87話 乱立する(死亡?)フラグ
『七国の英雄杯』は代理戦争である。
かの偉人、チッパー・イ・チク・ニストはそう宣言した。
かつて彼女は各国間で相次ぐ戦争に嘆き、人間とはどうしようもなく自身の欲望に忠実であると認め、であるならばその欲望への熱量を競技で発散させればよいと画策したのだ。
それこそが『七国の英雄杯』の始まりであり、七つの競技で優勝した者には『英雄』の称号を授与する大会となった。
ちなみに競技内容は参加する七カ国が、それぞれ一種目ずつ決定できる。
当然、各国は自国民に有利な競技にするわけだが……。
「今回の大会にもやはり……帝国の三冠英雄アレキサンディ・アーチヴォルトも参加するようです。かの英雄は冒険者ランクも【聖銀級】と折り紙付きの実力者です……」
ミコト姫が『七国の英雄杯』出場者表を見て、深刻そうにうなだれた。
帝国には前回の大会で三種目での優勝を果たし、歴代初の三冠を記録したスター選手がいるらしい。
「ただでさえ、吸血姫の血筋は厄介ですのに……」
実は帝国貴族のほとんどが吸血鬼で、帝国民を支配している。
『ガチ百合』の戦争編ではかなり苦戦した勢力だったけど、果たしてどれほどの強者が出てくるのか楽しみでもある。
なんて俺は他人事のように考えているが、ミコト姫にとってスター選手の存在は脅威でしかないだろう。
なにせ競技とは言え、国の威信をかけた戦いだ。
豊かな国は研鑽した技術を発展させ、確固たる人材を育める。『七国の英雄杯』はまさに各国の国力が露見する場でもあるのだ。
つまりジャポンは絶対にアメリオ帝国に負けられないのである。ここで再び無様な結果を晒そうものなら、『やはり今のジャポンは大したことない』、『ジャポンを庇護するオルデンナイツの目は節穴だ』、と評価される。
またオルデンナイツ側も『ポテンシャルの低いジャポンを守る価値なし』と判断し、あらゆる同盟条約の撤廃、もしくは変更が加えられる場合もある。
そうなると再び、ジャポン侵攻の隙をアメリオ帝国に与えかねない。
たかが競技であれど、その勝敗は国の行く末を決めかねない。
「ですが大和皇国には、ストクッズ伯爵がいます。それに妾やシロナ聖騎士、そして精鋭の武士たちもおります」
そう、俺は配信札のプロモーション戦略も含めて『七国の英雄杯』は、シロナと共にジャポン選手として出場する手はずになっていた。
選手としての出場権を確保してくれたディスト王子には申し訳ないが、事情を深く説明したら納得してくれた。
『ディスト王子。この配信札のプロモーションが上手くいった暁には……巨乳冒険者のプロデュース事業や、貴族令嬢向けの巨乳ファッションブランドの配信も計画しております』
『存分にジャポンの配信業を活性化させよ』
『ありがたきお言葉』
『無論、ネルよ。全ての巨乳配信において、僕からの資金援助をさせてくれ』
『全ての巨乳配信のスポンサー……主には逆らえませんとも。王子殿下の意のままに』
ほんと、巨乳を引き合いに出せばすぐに何でもかんでも承諾するし、支援もしてくれるんだからチョロい男装姫だぜ。
『それはそうとネル。我らが『全世界☆巨乳育成計画』の美学には反するが……例の物の開発は進んでいるのか?』
『ええと、大きな胸を小さくに見せつつ、胸の成長を阻害しないブラをご要望でしたね。なかなか研究開発に難航しておりまして。現段階では、異空間魔法機能をつけて胸部を収納するといった手法しかなく……そうなると、かなり高価な代物になってしまいます』
『コ、コストの面は今のところ構わない。プロトタイプでもいいから早急に形にしてくれ……!』
『しかし殿下、なぜそのようなブラを……? 巨乳は周囲に見せつけ、世界に誇るべき美なのでは? それを隠す機能などと本末転倒……我々が掲げる信念に反しませんか?』
『か、か、隠れ巨乳って美学もあるだろう!? せ、先日、ネルがくれたマル秘巨乳書物には……そ、その、男の子だと思っていた幼馴染が成長して再会したらッ、ぷりっぷりの巨乳に成長していてッ、すこぶる興奮したってシチュエーションがあっただろう!? あ、あ、あのようなロマンもあるのだなと……! だから、よいな? 何としても! 早急に作るのだ!』
いつも余裕の笑みを浮かべる殿下にしては珍しく、自分の胸元に視線を落としながら声を荒げていた。
『はあ、確かに一理ありますね。では、殿下がそこまで言うのであれば開発を急がせます』
『絶対にだからな、頼むぞネル』
よくわからないが殿下は焦っているように見えた。
まあもうすぐ13歳になる思春期だし、色々と刺々しくなる時もあるのだろう。
それから俺は『七国の英雄杯』に向けて、ミコト姫にジャポンの代表選手たちと顔合わせする機会を設けてもらった。
顔合わせとは言っても、実際は模擬戦であり各々の実力を理解する腕試しのようなものだ。
「さ、さすがは救国のストクッズ伯爵殿……」
「む、無念……我が剣術が……まるで歯が立たぬ」
「これほど巧みに四季神術を行使するとは……」
「天晴れでござる……」
ミコト姫によって選抜された武士たちには期待したものの……シロナや俺の足元にも及ばない結果になったので、正直言えば不安が残る。
Lvで言えば60に届くかどうかって辺りだろう。
弱くはないし、むしろ将軍級ではあると思う。
だけど、例えばアストロメリア王国であれば確実にLv70超えのマリアローズ公爵令嬢が出場してくるし、オルデンナイツ王国だって近衛騎士団長が出張ってくるらしい。さらにはアリス姫殿下も出場するので、相手としては不十分だ。
そこで俺は秘策を練り上げた。
そう、【海の四大魔女】が一人、褐色ダークエルフさんの【黒波に乗る魔女ウェイブ】が残してくれた言葉を思い出したのだ。
「こういう競技にはつきものだよな。ドーピン……実力の底上げをする裏技が」
「ストクッズ伯爵? なんだかとっても悪いお顔をしておられますが、一体なにを……?」
「いえいえ、ミコト姫。この短期間で武士たちを強化する秘策を思いついただけでして」
「そのような秘策がおありなのですか!?」
「確実とは言えませんが、信頼できそうな【何でも屋】の筋を頼ってみます」
「それは……何から何まで誠にありがとうございます。この『七国の英雄杯』が無事に終わった暁には、その……ぜひ【春宮花殿】での宴会にご招待させてください」
「【春宮花殿】と言えば……春篠宮家の人々しか入れない、由緒正しい宮殿では?」
「もちろん大和皇国の華族の中でも、春篠宮家の一族しか入殿できません。これは妾なりのお礼です。ぜひ妾にストクッズ伯爵を案内と、そして正式に一族に紹介させてくださいませ」
ほええ。
そんな立派な場所を案内してくれるとか、またまたヒモスキルが発動しそうで美味しいぜ。
「……ストクッズ伯爵ほどの殿方でしたら、おわかりでしょう?」
なぜかいつもより頬を赤らめるミコト姫。
賢い俺なら当然この意味がわかるよな? なんて意味深かつ妖艶な表情で語ってくるもんだから……『まるでわからない』なんて言ったら、自分は馬鹿だと言うのと同じなので、知ったかぶりで鷹揚に頷いてみせる。
「ふっ。当然ですとも」
ひとまず小悪党っぽい笑みで返しておいた。




