表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/88

82話 魔女集会


「行っちまうのかい、ネロ……いや、ネル様って呼ぶべきかねえ」

「まさかネロとパワーがお貴族様だったなんてねえ」

「お貴族様の中にも面白い奴がいるってもんだ」

「クソッ……ロードス辺境伯とストクッズ子爵の息子とかッ、クソッ、しかも長男じゃ家督継ぎだから引き抜けないじゃないか!」


 ロードス島からストクッズ領に戻る船旅の門出には、たくさんの人々が見送りに来てくれた。

 中には【海の四大魔女】もいて、彼女たちはかなり名残惜しそうにしてくれた。


「この【蒼玉(そうぎょく)を歌う魔女アクアネ】は、ダンジョンで命を助けられた恩を忘れないよ」

「【宴の魔女ストレングス】だってお気に入りさ。いつでも坊やのために宴を開こう」

「あんたに治してもらったこの右腕に誓って、海じゃあ【怪力魔女のアビルダ】はあんたの右腕だ」

「【黒波に乗る魔女ウェイブ】はいつでもいい波に乗せてやる。お前にクソほど追い風を吹かせてやる」


「私だって【海の四大魔女】とはこれからも懇意にさせていただきたく思います。何せストクッズ大商会の海上貿易(・・・・)(かなめ)は貴女方ですからね」


 そう、実は俺と【海の四大魔女】の間では堅い同盟が結ばれたのだ。

 もちろん交渉内容としては、【聖銀都市(シルバス・)を運ぶ海神(アトランティス)】の体内へ優先的に潜れる権利を【海の四大魔女】の傘下にいる海賊衆には許可している。そして甲羅の廃墟都市を復活させた暁には、上陸を許可する代わりに護衛役などを担ってもらう予定だ。


 とにかく今までストクッズ大商会は陸路をメインに販路を広げていたけど、海賊衆の協力を得て海路もフル活用できそうだ。

 もちろん海賊なので治安面での不安は残るものの、グウ君を海神様と崇める海賊たちは意外にも積み荷への略奪行為は絶対にしないと誓ってくれた。

 彼らも海から無事に陸へ戻れるよう、海上では信心深くなるらしい。


 となると今回のハーピィが囚われた問題は、空路を確保するために解決が必須となる。【両翼の娘(ハーピィ)】族はようやく奴隷の身分から解放されたと思えば、今度は聖国によって断罪される恐怖を覚えただろう。

 ハーピィ族のみなへ空輸部隊は安全だと示すためにも、ストクッズ大商会が陸・海・空の販路をいち早く牛耳るためにも、今回の事件は失敗できない。


「あんた、気合いが入ってるねえ」

「あたしらからの餞別だよ、受け取りな」

「これは本当に信用した子にしか渡してないんだよ?」

「クソほど困った時はこれを使いなね」


 そうして【海の四大魔女】から渡されたのは、薄い金箔と植物の装飾が散りばめられた手紙だった。


「こ、これは……【魔女集会の招待状】ですね?」


 やべっ。

【魔女集会の招待状】とか、めっちゃレアアイテムやん。


 俺は『ガチ百合』時代にゲットできなかったけど、アホ妹が『これを使えば~世界各地を根城にしてる魔女たちの力を借りれるんだ~! すっごく強くて可愛い子たちばっかりなんだからね!』とかなんとか自慢げに語っていたっけ。



「あら。知ってるのかい」

「坊やはただもんじゃないねえ」

「他の魔女にも気に入られてたっての?」

「クソッうちらが一番に目をつけたんじゃないのかい! わかった。じゃあ、他の魔女よりあんたを目にかけてる証として、クソクソクソほど困ったらマゾリリス伯爵領にある『創造の主』って何でも屋を頼りな。きっと力になってくれるさ」


 魔女は……軽視できない勢力でもある。

『ガチ百合』では敵対もできるし協力関係にもなれる存在だが、俺のプレイスタイルは彼女らとの敵対を選んだ。

 なぜならそっちの方が、歯ごたえがあったからだ。


【神聖ハイリッヒ帝国】側について暗躍する『魔女狩り編』では、特に【不死の魔女】や【時を刻む魔女】が強敵だったな。


 まあ今回は自分の破滅を回避できればいいから、今のところ彼女らと敵対するのは望んでいない。

 この【魔女集会の招待状】とやらも有効なタイミングで使わせてもらおう。



 そんなこんなで俺たち(・・)はロードス島を出た。

 今回、俺についてきたメンバーはミコト姫にギャル聖女、そしてマナリアさんだ。

 見事に『ガチ百合』のメインヒロインと隠しヒロインに布陣を固められてしまった。


 ちなみにパワード君は、この夏中にまだまだ父ロードス辺境伯から学ぶことがたくさんあるらしいので自領に残るようだ。俺の派閥衆の貴族子弟らも、せっかくロードス島まで来たのだから地中海風エリアを満喫するのだとか。


 そしていつも頼りになるディスト王子だが、今回の件でオルデンナイツ王族は関与できないとハッキリ言ってきた。


 というのも聖国は王国の古き同盟国であり、その同盟条約の中で『聖者認定』や『邪教徒認定』に口を出すのは禁じられているらしい。

 たとえ王族であっても神のご意思に逆らうのは許されず、もし仮にディスト王子が俺をかばって反発した場合、両国の関係はかなり悪化する。

 それにストクッズ子爵家が、正式に聖国より邪教徒認定された場合……王族が邪教徒をかばったとして、オルデンナイツ王族の沽券にも関わる。


 裏から支援できることがあれば何でも言ってくれと、ディスト王子や姫騎士は申し訳なさそうにしていた。


 正直に言うと頼れる仲間は少ないし、傍にいるのは危険極まりないメインヒロインや隠しヒロインばかりで不安が大きい。

 それでも軌道に乗りつつある販路拡大のため、将来はストクッズ大商会が俺の手足となって勝手に金を生み出してくれるよう!

 なんとかテキトーに切り抜けるしかない。


「異端審問官とやらへの対処法を考えるか……」


「ストクッズ子爵令息。それでしたら(わらわ)に良い案があります」


 ミコト姫のそんな発言を皮切りに、各ヒロインたちが船上で集まり出す。


「……ネルくんの……力に、なるです!」

「んんー? 作戦会議っち? ネル寝る練るっちのために、色々な案を練るっち!」


「では今回の騒動ですが、ストクッズ子爵領の民が邪教徒でないと多くの人々に証明するチャンスにしてしまいましょう」


 凛とした笑みを浮かべる和の姫君に、マナリアさんもギャル聖女も楽しそうに乗っかった。


「……ネルくんの……素晴らしさを、わからせる、です……!」

「いいねいいね! うぇーいって感じで大チャンスにするっち☆」


「具体的には————ストクッズ子爵令息に————してもらい——」

「だったらうちがグウと————民————洗脳——」

「……他にも……魔王ロザリア様、なる人物を————滅——」


 ひょっ。

 何やら勝手に話が進んでいるし、物騒な単語がチラホラ聞こえてくる。


 美少女たちが暗がりの中で互いに顔を合わせ……そして恍惚の笑みを浮かべ合う姿は、まるで怪しい魔女集会を開いているようだった。


 ……なんだろう。

 メインヒロインやサブヒロインの方がよっぽど『魔女』って言葉がお似合いな気がした。






GAノベル様より書籍化します。

さらに、コミカライズも同時決定いたしました!

ヤバい漫画になりそうで楽しみです。


読者の皆様。

これまでお読みいただきありがとうございます!

そしてこれからも、どうかよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
( *˙ω˙)و!良かったね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ