日、『マゾリリス子爵領だけズルい、うちもお願いしましゅ。何でもしますからあ』との丁寧なお手紙をいただいている。

 まだまだ焦らして、ここぞという時に最高の条件を提示させればいい。


 まあ、あとはマゾリリス子爵だけ奴隷売買への厳罰が、伯爵から子爵に降爵と重かったのもあるから敢えて優遇してやった。

 これにはマゾリリス子爵もイチコロで、俺のような若造の案内を当主自ら買って出てくれたわけだ。


「では、案内はここまでよい。マゾリリス子爵はそのまま、うちの女王が誇る『駄犬の散歩』を楽しむがよい」

「こふぅっ、あいっ」

「ほら、駄犬! さっさといくわよ? 立派にあんよなさい?」


 愛と罰(オモチャ)が詰め込まれた尻を叩かれ、散歩は続行のようだ。さらにうち独自で開発した、従業員(女王)の魔力に反応すると振動する愛と罰(オモチャ)が猛威を振るっているようで、この地を治める領主の不甲斐ない姿が領民に晒されそうで、ギリギリのところで耐えるスリル感を楽しんでいるようだ。

 まあ、傍から見たら美女を同伴させる領主に……見えなくも、ないよな?

 ちょ、もうちょっとシャッキリ歩いてほしいところだけど大丈夫か?


 まあ、いいや。

 俺は、俺の用事を終えるべく『創造の主』の門戸を叩く。

【海の四大魔女】が一人、褐色ダークエルフさんの【黒波に乗る魔女ウェイブ】が困った時はここを頼れと紹介してくれたが、果たしてどんな錬金屋なのか楽しみだ。

 事前情報によると、ここではあらゆる万病に効く薬から、怪しげな媚薬まで何でも調合してくれる錬金屋らしい。

 さらには探偵やら冒険者やらの真似事もしており、『何でも屋』を名乗れるだけの実績があるらしい。


 一緒に【七国の英雄杯】に出場する予定の、大和皇国の武士(もののふ)たちは非常に頼りない。ここで強力なドーピングを調薬してもらおうって算段だ。


「評判のわりに店構えはこじんまりしてるけどな」


 俺はそんな独り言を落としつつ、木製のドアを開ける。

 内装はそのへんにある薬屋と同じような作りで、大きめのカウンターと背後の陳列棚には所せましに商品が置かれていた。


 そしてカウンターにはやる気のなさそうな店員が、ぐったりと頭をカウンターにつけながらこちらを一瞥して……そのまま目をつむってしまった。

 その褐色肌の少女は床につきそうなぐらいの長髪で、しっかり手入れをすれば輝きが戻る白金髪(プラチナブロンド)だが、今はボサボサで無精さが際立っている。

 年齢はおそらく11歳前後で、今の俺と変わらない年齢だろう。


 店番をさせられている子供か?


「あー【黒波に乗る魔女ウェイブ】に紹介された、ネル・ニートホ・ストクッズだ。店主はいるか?」


「うるへえ」


 ん?

 なんだ、この受け答えは。

 そして、なんだろう。

 この妙に苛立つ既視感は。


「ここは非合法の調薬に詳しいと聞いて、遠路はるばる足を運んだのだが。『筋力爆強剤』、もしくは『狂心魔法薬』の調合を依頼できるだろうか?」


「おしゃけ、くれたら対応してひゃるよ、ヒック」


 おいおい……この、ガキ。

 近づいてみれば、物凄く酒臭いじゃないか。

 って、見てる傍からカウンターの下にあったドデカイ酒瓶を一気に煽り始める。


「ぷっはあ……もう、このおしゃけにも飽きてきたあ」


 しかもよくよく見ればお耳が尖ってるので、【黒波に乗る魔女ウェイブ】と同じくダークエルフだろう。

 つまり見た目は11歳でも実年齢は20歳超えなのかもしれない。

 どおりで白昼堂々、接客中でありながら飲酒と決め込んでいるわけだ。


「もしかして……店主はお前なのか……?」


「いかにゃも。あと、お前じゃない、にゃまえある」


 俺はここまで彼女と話し、そして嫌な記憶を思い出した。

 それは『ガチ百合』で困った時のお助けキャラとして、用意されていたサブヒロインの一人だ。

 プレイの途中から……ウザすぎて顔も見たくないとの嫌悪感から、奴の風貌を記憶から抹消していたが……どことなく、目の前にいる少女はその面影があるような気がしてならない。


「……店主、名は?」


「わっちゃ、アルコイン・ヴァラードだおぉ」


「……ふーん」


「それで、しゃけ、くれるのか?」


「…………」




 ……クッソが! 


 こいつはあのッ、便利すぎるスキル『錬金女王』を持ちながら、アル中で酒癖が最悪のロクデナシ! 


『ガチ百合』の無能サブヒロインじゃねえか!


 おまっ、『ガチ百合』じゃ放浪……浮浪者だったはずだろう!?

 それがどうしていっちょ前に店なんて構えてんだよ!

 あっ、もしかしてこいつ……近いうち、アル中が祟って破産するとか……!?

 

 くっ、こんな奴と関わったら、ロクなことないぞ……。



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