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74話 心臓を掴む腕



「ではお姉さんがた。私の護衛と腕相撲をしていただこうか」


 俺は【海の四大魔女】とやらに一勝負もちかけた。

 さすがに船上で大暴れするのは沈没しかねない。それに他の冒険者さんにも迷惑だからな。


「はんっ。護衛が優秀だから大丈夫って示したいわけねえ」

「可愛い坊やに随分と信頼されてるね、木偶(でく)

「あたいらを納得させられるだけの力があるのかなあ」

「他力本願のザコガキね。呆れた」


 見目麗しい4人のエルフは口々にパワード君を値踏みしてゆく。

 そんな彼女らに対し、脂汗をポタポタと垂らすパワード君。


「ちょ、ネロ……俺様が腕相撲……?」


 うーん……パワード君ってばけっこう緊張に弱いタイプな気がする。これではいざ女勇者(しゅじんこう)と相対した時、使い物にならないかもしれない。

 今はメインヒロイン相手でもどうにか持ちこたえるだけの戦力になりつつあるけど、いざ女勇者があのパーティーに加わったらヒロインたちが爆発的に強くなる可能性もある。

 ここは一つ、彼に胆力をつけてもらおう。


「パワー。今のお前が有名冒険者とやらに、どれだけ通じるか見せつけてやればいい。なに、どうなってもその後は私に任せればいい」

「お、おう……確かにこんな機会は滅多にねえな。よし、ネロがそこまで言うならやってやらああ! 【一騎当千】!」


 パワード君が自身の身体能力を飛躍的に上昇させるスキルを発動して、腕相撲の構えを取る。

 それに対し【海の四大魔女】たちは目の色を変えた。


「へえ……じゃあうちらの中でも一番非力なあたしが行こうかね」


 4人の中で最も小柄な美人エルフさんが前に出る。

 彼女はいかにも後衛職っぽいローブ姿だ。つまり、彼女すら倒せないのであればダンジョンに潜らず帰れと言いたいのだろう。


「おい……見ろよ。【怪力魔女アビルダ】と腕相撲だってよ」

「腕をへし折られちまうどころか身体ごとねじ切られるんじゃねえのか……」

「どこのどいつだか知らねえが、命知らずもいるもんだ」


 どうやら近接戦も得意な魔法職らしい。

 だ、大丈夫かな、パワードくん。

 

「じゃあいくよ! 【海流を纏う者(シー・コート)】!」

「お、おうよ!」


【怪力魔女アビルダ】はパワード君の【一騎当千】に対抗してスキルを発動した。それは周囲の海水を自身に纏わせ、水圧や水流で敵を砕き、時に自分の動きをアシストするスキルだ。

 彼女の右腕には今やトラックほどの巨大な水流が蠢き、彼女の右腕が押し負けぬように控えている。


「ほら、きな! 木偶の棒が!」

「うらあああああああああああ! ぱわあああああああああ!」


 ギチリッとパワード君の腕が膨れ上がる。

 同時に【怪力魔女アビルダ】の細腕に見えた上腕二頭筋がモコっと盛り上がる。

 さらに巨大な水流による圧力が彼女の腕に収束し、パワード君の腕をグググッと押し返そうとしている。


 この量の水圧に耐える強靭さには驚きだが、パワード君も負けていない。

 額の血管がはち切れそうになるほど全力を込めているようで、彼の踏ん張りが船体をビキビキっと唸らせる。


「なっ、なかなかやるわね!」

「ぱっ、ぱわあああああああああああああ!」


 そしてパワード君の咆哮と同時にボギリッとくぐもった音が響く。

 それは【怪力魔女アビルダ】の腕が完全に折れ、もはや血と肉が周囲に飛び散り、断絶された骨が露出する大怪我に発展してしまった。


 これにはパワード君本人も驚いたのか、『あっえっ、こ、これはそのっえっと、ぱわぁ……』とひどく動揺しながら脂汗を垂れ流していた。

 もちろん【海の四大魔女】たちもまさかの結果にポカンと口を開け、すぐさま仲間の元に駆け付ける。


 俺はその動きに先んじて、【怪力魔女アビルダ】へ近づき【全能回復(オールキュア)】をかけてやる。

 一度では治りきらなかったので、二度三度と重ねがけすると損耗した手がニョキニョキと生えてきた。


「ふう……これでおわかりいただけたかな。海は非常に広く、奥が深いと」


 俺は海での活動を生業とする海賊の船長共に、わかり切った嫌味を刺し向ける。

 君達が見ているであろう海の広さはまだまだで、俺たちのような猛者だっていると。

 これで俺たちに無駄に絡んでくるのはやめようね。あと迷惑料とかで自ら何かくれないかな。財宝とかさ。

 ヒモスキルが発動するのを期待するも、彼女たちは余計に騒がしくなった。


「強力な護衛を引き連れるだけあるねえ……こんなちっちゃな坊主が、でっけえ海を感じさせてくれるなんて!」

「ケンカを吹っ掛けたアビルダの傷を治しちまうなんて、アンタどんだけ度量が広いってのよ!」

「決めた! あたしの(つがい)になりなよ!」

「クソガキがっ! あたしらより俊敏に動けて、上等な回復魔法も使えるなんて何者だい!?」


 あ、あれ?

 なぜか俺は回復担当で彼女たちとダンジョン攻略を共にすることになりました。

 ま、まあ経験者に色々とご教授ご鞭撻いただけるのであれば願ったり叶ったりでもある。


『スキル【ヒモ】が発動。【条件:魔鋼級(アダマンタイト)以上の女冒険者にダンジョンで護衛をしてもらう】を達成』

『スキル【夢遊探索 Lv1 → Lv2】にアップしました』



 なにはともあれ、ヒモスキルも発動したし結果オーライ?

 それに【夢遊探索Lv1】ではモンスターを倒しても経験値が入らなかったけど、Lv2からは経験値も稼げるようになったし。


 あ、(ねえ)さんがた。

 そのアームロックするのはやめてくだ、その、ビキニみたいな装備から弾けんばかりのお胸が顔を圧迫して、不可抗力でも……俺の影から制裁(・・・・・)がっ……罰が下る五秒前ですからあッ!


 ぱ、パワードッ『腕相撲は俺様が勝ったのに何でネルだけちやほやしょぼーん』みたいな顔してないで、これほどいてくれっ!


「なんだいなんだい! こんなスキンシップで照れやがって! 可愛いところもあんだねえ!」


 ちがっ。

 マナリアさんこれはちがっ……。




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