80話 海神と聖なる貴公子
「クソほどどうでもいい話だねえ」
マリアローズ、王子殿下、姫騎士の3人にピシャリと言ってのけたのは【海の四大魔女】の中でもひと際口の悪いダークエルフの……あれ、この人の名前なんだっけ?
そもそも【海の四大魔女】としっかり自己紹介した覚えがないし、一番小柄な【怪力魔女のアビルダ】さんぐらいしか名前を知らないぞ?
とにかくダークエルフさんに加勢するように、他の魔女3人も口々に言葉を浴びせてゆく。
「ネロがすごいってのはあたいらも承知さ」
「改めて王族だの青薔薇だのが出てきて、驚いちゃいるけど納得もしてるよ」
「何せネロは『冒険者』だからねえ」
彼女たちの言う冒険者には多くの意味が含まれていた。
冒険者ってのは生まれに関係なく、どこまでものし上がれる夢が詰まった職業だ。同時に多くの危険と、そして自由と責任をその身に背負う。
「【青薔薇】。あんたも冒険者の端くれならクソほどわかってるだろうが。冒険者は自由だって」
「その自由を縛り付ける権利がどこにあるってんだい?」
そして彼女たちは図らずとも、ストクッズ家の源流である【冒険家】の在り方を肯定してくれていた。
これはうちの起源を知っている王族2人や公爵令嬢も、俺を囲いたいのであれば無下にはできない。
「やんごとない方々にも理解できるんだろう?」
「冒険者も海賊も、栄光や宝に吸い寄せられる。自ら選び取って、勝ち取りにいくんだよ」
「冒険者と上手くやるなんてクソほど簡単さ。勝ち取りたいって思わせな!」
「選んでもらいなあ!」
そして俺と出会ってすぐにマリアローズが口にした『欲しいものは絶対に手に入れる主義なの』って言葉を引用するように、冒険者がどんな心持ちなのか証明してきた。
まるで『ネロを自分と同じ気持ちにさせてみな!』 と、冒険者としての先輩風を吹かせたのだ。
それにはなぜかマナリアさんやギャル聖女ですら、どこか納得した表情を見せる。
「どうだい、ネロ。うちの海賊船団に加わらないかい?」
「困った時はさっきみたいに助けてやれるよ?」
「うちの海賊船団のコックは最高でねえ」
「ちょっ、クソ! ネロ、あんたはどうして冒険者を始めたんだい!?」
ん?
偉そうに言ってたけど、要は【海の四大魔女】も俺を引き抜きたいわけで……さっき3人がやってたアピールと同じじゃ……?
まあ、この場で揉めるよりはマシだし、あとはマナリアの隣にひょっこり戻ればみんな【海底に沈んだ大陸亀】のダンジョン探索に集中してくれるだろう。
◇
俺が常にマナリアの隣でダンジョン探索を始めれば、全てが順調だった。
何せ俺がわざわざ動かなくともマリアローズや【海の四大魔女】、そして王族2人が張り切ってモンスターたちを駆除してくれるのだ。
おそらく彼女たちは俺を引き入れたいがために、自然と競い合っているのだろう。
「……異様な光景ですねん」
「ああ……ネロのために王族2人が奔走してるのもそうだがよお……絶大な力を誇る冒険者たちもネロのために道を切り開いてんぞ……」
カーネル伯爵令嬢とパワード君は張り切るみんなを見て、何やらポソポソと呟き合っている。おそらくその呆れ気味な表情から、カーネル伯爵令嬢は初めてのダンジョン探索を楽しみにしていたのに、その活躍の場をほとんどを奪われてしまったのと、パワード君はシンプルに鍛錬のチャンスを奪われたと不満に思っているのかもしれない。
そんな中、唯一ホクホク笑顔なのはマナリアさんである。
「……ネルくんは、私のそばに、帰ってくるです」
なんだろう。
隣にいるだけでこの上機嫌さを見るに、思ってたより何をやらかしてもチョロインなのでは?
とにかく今のところは楽すぎるダンジョン探索をしているわけだが……一つだけ気になっている点がある。
『ぐぅ……もっと右奥がむずがゆい』
それは誰にも聞こえてないであろうこの声である。
『ぐうぐう……左上が痛いぐう』
さっきから地底から響く大音量で、ひっきりなしにあそこがかゆいだの、あっちが気になるだのとうるさいのだ。
おそらくスキル【神獣語りLv2】が発動しているのだろう。もちろん声の主はダンジョン【海獣の大口】である【海底に沈んだ大陸亀】だ。
そして【海底に沈んだ大陸亀】がかゆいと言った場所に行けば決まって強力なモンスターが発生してたりするので、かゆみの原因はなんとなく把握できた。
なので俺は試しにスキルを発動しつつ、意識を【海底に沈んだ大陸亀】に向けて語り掛けてみる。
『かゆいところ全部、掃除してやろうか?』
『ぐう……!? ぐうの声に、理性ある声が反応したぐう!?』
おそらく【海上の白銀都市】人が理性を失い、魚人となって久しいのだろう。何百年ぶりの話相手が俺なのかもしれない。
『ああ、俺はネル。お前の声に反応したのは【海上の白銀都市】人ぶりか?』
『ぐうぅぅ……ぐうの友を知ってるぐう?』
『文献程度だけどな。で、どうする? 掃除してやろうか?』
『ぐう……ネルは掃除の代償に何を求めるぐう?』
うーん。
3年後に暴走するかもしれない神獣から『代償』ってワードが出るのはちょっと怖いな。
神獣界隈では何かを与えれば何かを得られる、つまり等価交換システムが常識だとしたら……【海底に沈んだ大陸亀】にとって体のかゆみはどれぐらいの重みがあるのだろうか。
『代償の話の前に聞きたい。身体のかゆみってのはひどいのか?』
『ぐううう……まだ、暴れ出すほどではないぐう。でも辛いぐう……』
なるほど。
このままかゆみが侵攻すればグウ君は間違いなく三年後にスタンピードを引き越して、王国近域の海を荒らすはめになる。
そしてそれを助長させる何かを、先日遭遇した【第三の笛吹き】とやらは仕掛けてくるのかもしれない。
【終末の笛吹き人】が人知れず、終末的な工作に奔走しているなんて迷惑以外の何物でもない。
俺の理想とする平和なヒモニートライフ世界を崩そうなんてそうはさせるか。
『特に何もいらない』
『ぐうう!?』
『しいて言うなら、俺と友達になってくれよ』
『そんなのでいいぐうか!?』
『まあな』
『人間は……欲深い……いつもぐうにアレやコレやと求めてきた……でも、でも……【海上の白銀都市】の友達だけは、ネルと同じ言葉をぐうに言った』
なにやらスキル【神獣語りLv2】のおかげなのか、勝手に勘違いしては好感度が上がったようだ。
なんだか期待されるのは嫌なのでここは正直に言っておこう。
神獣相手にあとであの時の言葉は嘘だったのかー! なんて怒られて海のスタンピードが起こってしまうかもしれないからな。それは俺のゆるゆるヒモニート海の幸満喫三昧の弊害になりかねない。
『いや。そんな大層な話じゃない。実は数年後にグウを狂わせて、破壊衝動に駆られる怪物にしようと企んでる連中がいてな。それを回避したいってのもある』
『じゃあつまり……ネルは、ぐうを守ろうとしてるぐう!?』
『あー……あとは海で取れるご飯が美味しいからさ。グウが海で暴れると魚とか逃げちゃうじゃん?』
『ぐう? ネルはお腹がぐーぐーぐうね?』
『まあ、うん』
『わかった、ぐう! じゃあぐうとネルは今日から友達ぐう! さっそく魚やるぐううう!』
『えっ!?』
俺が制止する前にグウはその巨大すぎる巨体を動かし始めた。
体内がダンジョンそのもののグウが動けば、もちろん中にいる俺たちにもその振動や轟音は伝わってくる。
ダンジョン攻略に勤しむ面々は何事かと警戒心がマックスになってしまった。
大振動はそれからしばらく続き、ついにその動きが止むとグウから再び声がかかった。
『大物を仕留めてやったぐう。ネルを出してもいいぐう?』
『あ、えーっと……ありがとう。じゃあ慎重にゆっくり、その……俺の近くにいる人たちも出せるか?』
『もちろんだぐう』
それからダンジョン内は波のようにうねり、一斉に壁が迫ってくる絵面は地獄だった。
「総員! 緊急退避いいいい!」
「クソが! こんなの初めてだよ!?」
「ダンジョンの壁にッ、の、呑まれる! 僕はっ、こんなところで!? せめてっ、パイパイに包まれてばぶうしながら死にた————」
「みんな落ち着いて! 大丈夫だから!」
俺が全力でみんなに呼びかけるも、さすがに数百人には届き切らない。
それでもなるべく混乱しないよう声を張り上げ続ける。
そうして俺たちはめくるめくダンジョンの壁に押し出され、ついには【海底に沈んだ大陸亀】のお口からペッされた。
もちろん【海底に沈んだ大陸亀】が調整してくれたのか、ダンジョンに入ってくるときに乗っていた船などもプカプカと海に浮いている。
さらには腹を見せてぷかーんと漂う巨大魚も目に入った。
直径50メートルはくだらない魚にちょっとばかり度肝を抜かれた。
『ぐう、ネルにあげる。美味しい魚ぐう』
『ああ……ありがとう』
しかし突然、海に投げ出された面々はそれどころではない。
「な、なんだよありゃあ……!」
「かめええっ!?」
「はめはああああ!?」
「う、海神様じゃねえのか!?」
「ぱわぁ……」
【海底に沈んだ大陸亀】を目撃した海賊衆たちは、船に泳ぎ戻ることすら忘れて驚愕と畏怖に染まっていた。
俺はこれ以上の混乱が広まらぬように【演舞春式Lv7】と【陽魔法Lv4】の複合スキルを舞う。
「————【俊足よ、煌めく運命、海風に】」
俺は海面に反射する陽光の輝きを足場に変え、さらに海風をステップするように上空へと駆けあがる。
強い光を帯びた俺の両足は、海賊衆やみんなの視線を集めるのに役に立つ。
「みな! 落ち着くがよい!」
それからそのまま俺はグウのビルよりも巨大でぶっとい頭部へと駆け寄り、そっと触れる。
「この者は我が友である! かつてその背に伝説の【海上の白銀都市】を背負いし【海底に沈んだ大陸亀】である!」
「【海上の白銀都市】って言えば……数百年前に消失した伝説の……?」
「本当に実在したのか?」
「おい、でもあの山みたいな甲羅の上を見ろ!」
「まじかよ……神殿? 廃墟みたいなんがあるぜ!?」
「宝の山か!?」
「今は財宝よりも己が命の方が大切であろう!? さあ、海賊たちよ、我が朋友たちよ! 早く船に乗れ! 我が家で落ち着こう!」
しっかり注目が集まったところで、俺は船に戻るのを勧める。
それからしばらくはみんなが協力し合って船に戻り始める。すぐ近くには異様なほどバカでかい大陸亀がいるから、みんなビクビクしていたけど、逆に神獣が傍についているから他の海洋生物に襲われる心配もないので作業はスムーズに行われた。
『魚を感謝するよ。それにみんなも無事に海面に出してくれて』
『そんなのいいぐうよ。そういえばぐうを狙う奴らが心配ぐう』
『不安がらせるわけじゃないがそいつは先日、ぐうの腹の中にいたぞ。今もいる気配はしないか?』
『ぐう……!? それって人間ぐう!?』
『よくわからないけど、自分を天使と言っていた……どうだ?』
『ぐうう……そんなのはもういないぐう』
『ならひとまずは安心か』
『でもぐうは心配ぐう。ネルは対処方法を知ってるぐうか?』
『ひとまずは俺たち冒険者がぐうの身体の中を掃除していれば大丈夫だとは思うが……』
『また天使人間にぐうの身体の中に入られたら怖いぐう』
うーん……確かにそれはこちらで察知するのは難しい。
あっ、じゃあ【聖なる洗礼】で聖属性を付与しつつ俺との契約を繋げちゃえば、いつでも意思疎通ができるからグウの様子が把握しやすい?
しかもいよいよ症状がヤバいってなった時や、【第三の笛吹き】が狙っているとわかれば【降臨魔法】でグゥを召喚しちゃえば診察も退避もできる。
『なあ、グウ。これはあくまで提案なんだが俺から【聖なる洗礼】を受けないか?』
『ぐう? それで天使人間をどうにかできるぐう?』
『遠く離れていても、いつでも俺と会話ができるようになる。あとはグウが俺の呼びかけに応じてくれれば、会うことだってできる』
『それはいいぐう! 心強いぐう!』
『じゃあ決まりだな』
俺はみんなが無事に乗船したのを確認し終えると、ひとまずは空中を舞いながら説明する。
「みな! これより私は【海底に沈んだ大陸亀】へ、【聖なる洗礼】を施す!」
やはり未だにグウに対する人々の畏怖は健在で、グウを見上げる海賊衆などはビビり散らかしている。
それもそのはずで、自分たちが潜っていたダンジョンがまさかこんな巨大生物だとは思わなかったのだろう。
しかしそんな恐怖は、今後を考えるとどうにか払拭させたかった。
なにせこれからグウの体内を掃除し続けるのは冒険者や海賊衆だからだ。
そこで俺は最も効果的なデモンストレーションを行うことにした。それはみんなの前で、聖なる存在だと印象づければいいだけの話だ。
「この洗礼には! 【神聖ハイリッヒ帝国】が誇る聖女! アナスタシア・キャルル・ハインリヒが立ち合う! アナスタシア様、こちらへ!」
「へっ? うち!? あっ……ねろねろねろっちってば、うちのことはアナって呼べっち!」
「失礼いたします、聖女様」
俺は動揺してるギャル聖女を強制的に抱きかかえ、颯爽と空中へと舞い上がる。
「きゃっ……うち、お姫様抱っこ、されてるって感じ……?」
「アナスタシア様。ここは大切な時なので、なるべく厳かな雰囲気でお願いします」
俺が耳元で囁けば、ギャル聖女は身体をビクリとさせる。
「ひゃっ!? ま、まあ? ねるねるねるっちがそこまで言うなら? でも、うちのことをいつまでたっても他人呼びするなら、【聖なる洗礼】を施すのはどうしようっかな~って感じ?」
今はごちゃごちゃとゴネるギャル聖女にかまっている場合ではない。
船上のみなが注目しているので、俺は【聖なる洗礼】に集中する。
まずは俺が左手を伸ばす。
そしてグウもまた、そっと巨大すぎる頭を俺の左手に近づけて触れた。
「————古の神獣よ、我が友よ、汝に聖なる隣人の加護を、寵愛を、祝福を結ばん。【聖なる洗礼】」
「えっ、ちょっ、ねるねるねるっちって【聖なる洗礼】できるっち!?」
「アナスタシア様。ここは立ち合い人として、しっかり聖句の復唱をお願いします」
「あっ、うん……古の獣よ、我らが輩よ、汝に聖なる神のご加護を、ご寵愛を、そして祝福を与えん」
ギャル聖女もここまでくれば、俺の腕の中で両手を祈りのポーズに変える。
そしてさすが一応は聖女さまだ。
彼女が聖句を紡げば、俺だけでは起きない現象が引き起こされた。
遥か天より眩い煌めきの光柱が何本も降り注ぎ、俺やグウを祝福するように立ち並ぶ。
その荘厳すぎる演出に、周囲のみんなは呆気に取られ、そしてグウが聖なる存在であると確信できただろう。
その中にはこちらを見上げるディスト王子や姫騎士、マリアローズなどもいたので、バッチリ証人になってくれるはず。
となれば今後のグウへの待遇も円滑に進むだろう。
「ネロは……いつも、いつも僕の予想の上を行ってしまうな……」
「ネロさんは私たちが図れる器の大きさではありませんわね……」
「ネロ。今は無理でも……きっと貴方と剣を結び、喜びを共にする伴侶になってみせるわ……」
しかも顔を合わせた時からバチバチだった3人も、なぜか今は遠い目をして穏やかな表情で話し合っているではないか。
きっとグウの圧巻すぎる巨体に感動して、いがみ合うのも馬鹿らしいと思ったのだろう。
何せグウは孤島みたいな存在で、一応オルデンナイツ王国に新たな動く領地が誕生したわけだ。そして冒険者のマリアローズからすれば、甲羅の上に残された遺跡に思いを馳せればワクワクが止まらないはず。
「今後は! ダンジョン【海獣の大口】は名を【聖銀都市を運ぶ海神】となる! 諸君はさらなる冒険と、力と、そして富を享受できるだろう!」
「「「うおおおおおおおお! ネロ万歳! 海神様万歳!」」」
海賊らは熱狂しているが、俺はしっかりと秩序を設けるために後で【海の四大魔女】と話し合い、諸々の取り決めを行う予定だ。
なにせ白銀都市の廃墟を無秩序に荒らされては困りものだし、グウの体内掃除だってある。まあ掃除はこれまで通り、モンスターとの戦いを冒険者に続けてもらえればいいんだけど。
『さて、グウ。掃除の対象に魚人ははぶいておくからな』
『……どうしてぐう?』
『今日よりお前の友は俺の友だ。俺だってかつての友を殺めたくはないさ』
『ぐう……ネル、お前はいい奴ぐう』
ん?
待って、これって俺がダンジョンを所有したみたいなもんだよな?
え、これって冒険者ギルドと連携したらめっちゃ儲かる気がするんだが!?
『ネル、ぐうに乗せてやるぐう。752年と175日ぶりに人を乗せるぐう』
『おお、本当か!? ぜひともお願いしたい!』
グゥが感動して小山ぐらいの頭をずぅぅーんっと近づけては、俺を乗せてくれた。
ふむ、動く島から眺める海はなかなかに絶景だ。
そして黒い笑みが止まらないっす。
ダンジョン探索費を徴収するか? それとも出張ダンジョン契約を、都市ごとで結んだ方が儲かりそ————
「……ねるねるねるっち……半端なくホーリーで……綺麗だね」
ああ、いたのかギャル聖女。
俺の腕の中で雄大な景色に感動しているギャル聖女をチラっと見る。
改めて至近距離で彼女を見れば確かに絶世の美少女ではある。
薄褐色の肌と白銀に近い紫色の眼が、綺麗なコントラストを生み出して神秘的……だけど喋ればギャルって、ギャップがすごいんだよなあ。
まあ、今回はコイツの活躍で神聖さの説得力が増したので、少しばかり感謝の意を示しておくか。
後で借しだどうのって騒がれるのも癪だしな。
「穴。よくできました」
すると彼女は途端に顔を赤らめて騒ぎ出す。
「えっ、今っ!? ねるねるねるっち、うちのことアナって呼んでくれ————」
「……ネルくんを、手伝ってくれてありがとう……アナちゃん……」
ひょっ!?
俺の背後から不意に聞こえたのはマナリアさんの声だ。
急いで振り向けば、彼女はアナに笑いかけてはいるけど、その瞳の輝きが真っ黒に塗りつぶされているのが気になります。
「……私は、神聖魔法が苦手だから……」
「あ、うん……ま、マナたんのッ! 婚約者くんのためなら余裕で力になるって感じー☆」
マナリアさんもいつの間にか、グウの頭上にいましたとさ。




