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75話 ギャルの絡み


 マナリアさんは割と分別のある良妻賢母になるかもしれない。

 ギリギリッで彼女の制裁が発動しなかった俺たちは、順調に船旅を続けられていた。


 ダンジョン【海獣(かいじゅう)の大口】が発見されたのは、いくつかの船が『海の穴に呑まれた』と消息不明になったのが発端だ。

 そして消失したはずの船の乗組員が生きて戻ったことで、海にぽっかりと空いた黒い穴の先がダンジョンであると判明したのだ。


「ネロ! す、すげえぞ! 見てみろよ!」


 パワード君が船の先ではしゃぐのも頷ける。

 何せ俺たちの目の前の海は、地獄の底が大口を開けたように漆黒の渦が巻いていたからだ。

 それは全てを深淵へと引きずり込むような……畏怖すら覚える景色で、まさに海獣の大口にふさわしい。


 そして俺は『ガチ百合』をプレイしたから知ってるが、こいつは本当に海の大怪物が呼吸をするために作っている海の空洞である。

 大怪物の正体は【海底に沈んだ(シーアローン・)大陸亀(ゴッタル)】。別名、【海底都市(アトラス・)を運ぶ巨神(アトランティス)】と言われシンプルに巨大な亀だったりする。


 その昔、まだその巨神が海を自在に泳いでいた時代、甲羅の上には立派な神殿都市【海上の白銀都市(アトランティス)】があった。

 巨神にとって甲羅の上に住む人々は、甲羅に発生する害獣を駆除してくれる隣人であり、自分の体内から湧き出る害獣も掃除をしてくる相棒だったとか。

 

海上の白銀都市(アトランティス)】の人々は巨神の恩恵もあり、海戦においては負けなしで、様々な海の幸や富が集中しては栄華を誇っていた。


 もちろんそれを快く思わない者たちもいた。

 それは海上貿易を行うために商船を世界に打ち出したかった、かつての大陸国たちだ。何をするにも『海の王』である【海上の白銀都市(アトランティス)】にお伺いを立てなくてはならない。そんな現状を打破すべく数カ国が結託して同盟を結び、【海上の白銀都市(アトランティス)】を滅ぼすための終わりない戦争と略奪を仕掛けた。

 

海上の白銀都市(アトランティス)】の人々は【人魚】の血を引いていたり、【人魚】と結ばれる者も多く、海中でも呼吸ができる者がほとんどだった。

 そこで巨神は同盟軍の脅威から隣人を守るべく、【海上の白銀都市(アトランティス)】を沈めたのだ。

 もちろん最低限の空気は必要だったため、巨神が海に大穴を開けては空気を海底都市へと運ぶ大魔法を発動していたわけだ。

 

 しかし日増しに人魚との交配が増えてゆくと、理性的な部分が人々から削られていった。人魚の血が濃すぎると衝動的な行動を起こす者が頻発し、よく言えばロマンチストが増え、悪く言えば癇癪持ちが多くなっていったのだ。

 そしてかつて栄えた【海上の白銀都市(アトランティス)】の人々は徐々に知性を失い、今ではモンスターと変わらない【魚人】と化している。

 

「うおおおお! 怖えええ! ロマン爆発! ロマンンンンンッ!」


 パワード君はそんな悲しき結末も知らずに、船ごと大穴に呑み込まれる恐怖と興奮を爆発させている。

 俺たちが吸い込まれるのは、滅んだ【海上の白銀都市(アトランティス)】の人々を憂い、すっかり海底で眠りにつくだけの大陸(がめ)の身体の中だ。

 冒険者はその事実を知らずにダンジョンと思い込み、大陸亀の腹の中を掃除(ぼうけん)している。


 俺も今日からそんな清掃員の一人に仲間入りである。

【海の四大魔女】に連れられて、俺はテキトーにみんなを回復しながらダンジョンを潜っていく。

 特にパワード君は修行だなんだと気合いの入りようがすごい。

 俺は俺で当初の目的である【水面石】を採取しては、【宝物殿の守護者(アイテムボックス)】がぱんぱんになるまで詰め込んでいく。


 このペースでいけば新型の『配信札』や『視聴札』の生産素材も問題なく確保できそうだ。

 そんな俺の様子に目ざとく反応したのが、これまた【海の四大魔女】の方々だ。


「おや、坊主はアイテムボックス持ちかい……いいねえ」

「お宝を収納できるたあ海賊が天職だよ!?」

「うちの海賊団においで!」

「このお宝小僧は手放せないねえ!」


 ちょっ、再びアームロック地獄はやめっ。

 マナリアさんっ、これは違うからね!?





 それから俺やパワード君は昼も夜もダンジョン【海獣の大口】に潜った。

 よくよく考えたら昼寝中もダンジョンに行けるので、別に夜限定での冒険者活動でなくてもいいわけだ。


 とはいえ昼寝ばかりしていると色々と支障が出るので、特にミコト姫との打ち合わせだけはしっかりしておいた。

 順調に【水面石】が確保できるとわかったミコト姫は、早急に本国へ新型『配信札』や『視聴札』の開発を着手するよう働きかけてくれた。

 もちろん、ストクッズ大商会がオーナーとして資金は潤沢に支援させていただく。


 これにはミコト姫も喜んでくれた。

 なぜならアメリオ帝国との敗戦後、『四季神札の見識者は危険思想が多い!』とGHQに糾弾され、四季神札を研究する組織や機関は軒並み解体されていたそうだ。おそらくジャポンの力を削ぐための言いがかりなのだろうが、とにかく職を失っていた技術者が『日の目を見る機会をもらえた!』と、現地ではやる気に燃える人たちで溢れているのだとか。


「ふぅー。さて、そろそろ昼寝でもしてパワードを誘うかな」


 俺が共有のバルコニーから自室に向かう最中、不意に小麦肌の美少女と目が合った。

 おっとっと、ギャル聖女は緊急かーいひっ。

 なるべくメインヒロインなんかと関わってやるかよ!


 俺はさりげなーく、所用を思い出したフリをして進行方向を変える。

 しかしなぜかギャル聖女はズンズンッと俺との距離を近づけてくるではないか。

 まるで避けても迫る追尾型ミサイルのように、彼女は俺を捕らえた。



「ねえ、ねるねるねるっち。うちのこと避けてないー?」


 ひょっ。


「いいえ。最近はパワードとの自主練で忙しくてですね」


「でもミコたんとかとよーく話してるよねー」


「し、仕事のお話でございます」


「ふーん。ねるねるねるっちわあー、お仕事なら話してくれるんだ。あっ☆ そういえば【神聖ハイリッヒ帝国】が魔族を嫌悪してるのは知ってるよねー?」


「ん、ああ。そういえば魔王ちゃ————うちの復興隊長がそんなことを言っていましたね」


「なんかぁーさっき枢機卿からあ、ストクッズ男爵領は魔族と暮らしてるとかで? 邪教徒に認定するってガチ言ってたんだけどー☆」


「ひょっ!?」


「異端審問官がー、ストクッズ男爵領に向けて出発するって☆」


「マジのガチですか!?」


「うんうん! マジマジ!」


 なんでこいつはこんなに嬉しそうなんだよおおおお!

 他人の不幸をこんなにワクワク笑顔で喜ぶとかさあ!

 もうメインヒロインはこれだから嫌なんだああ!


「それで? どうするどうする!? 『聖女』のうちを頼るっち!?」


 ちぃっ!

 クソギャル聖女がっ!

 人の足元を見やがってええええ何をご所望ですかねええええ!?



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