78話 ヒモ祭り
暗黒面に堕ちた荒ぶるマナリアさんと、ノリノリで騒ぐギャル聖女をどうにかこうにか落ち着けた俺たちは満身創痍だった。
パワード君や【海の四大魔女】はただでさえダンジョン探索の後で、体力を消耗しているのにメインヒロインとの相手は荷が重すぎた。
正直、連携の密度がすごくて【第三の笛吹き】とやらより手強かった。
とはいえ俺もいたのでどうにか抑え込めたものの、天使の攻撃でパワード君の右腕は完治しておらず、何度も【全能回復】を施すはめになった。
「あぁーやべえ。俺様、もう寝落ちしそうだぜ……」
「おつかれさまパワード」
「だが休んでる場合じゃねえ。【海獣の大口】にいた天使野郎が、ロードスを襲ってこないとも限らねえ」
「んー……まあその辺の防備はロードス辺境伯が率いる騎士団に任せていいんじゃないか? すでにマナリアやアナスタシア様がご報告に行ってるようだし」
「そ、そうか……? でもよお」
「休息も大事だ。ここにはアリス姫殿下やディスト王子殿下、それに多くの信頼できる貴族子弟がいる。ちょっとぐらい休んだって大丈夫さ」
俺の予想では【第三の笛吹き】はこちらまで襲ってこないと思う。
なぜなら【終末の笛吹き人】は、世界の裏で暗躍する者たちだからだ。自分たちの活動を他人に気取られず、裏でコソコソやるのが奴らのスタイルなのだろう。
だからロードスで暴れるなんて目立つ行為はしない気がする。
そもそも三年後に【海獣の大口】が原因で起きる、オルデンナイツ王国近郊の海が荒れるってスタンピードも、もしかしたらアイツらが絡んでいるのかもしれない。
そういった面で、今回の配信で不特定多数の視聴者が、【第三の笛吹き】の目撃者となったのは僥倖なのではないだろうか?
逆にあいつらは動き辛くなった説すら浮上してくるぞ。
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:和の姫君に『配信札』と『視聴札』を10万人以上の人々に布教してもらう】を達成』
『スキル【四季降り剣術Lv5 → Lv7】にアップしました』
『スキル【神獣語りLv1】を習得しました』
おっと。
ついに【四季降り剣術】の腕前が、神話の領域に到達したかもしれない。それに【神獣語り】とは……ふむふむ、契約してない神獣とも対話ができるようだ。
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:和の姫君が『仮面ネロッテ』の死亡配信を、伝説の初回配信として10万人以上に喧伝してくれる】を達成』
『スキル【演舞春式Lv5 → Lv7】にアップしました』
『スキル【神獣語りLv1 → Lv2】にアップしました』
ほうほう。
春の舞い手としても神域に達したか。
それに神獣と語り合う際は好感度がちょっと上がりやすくなったと。
しかし俺が死亡したとか、ジャポン国民はさぞかし大騒ぎになっているだろうな。でもミコト姫は俺が生きているのを知っているので……おそらく国会刀弁で死んだと思われた父上とかけて、『ネロ様復活配信!』や『ストクッズ家は不死身!』とかで盛り上げる算段なのだろう。
なんか最近のミコト姫ってやけに俺をプロデュースしたがってるんだよな。
『別にそなたのためじゃなく、大和を思えばこそです!』とか言ってるけど、しっかりヒモスキルが発動してるんだよなあ。
一国の皇姫が推し活なんてのはしないと思うけど、俺をどうにかこうにか神格化させようとしたり、この間なんかツンツンしながら『そなたがジャポンの新たなキョニューになればよいだけです!』なんて熱弁していたし……。
ジャポン国民や重鎮たちもそんな流れを歓迎している節があって、巷じゃ『ストクッズ伯爵は大和の英傑となり、ミコト姫と結ばれる』なんて恋物語が囁かれているらしい。
まあジャポンの人々からしたら、一律給付金を配布してくれる財布を逃したくはないのだろうけど……ちょっとあからさまに俺とミコト姫をくっつけようとするムーヴが見え隠れしてるんだよなあ……。
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:聖女が自領への異端審問官の派遣を抑えてくれている】を達成』
『スキル【聖なる洗礼Lv1】を習得しました』
『スキル【降臨魔法Lv1】を習得しました』
おお、ギャル聖女もやることはやっているらしい。
なになに【聖なる洗礼Lv1】は対象に聖属性を認定する? あ、特殊なパスみたいなものを繋いで少しだけ神聖属性の適性をアップさせるらしい。
認定した対象とは遠くにいても通話みたいに意思伝達できるのは便利だな。
それで【降臨魔法Lv1】は……あ、これってばレベルを上げると天使とか降臨させられる召喚魔法の類だ。確かアホ妹がギャル聖女で、クソほど天使の軍団を召喚して自慢してたわ。まだLv1なので召喚できるのは、あくまで俺が【聖なる洗礼】を施した者にのみ限定されるらしい。
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:男装の王族によるコネで『七国の英雄杯』エントリー枠を確保してもらう】を達成』
『スキル【王族御用達Lv1 → Lv2】にアップしました』
おおっ。
ディスト王子も裏でスマートに権力で俺に尽くすとか、ちょっとかっこいいことをやってくれてるようだ。
それに【王族御用達】がLv2に上昇した恩恵で、人族以外の王種も好感度が上がりやすくなったらしい。
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:王族女性の強い推薦と進言により父親の地位が向上】を達成』
『スキル【騎士の儀式Lv1】を習得しました』
『スキル【騎士の儀式Lv1 → Lv2】にアップしました』
おおお……姫騎士の采配で父上が子爵の位を賜ったらしい。
さっそく船上パーティーでの騒動が王都にも伝わったらしく、ドーエム侯爵やマゾリリス伯爵は完全にウチの傘下に入り、監督される立場に下った。
そしてウケミント子爵は男爵位に降爵し、領地も一部没収されたようだ。そしてその没収された領地こそが、新たに我がストクッズ領となったようだ。
父上の今までの活躍が評価され、相応の地位がいただけるのは純粋に嬉しかった。
それに新スキル【騎士の儀式Lv2】も面白そうなスキルで……【聖なる洗礼Lv1】と合わせればヤバい効果を生み出せそうだ。
久々にヒモスキルが豊作だったのでウキウキだが、やるべきことはやらないといけない。
俺は休息をとるためにシャワーで身体を洗い流し、そして優雅にベッドへと倒れ込んだ。
ふう、ぽやしゅみい。
◇
翌日。
俺は早朝から冒険者ギルドにて、【海獣の大口】および【終末の笛吹き人】の捜索部隊を募集した。
募集期限は今日の午前中までだったが、思った以上の人数が集まってしまいちょっとしたレイドクエスト扱いになってしまった。
まずは俺の派閥で戦闘の得意なカーネル伯爵令嬢とパワード君、そしてマナリアの三人だ。さらにはなぜかやる気に満ちたアリス姫騎士やギャル聖女、ディスト王子だ。
もちろん彼女たちの護衛騎士が30人ほどいる。
そこへ【海の四大魔女】とその部下たちである、海賊衆の面々がざっと100人も加わり、小規模の軍隊レベルまで捜索部隊は膨れ上がっていた。
「ネルくん……がんばる、です!」
「きゃっはー☆ うちらで冒険とか楽しみすぎるって感じー!」
「隙あらばネルさんに冒険者の心得など、ご指導ご鞭撻のほどお願いしたく存じますわ」
マナリアは真剣で、ギャル聖女は物見遊山で、姫騎士は俺の隙を狙っているらしい。
うーん。
結局メインヒロイン3人とダンジョン攻略するはめになってしまった。
万が一にも【終末の笛吹き人】と遭遇した場合、戦力は多い方がいいけど……こいつら三人が爆弾みたいなものだからなあ……。
「久しぶりね、ネロ?」
そんな物々しいメンバーにさらなる波紋を投じたのは、薄青色の長髪をなびかせる絶世の美少女冒険者だった。
「まさかこんな所で会えるなんて嬉しいわ」
太陽すらも見惚れて、溶けそうな笑みを浮かべるのはマリアローズだ。
剣闘大会の決勝戦で互いに凌ぎを削り合った好敵手と、約2年ぶりの再会を果たす。
彼女は以前よりもぐっと大人っぽくなっていて、それはそれは綺麗なJKに成長していた。
お胸の方は……ふむ、バランスのいい美乳のDあたりか?
「ネロが探索隊の募集を出すって聞いて、私も参加しようと思ってね?」
「お久しぶりです。フローズメイデン公爵令嬢」
「やだ、ネロと私の仲でしょ? マリアでいいわ」
隣国の有力貴族のご令嬢にして、傭兵団【青薔薇の剣】を各国に駐屯させる最強キャラは気さくに接してくれた。
「ネロ、あの時よりも立派になったみたいね。私は貴方と再び剣を交わせるのを夢見て、この二年間ずっと修行に明け暮れたわ」
「武者修行ですか。さすがです」
「ふふっ。それに剣だけじゃなく縁や血も交わせたいと思っているのよ?」
「血を……?」
「ええ。我が【凍てつく青薔薇】と【紳士なる旅商人】の縁と血をね?」
「それは……」
「婚約話よ? そちらに行ってるでしょう?」
そう言って、マリアローズはずいっと距離をつめてくる。
「私、欲しいものは絶対に手に入れる主義なの」
ちょっ。
マナリアさんの前でこの距離は気さくすぎです。




