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73話 海の魔女


「ミコト姫……『視聴札』はもっとベゼルレスでフォルムは丸みを帯びるように! 洗練されたデザインに変更していただきたく……! そう、アイポンのように! 万人に親しみやすく、しかし持っているだけでオシャレ感が漂う一級品に見えれば勝ちです! 人々は『視聴札』を所持する自分にステータスを感じ、逆に所持してない者は憧れる! これを目指しましょう!」


「ベゼレス? アイポ、ですか……?」


 俺はミコト姫とさっそく『視聴札』の生産について相談していた。

 何やら『配信札』の方はすでに既存の物を改良すればすぐにでも完成しそうなので、あとは配信を受け取る端末が必要だった。

 今まで通り、空に映すのじゃダメかと問われたけど、そこは『一人一人が好きな配信を好きな時に見れる』をコンセプトにしているので却下した。


「ですがストクッズ男爵令息、札に金属板を取り付けるとなると……千里眼術の伝導力を高める【水面石】が大量に必要になります。映像の波紋振動を抑えるには、【水面石】が必須ですので……」


「そちらは何とか工面いたします。また、資金はストクッズ大商会から出しますので、オーナー契約などの手続きが済み次第すぐにでも技術者を集めてもらえますか?」


「わかりました。ジャポンが豊かになり、働き口も増えるのであれば」


 よっしゃああああ!

 あとは『配信札』と『視聴札』の試作品が出来上がってくるまでダラダラ過ごそう。ロードス島の夏を満喫しよう。


 そして夜になれば————『夢遊探索』発動!



「うんうん。寝ながら分体を動かせる、いい感じだ」


 なんか実態のある幻影? みたいな存在らしい。

 すぐ横のベッドではスヤスヤと眠る自分を見るのは不思議な感覚だった。

 とにかく俺は約束通りパワード君の寝室の扉をノックして彼を叩き起こした。


「ふぁ……お、おう。今夜だったな……ちょっと待ってくれ、すぐに準備する」


 それから俺は意気揚々とロードス島の冒険者ギルド支部に顔を出す。

 ちなみにパワード君には変装をしてもらっており、熱い真夏の夜に顔を隠すお面をつけてもらっている。

 この街の冒険者の面々はパワード君の顔を知っているらしく、辺境伯子息様が冒険者ギルドに来たらちょっとした騒ぎになりかねないそうだ。


『ガチ百合』ではロードス島でのイベントは皆無だったが、元々はロードス島にあった【海獣(かいじゅう)の大口】ってダンジョンが暴走して、王国近郊の海を荒らすスタンピードイベントは起きた。

 俺はダンジョンそのものに入った経験はないから、正直に言うとワクワクしている。


 さらに言えば数年後に起きる【海獣(かいじゅう)の大口】の暴走では、ミコト姫が所望していた【水面石】を落とす魔物が数多く出現した。

 一足先に【水面石】を取りに行くってのもありだ。


「ようこそ、ロードス冒険者ギルド支部へ」


 にこやかな笑みを浮かべる受付嬢に、俺たちは自分のランクを示す。


「ネロさんは【鉄級(アイアン)】でパワーさんが【鋼鉄級(スティール)】ですか。ダンジョン【海獣の大口】への申請を許可いたします。夜行船の手配は、ちょうど30分後ですのでそれまでに準備をお願いいたします」


 パワード君ってばしっかり冒険者の経験も積んでいるらしく、ランクも俺より一つ上だった。

 どうやらロードス辺境伯家の教育方針には、魔物との戦いにも備えお忍びで冒険者活動もするらしい。

 ほんとに彼は英才教育を受けている。

 

 冒険者ランク的には俺がようやく一人前で、パワード君が中堅どころだけども【海獣の大口】へのダイブがすんなり許可されてよかった。



「おいネル……ネロ、おまえ本当に【海獣の大口】に行くのか?」

「うん、何か問題でもあるの?」


「いや、【鉄級(アイアン)】にも開放されてるダンジョンだけどよ……出入り口の周辺以外は【白金級(プラチナ)】や【魔鋼級(アダマンタイト)】じゃないとキツイって話だぜ」

「ふむ、凄腕に圧倒的な強者か……Lv40~Lv60あたりかな」


「それこそ最近じゃ、かの有名な冒険者パーティー【海の四大魔女】とか【青薔薇(あおばら)】が攻略に勤しんでるって聞いてるぜ……」


 おや、マリアローズさんが来ているのか。

 さすがだな。自身の剣の腕を磨くために、こんな所のダンジョンにも果敢に潜っているのか。

 剣闘大会以来だけど傭兵団には助力してもらってるし、顔を合わせたらお礼を言っておこう。

 あとマリアローズさんの生家である、フローズメイデン公爵家からの婚約話についても今一度お断りを入れておかないと。


「それにしても……負けられないな」


 剣闘大会では辛くも勝利したとはいえ、あれから数年も経っている。

 成長したマリアローズさんは、『ガチ百合』時代に一度たりとも勝てなかった最強に到達している可能性がある。


「うぉいっ……負けられないって……本気かよネル。ま、まあ戦友である俺様がついてるから任せておけい!」


 そんなこんなで俺たちは冒険の準備をして、【海獣の大口】に向かう夜行船に乗った。

 深夜からダンジョンに向かうのは俺たちだけじゃなく、チラホラと冒険者がいた。その中でも特に異質なオーラを放つ者が4人おり、なぜか俺とパワード君に絡んできた。


「なんだなんだ、ダンジョンは子供を引率する場所じゃないっつの」

「あら、けっこう可愛い顔してるわよ、この子」

「将来の色男が死ぬのは容認できないわね。護衛の木偶、この坊ちゃんをさっさとお返しよ」

「ほらほらザコガキは帰ってママのおっぱいでも吸っておねんねしてな」


 見目麗しき口の悪いエルフの女性たちだ。

 一人はダークエルフで特に口が汚かった。


 どうやら身長180cm超えの仮面パワード君を、俺の護衛と思ったらしい。

 そして俺の身なりから恵まれた坊ちゃんであるのも即座に看破している。


「うるさくて敵わないな」


 俺がピシャリと彼女らの発言をはねのけると、さらに4人は騒がしくなった。


「こっちは親切心で言ってやってんのにねえ」

「もしかして僕ゥ、あたいらにケンカ売ってるの?」

「顔も生まれもよくて、ちーっとばかし調子に乗っちゃってるかしら?」

「おいザコガキ。こっから海に放り投げてやってもいいんだぞ?」


 エルフ4人衆はこれまたかしましくも香ばしい奴らだった。

 

「パワー、ダンジョン潜入前の準備運動でもするか」


「や……ネル、おま……この方々はこの辺じゃ最強って言われてる【海の四大魔女】だぞ……? 一人一人が五十隻以上の海賊船団を従える、正真正銘の海賊船長なんだけどよお……」


 ほーん。

 どうりで香ばしいと思ったら、海の(たから)を提供してくれそうなエサだったわけだ。

 どうにか流れでヒモヒモできるご関係を築けないだろうか?


 というかこの女帝感、うちの紳士クラブ『母なる女王(マザーズ・クイーン)』で雇いたいかも。いや、非常勤講師としてうちの女王たちに指導してもらうのもありか?


「ねねねねネル、どうすんだよマジで」


 おっと、脂汗を流しまくる仮面パワード君には悪いが……ここは引き下がるわけにはいかないな。




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