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64話 魔王のお膝元


 俺は今、日向ぼっこをしながら怠惰を満喫していた。


「魔王ちゃん、お茶」

「どうじゃ? 熱くはないか? ぬるくはないか?」


「ちょうどいいかな。あ、魔王ちゃん。膝枕(ひざまくら)

「うむうむ、頭は痛くないかの?」


「ぷにぷに。あ、魔王ちゃん。肩もみ」

「痛くはないか? 気持ちよいかの?」


「なかなか。あ、魔王ちゃん。足もみ」

「ツボはここであっておるかの?」


「そこそこ、きもちぇ。あ、魔王ちゃん。胸もみ」

「むむ? この突起はさわっていいのかの?」


 ふうー。

 ロリかわ幼女にご奉仕させるとか背徳感がやばくて最高だ。


 ぎこちない手つきで俺の胸を服の上からもみもみしてくる銀髪魔王ちゃんを眺める。

 幼くとも綺麗な顔が近づき、一生懸命に俺の気持ちよいところを探してくれている。


 ふーん。

 魔王ちゃんってちょっと従順すぎるよね。

 ちょっと心配になるときもあるね。

 俺みたいな奴に騙されたりしないのかな?


「なあ魔王ちゃん。最近、俺への待遇が良くないか?」

「うむ? 何せネルにはストクッズ領において、魔物たちの生活を保障してもらっておるからのう……我が四天王があんな大惨事を招いてしまったのにじゃ……」


 ふうん。

 まあヒモスキルが発動しないあたり、自分の立場を弁えて俺に奉仕している意識があるのだろう。


 それにしても魔王ちゃんって真っすぐっていうか、素直すぎるんだよなあ。

 どうしてこんな奴が魔王なんてしてるんだ?


「魔王ちゃんはどうして魔王として君臨してるんだ?」

「うむ。全ての魔族や魔物が安心して暮らせる世界が作りたくての……ほれ、特に【神聖ハイリッヒ帝国】なんか魔族を目の仇にしておるじゃろ?」


 全魔物のためって……こいつマジでいい奴すぎるなあ。

 まるで女勇者(しゅじんこう)みたいな崇高な志を持ってるじゃないか。

 あっ、だから『ガチ百合』でも魔王ちゃんが仲間になって百合百合しちゃう魔王ルートがあるのね。


 …………。

 ……。


 

 はっ!?

 待て待て、こいつ今はまだ俺と同じく悪役だけど……3年後はメインヒロインになる可能性もあるじゃねえか!?


 やべえぞ!?

『実は我~ネルにロリロリマッサージを常日頃から強要されて苦痛じゃったのじゃあ。変態ロリコンは殺すのじゃ?』なんて女勇者にチクられたら全て終わる。


「あ、魔王さん。その……すぅーっ、ハーピィ族の奴隷売買問題について進展がありましたので、マッサージはもう大丈夫です。はい」

「なんじゃ? いつもならこれからじゃろうに。遠慮せず我に頼ってよいのだぞ?」


「いや、マジで大丈夫っす」

「ふむう? まあネルが良いというのなら良いのじゃが」


 俺は冷や汗をかきながらマッサージ機の停止ボタ……魔王ちゃんを止める。

 するとタイミングよく、我が家の賓客が勢いよく顔を出してきた。


「ネル、ここにいたか!」


「ディスト王子殿下。いかがなさいましたか」


「うん? ネルはまたその貧相な者と……いや、未来を期待すべき者といたのか」


 ディスト王子は魔王ちゃんの慎ましやかな胸元を冷たい視線で一瞥(いちべつ)する。

 彼女はなぜかジャポン小国から帰国すると、我がストクッズ領で夏を満喫すると言い出したのだ。

 もちろん王族の訪問なんてのは栄誉以外のなにものでもないため、快く受け入れている。とはいえ姫騎士を推す父上としてはちょっと複雑そうだった。


 まあジャポン小国の騒動もあって、今のストクッズ男爵家は『姫殿下も王子殿下も自派閥に取り込もうと躍起になっている』と羨ましがられる存在になっている。

 もちろんそこには妬みなども含まれるので油断はできない。


「しかしネルよ。その者は本当に信用できるのか?」

「殿下。我々の大いなる野望のためです」


 ちなみにディスト王子は魔王ちゃんが夏至祭を襲った本人だと知っている。

 もちろんここだけの秘密だ。


「ふむ。まあストレーガ伯爵令嬢の例もあるからなあ……」


 マナリアは13歳になりかけの少女にしては、至宝のGカップを持つ逸材である。

 そしてマナリアの魔力が高い=巨乳に影響するのでは? といった仮説が生まれているのだ。


 魔力が高ければ高いほど育乳に影響する可能性がある、と先日ディスト王子は学者ばりの論文をまとめて俺に共有してきた。

 

 そして魔力が高いと言えば、魔王ちゃん率いる魔族や悪魔たちである。

 魔族はなぜ人間より魔力が高いのか? 食べ物や育った環境に原因があるのではないか? もしくは特殊な生活習慣が? しかし最も魔力の高い魔王ちゃんはちっぱいである。もしそこに何らかの因果関係があるのなら、それらを解明し人間にも流用して巨乳化を促進できるのでないかと模索している。


「なんじゃなんじゃ、我とネルの重大な会合に乱入してきたと思えば、我に疑念をかけよって」

「仕方ないだろう。自分の行いを思い出すがいい。それに僕とネルだって崇高な話し合いがあるんだ」


 ちなみに魔王ちゃんとディスト王子は顔を合わせるたびにバチバチやることが多い。



「貴様も認めてたじゃろうが。『ストクッズ領は魔物と共存で目覚ましい発展を遂げている!? この視点はなかった、素晴らしいぞネル!』とな。貴様が称賛した現状について大事な案件があるのじゃ。ハーピィ族の奴隷売買——」


「それはネルの手腕を褒めただけであって、一方的にネルの領地を襲い、部下を統率しきれなかったお前など愚か者だろう。お前と話し合う時間が、果たしてネルに有益かどうか甚だ疑問だ。それに僕らは奴隷売買を解決するよりも崇高な使命が——」


「あっ、ネル先生! ここにいたんだ!」


 さらには最近、色々な意味で成長が目覚ましいシロナが嬉しそうに参加してきた。


「ややっ、これはこれは王子殿下。やほっ、ロザっち!」


 シロナは鍛錬でプリッと引き締まった美尻を俺に向け、そのまま二人へ挨拶をする。

 うーん、なかなかいい尻に成長しそうなんだよなあ。


「ネルの護衛騎士か。お務めご苦労」

「うむ、シロよ」


 シロナはディスト王子には儀礼的に頭を下げ、そして魔王ロザリアにはフランクに接していた。

 なんとなくディスト王子にはどこかよそよそしく、なぜか魔王ちゃんには親しみすらにじみ出ている。


 四天王と死闘を繰り広げたシロナであったが、意外にも魔王ちゃんとは仲がいい。そこはやはり魔王ちゃんが潔く三天王を土下座させ、街の復興のためにきびきびと働かせているからだろう。

 諸々がシロナにとって良く映っているのは、魔王ちゃんの日々の努力の賜物だ。

 信頼は一朝一夕で成り立たないのだ。


「それで、シロナ。どうしたんだ?」


「はい! 旦那様よりお手紙が届きましたので、ネル先生にお渡しに参りました」


 現在、俺のパパンは再びジャポンに訪れている。

 なぜなら『秋幡宮(あきまんぐう)家の秘術のおかげで、実は死んでいなかったよ』と表明し、諸々の問題を解決するためだ。

 俺はパパンの手紙をシロナから受け取り、ディスト王子の許可をもらってその場で目を通す。


「ふむ、ネルの表情を見るにいい知らせのようだな」

「ストクッズ家が繁栄すれば、魔物の安全もより保障されるのじゃ」

「ネル先生、嬉しそうですね?」


 三人が手紙を気にしているようなので、三人にも内容を共有してあげた。


「どうやら、ジャポンの相続税が大幅に減税されるようです。父上が亡くなってもいないのに、ストクッズ男爵家から多額の相続税を徴収したのが問題になったようで。そこで父上や春家を筆頭に、相続税の見直しと新法案が通ったようで」


 実は父上、オルデンナイツ王国がジャポンを間接統治するにあたっての『統治官』に任命されている。要はオルデンナイツの窓口みたいなものだ。

 これはディスト王子を守り抜いた功績によるものが大きく、ジャポンにとっては非常に権力のある人物になっている。


 国民には一律給付金で人気爆増だし、春家や秋家とも懇意で夏家とも多少の繋がりがあるわけで、多方面でアメリオ帝国の圧力から援護してくれるオルデンナイツ王国の窓口。

 そんな人物が本気で動きだしたら、法案も次々と通ってしまった。


「ほう。ジャポンも進み続けているのだな。して、その新法案とは?」


「やはり外国人の土地購入はこういった複雑な問題を起こしやすいので、外国人には土地の購入でなく貸出しのみ許可するようです」


「それもあるじゃろうが……単純に外国の者に土地を奪われるのは侵略されるに等しいからじゃろう? むしろ今まで自分たちの土地を守るつもりがなかったみたいじゃな」


「では、旦那様が所有するあちらのストクッズ大商会支店の土地も貸し出し、となるのでしょうか?」


「いや、そこはどうにか父上が上手く立ち回ってくれたみたいだ。俺自身がジャポンの伯爵位を持ってるから、俺の所有物とするらしい」


「ほう。それはよかったのじゃ。いずれはジャポンにも魔族の移民を検討してもらえないじゃろうか?」


「うーん……その辺はまだ難しいと思うぞ? あっ、それよりも殿下! 納豆や大豆製品が根絶させられる可能性が浮上しております!」


「な、納豆を根絶させるだと!? いったいどこのどいつだ! 我々の希望(育乳食材)を奪おうとする者は!」


「アメリオ帝国がまたジャポンへ圧力をかけているようです。今度は大豆農家を衰退させるべく、格安の大豆製品を大量に買えと! どうやら……大和人の力の源、和食の根絶を狙っているようです。その手始めが大豆製品、および納豆でございます。今、ジャポンの農家の多くは利益がほとんど出ない状態で踏ん張っています。しかし大豆関連は利益率がよく、その利益で米などの赤字生産を補っているのだとか……」


 つまり大豆系を潰されたらジャポンの農家は、本格的に生命線を崩されてしまう。

 俺の説明にディスト王子は怒りに震え、そして深く決心した素振りを見せる。


「やむをえん。約束された全世界の大いなる希望(巨乳)を守るために……」


「殿下。いかがなさいますか」


王陛下(ちちぎみ)に直訴し、アメリオ帝国と戦争しか道はあるまい」



 えっっちょ、まっ!?



「そ、それはお待ちを! 他にも何か方法がございます! え、えっとほら! 戦争の被害で失われる大いなる希望(巨乳)もまたあるかと!?」


「ぬう!? 確かにそれは考えなおさねば……!」


「うむうむ。ネルはやはり我が見込んだ者じゃのう。未然に多くの命を救いよった。どこかの短慮な輩と違ってのう」


「大戦争を防いじゃった……ネル先生はやっぱり誰よりも強くてかっこいい正義の味方なんだ……!」


 なぜかシロナや魔王ちゃんの間では、俺の必死の説得により大戦争が回避されたと美談になっていた。


 うん。まあ平和っちゃ平和か。

 なんかこういうのも悪くないと思ってしまう俺だった。


 ん? でもさっきから、悪寒が止まらないのは何で?

 なんか背後というか、俺の影から視線を感じる気がするけど……気のせいだよね……?


 うん、気のせいだと思いたい。




「……ひざまくらは……浮気……デス……」



 ひょっ!?!?!?




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