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66話 ヒロイン包囲網


 パワード君の領地へはカーネル伯爵令嬢、コシギンチャ男爵令息、レイ伯爵令嬢、グラノリア子爵令嬢の五人で向かっている。


 俺が声をかけるとみんな喜び勇んで集まってくれたので、まさに鶴の一声だ。

 やっぱりみんなはパパンが築き上げた圧倒的な財力を意識しており、さらにはジャポン小国での騒動にも興味を持っているらしい。

 ロードス島までの移動は船旅となり、乗船してから色々聞かれたのでテキトーに答えておく。


「まさかその御歳でジャポン小国の伯爵位を賜るとは……驚きですよ、ネル殿」

「他国との貿易内容だけでなく、財政関係にも口が出せるなんて……小国を裏から牛耳るおつもりですか?」

「ネル様はすごいですよん。あっ、うちのカーネル家とも何か事業提携したりしませんか? 武具の生産面では大いに役立てますよん」


 コシギンチャ男爵令息を初め、上級生の三人はひどく感心しているようだった。

 対して同級生のグラノリア子爵令嬢は大人数での会話が苦手なのか、少しだけ遠慮がちに頷くシーンが多い。


 俺も俺でどちらかと言ったら、ロードス島に向かう船旅をゆったり満喫したかったので口数は少なめだった。


 ぽえー。

 海は広いな大きいなー。

 カモメみたいなのも飛んでてなんか癒される。

 船酔いする体質じゃなくてよかった。


 ちなみにマナリアは例の回復魔法のスペシャリストを連れて、あとで合流する手はずになっている。

 ついでに一応ちっぱい男装姫にも声をかけたところ、ギリギリのスケジュール調整をこなしてマナリアたちと同じくロードス島で合流する予定だ。そしてなぜか知らんけど、姫騎士も同行しているらしい。


 大事にならなければいいんだけどなあ……。

 メインヒロインなんて危険を抱えるのはマナリアだけで間に合ってるのに。

 

 俺はそんな不安を振り切るように、潮風と青空と雄大な海を堪能した。





「パワード! お前は一体どういう腹積もりなのだ!?」

「なんだよ、父上」


「ストクッズ男爵令息に招待状を送ったらしいな!?」

「ああ……それがどうしたんだよ」


「あの成り上がり貴族家を、我が伝統ある『海の宴』に招待するなどと……! しかも返事を見てみろ! おそらく3~8人で出席するなどと言っておるでないか! なんと無礼な! 招待状を持たぬ輩など『海の宴』に招き入れないぞ!」

「いや……そりゃあタイミング的に、今からみんなに招待状を送るんじゃ間に合わないって判断してくれたんだろ? 父上が仰る通り、俺は俺なりの人脈を示すってわけで勘弁してくれねえか?」

 

「それがよりにもよってストクッズ男爵家だと?」

「あー……父上は先の戦争でストクッズ男爵にほとんどの手柄を持ってかれて面白くないんだろうけどよ。同じアリス姫殿下を推す派閥じゃねえの?」


「馬鹿もんが! 成り上がりの小僧はディスト王子殿下についたとの噂がある。そんな小僧を、我が『海の宴』に招いたと吹聴されたらどうする!? 我が家に対する姫殿下の心象が悪くなるだろうに!」

「いや、別に大丈夫だと思うぞ? 俺が見るにネルは王子殿下とも姫殿下とも良好すぎる関係を築いているし」


「お前は……何を寝ぼけたことを言っている? 男爵令息ごときが両殿下と近しい間柄になるはずもないだろう! 学園に行ってお前の目は節穴になったのか!?」

「いやいや、本当だって。ネルと仲良くしておきゃあ、大丈夫だって」


「パワード……父にそんな妄言を吐くようになってしまったのか……お前がそこまで腑抜けになったとは……」

「父上、落ち着けって。なんでも最近じゃ、ネルはジャポン小国でも大活躍したらしいぞ?」


「何をまた寝ぼけたことを……! わしが何も知らぬと思っているのか!? あの小僧はジャポン小国のミコト姫に、全新入生の前で糾弾されたのであろう! そんな者がジャポン小国で活躍? 寝言は寝て言うのだ!」

「いや……父上、それは古い情報だって」


 俺様はここでようやく父上が王立魔剣学園に通って、王都周辺の知己を作っておけと言った意味を正確に理解した。

 おそらく父上は父上で独自の情報網や付き合いを持っているのだろうが、やはりここは王都より遠く離れた辺境の地。


 正確な情報が届くまでそれなりに時間がかかる。

 だが、その情報も仕入れ先によって内容も速度も変わる。

 特に貴族子弟関係は父上の持つ情報網より、ネルと手紙のやり取りをしていた俺の方が早いって寸法だ。


 なるほどな。

 だから父上は口をすっぱくして、王都周辺の貴族子弟と人脈を作れと言っていたのか。



「話にならん! よいか、ストクッズ男爵令息が来たとて、わしに挨拶などさせるなよ」

「いやいや父上……多分だが伯爵令嬢なんかも来ると思うぞ?」


「ふんっ! 成り上がりになびくストレーガ伯爵家など興味ないわ! それよりわかってると思うが、海賊衆の前で無様な姿は見せぬようにな!」

「父上、ちょっと待ってくれよ!」


 俺様が呼び止めようとしても父上は『海の宴』の準備があるといって、話もろくに聞かずに切り上げてしまった。

 ああ、ドーエム侯爵令息と関係が悪化してるっつうのも言いそびれちまったな。





 ぽへー。

 海って最高かもしれない。


 俺たちはロードス島に到着すると、ひとまず最高級宿でくつろいだ。

 共有のバルコニーから見える景色は最高で、白亜の街並みが一望できる。

 うわあ、海の幸とか早く食べてみたい。

 船上パーティー『海の宴』に並ぶご馳走が楽しみすぎる。


 そんな風にバルコニー備え付けのベッドに寝そべっていると、マナリアが一人の少女を引き連れて現れた。

 今日は俺の影から突然現れるなんて奇行に走らずホッとする。

 行儀がよくてなによりだ。


「ネル、くん……お待たせ、です」

「ああ、マナリア」


 俺は即座にベッドから起きて佇まいを正す。

 人間ってのは初対面が大事だしな。回復魔法の寄生候補にするなら、その辺はぬかりないようにしないと————


 ん?

 マナリアの隣にいる美少女に妙な既視感を覚えた。

 どっかで見たことあるような……。


「ネルくん……こちらが、私のお友達……アナスタシア・キャルル・ハインリヒちゃん、です。【聖域教会】から……遠路はるばるお越しいただいた、です。あと、彼女は最近……『聖女』認定されました、です!」


 友達の偉業を自分ごとみたいに嬉しそうに語るマナリアさん。

 うんうん、嬉しいね。でも俺はマジで嬉しくないよ。


 影から出てこないからすっかり油断していたよ。

 やってくれたなあ、マナリアさん。


 改めてアナスタシア嬢に目を向けると、なるほど……薄褐色の肌に法衣をまとった彼女は確かに美少女だった。そして白に近い薄紫色の長髪が海風になびく姿は、彼女の神秘的な雰囲気をより一層強くする。

 確かに【神聖ハイリッヒ帝国】が誇る【聖域教会】の象徴的な存在、『聖女』だと言われるのも頷ける。



「チョリっす♪ ご紹介に預かったぁー、アナスタシア・キャルロッテだぞ☆ よろしくって感じー!」


 そして俺はその名を聞いて確信した。

 こいつは……メインヒロインの中で最もクセ強メンドイ女……。


 ギャル聖女じゃねえかああああああああああああああ!?


 俺は衝撃と絶望で白目をむきそうになりながら、どうにか自己紹介に踏み切った。


「こ……ふぉ……こんにちは、初めまして……ネル・ニートホ・ストクッズと申します」


「うっわあー、おもろい名前! じゃあ、ねるねるねるっちって呼んでもいいっち?」


 クソが!

 頭ゆるゆるのクソギャル聖女が!




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