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61話 壮大な恋物語になってるの何で?


「私はネル・ニートホ・ストクッズ。夏破茂蔵(なつばしげぞう)総明大陣に問います」


「どうぞどうぞ、問えるほどの力がおありでしたらどうぞ」


 欲と裏金で肥え太った顔面をニチャつかせ、夏破(なつば)は余裕の態度で刀弁の開始を受け入れた。

 俺は問答無用で、崩れたスライムみたいな顔にスキルを叩き込む。


「————竜樹に芽吹くは、春爛漫(らんまん)——【桜竜浪漫木行おうりゅうろまんきこう】」

「ぐっ、なっ————真夏の大百科、枯れずの(ひのき)、【百式仏閣炎天下ひゃくしきぶっかくえんてんか】」


 俺の舞に呼応して、竜の顎の形をした巨木が次々と成長しそそりたつ。みるみるまに桃色の桜を咲かせ夏破(なつば)を呑み込まんとするが、彼は竜樹の成長をすぐさま日光の力で変形させ、燃える仏閣へ昇華させた……その力量はさすが大陣を束ねる総明大陣なだけある。


 が、俺はその仏閣を打ち壊す勢いで、桜竜が宿る巨木がひたすら育くむために舞った。

 喰らい尽くせと。



「ネル・ニートホ・ストクッズ君、夏破茂蔵総明大陣。両者拮抗によりストクッズ君の問いを許可します」


 議長のアナウンスにより、俺と夏破は舞いを一旦やめる。

 夏破はどうやら動けるデブのようだ。

 そんな思考を片隅に、俺はまず消耗税からメスを入れた。


「【消耗税】を撤廃する予定はありますか?」


「消耗税、これは社会保障を支える重要な財源でございます。そしてこれは全額(・・)、医療費などの社会保障に充てられているものでございます。これが減ってしまったら困るのは国民です」


 おっと。

 けっこうな嘘を平然とつくのか。


「それに我が国は10%でございますが、諸外国ではもっと高い税率が設定されております。例えば神聖ハイリッヒ帝国は20%、竜国は22%です。そういうことを考えていかねばなりません。税率の引き下げというのは適当ではないと考えております」


 はい?

 今サラっと10%から20%に引き上げるかもよって宣言した?

 なるほど……無知な子供(おれ)との刀弁を利用してそう来たか。

 ならば俺も盛大な反撃に出るとしよう。


 俺は【演舞春式Lv5】と【春華春闘Lv3】の複合スキルをぶち込んだ。


「————【武士(もののふ)の、春日乱舞(かすがらんぶ)や、血り積もれ】」

「ぐっ……和歌演舞ですとお!? 【夏風の、急場しのぎの、守護結界】ぃぃぃいい、ごふぉっ!?」


 春の日差しをまとった拳が、夏破の全身へ吸い込まれてゆく。

 対する夏場は夏風でいなそうとするも、一発、二発、三発と徐々に拳がめり込んでいく。それから俺たちは、ただただ無限に拳で語り合った。


「ぶはっ、ぐふぉっ!? ぎゃっ!? ぐっほぉぉお!? ぎゃっ!?」


 結果は俺の拳が勝利を宣言するに至る。

 まさかの国家代表が全ジャポン配信で、ボッコボコのボコにされる醜態を晒すなんて誰も思っていなかったのだろう。

 周囲はどよめきに溢れていた。


「ネ、ネル・ニートホ・ストクッズ君がッ、夏破茂蔵総明大陣の武威を上回りましたので、ストクッズ君の長時間主張を許可します」


 まずは魔王ちゃんの悪魔部隊が用意してくれた諜報結果を、【記録魔法Lv1】で大きく投影する。

 悪魔たちがジャポン小国の一部華族を籠絡して手に入れ、ストクッズ領内で捕らえたアメリオ帝国の密偵からも得た裏取引きの資料である。



「はい! この資料を見るに、【消耗税】で搾取した財源は20%しか社会保障に充てられておりません! ですので、仮に【消耗税】を廃止しても社会保障は他の税収で十分にまかなえます」


「な、なんと!?」

「見てみろ! ほとんど財武省管轄で用途不明なものに使われているぞ!」

「なぜ我々の血税がアメリオ帝国に流れている!?」

「大商会にも……?」

「裏金だ裏金!」


 このデータには多数の華族が大いに憤怒していた。

 おっほっほー。

 夏破の屈辱に塗れた表情と、冬豪(とうごう)財武大陣の『しまった!』って顔がきもちぇええ!


「そして神聖ハイリッヒ帝国の消耗税は20%ですが、食料品や生活必需品においては0%です。無税です! さらに保険料もなく、治療費は全額無料です。同じく、竜国もです!」


「おいおい、それじゃあ実質ジャポンの税率が一番高いんじゃ……」

「いや、一概にもそうとは言えないだろ」

「でも消耗税を20%に引き上げなんてしたら間違いなく取りすぎだよな……こっちは保険料も治療費も払ってるんだぞ?」


 さらに追い打ちをかけるべく、悪魔諜報部隊のデータをズラリと並べる。


「ここ十年のお給料の変化ですが、神聖ハイリッヒ帝国の平均年収は280万から475万に上昇しております! 対するジャポン小国は! 467万から380万に激減しております! この状況下での消耗税10%は大きすぎます!」


「そうだそうだー!」

「所得が上がってる国と比較した夏破は悪質すぎるぞー!」

「国民の苦しみを何だと思ってるんだあああ!」

「恥を知れ、恥を!」


「さらあにいいい、ジャポン小国の税種は全部で47項目! 対する神聖ハイリッヒ帝国は31項目ううううう! ジャポン小国民の稼いだお給料からあらゆる税金を引き! 日々の買い物でも10%払い続けるとおおお! 実質、手元に残るのは45%! 対する聖国はッッッ68%もあります!」


「55%も税金で取られているだとう!?」

「不当だ!」

「数百年前の農民反乱は、50%の重税に苦しんでいたがゆえに起きた……」

「今の我々は……数百年前の農民にも劣る処遇だと……!?」


「くっ、見えないところで商会が負担しているあれはなんだ!?」

「通常であれば商会から32万円貨(まどか)の給料がもらえるところ……嘘だろ、保険料2万円貨を商会が支払い、労働者も2万円貨を支払い、さらに年金などの諸々で2万弱、合計6万も税として徴収されている!? 結果26万円貨しかもらえていない!? そこからさらに様々な税金を支払い、日々の買い物にすら10%払い続けると……確かに15万弱しか使えないいいい!? 55%も搾り取られてるううう!?」


 よしよし、完全に流れは消耗税撤廃の流れだ!

 ここでミコト姫の春家をスポットで照らせば万事解決するぞ!


「我が朋友であるミコト姫率いる春篠宮家(はるしののみやけ)は! 消耗税の完全撤廃を掲げています! どうか、どうか! 次の選挙では春篠宮家(はるしののみやけ)血涙(ちなみだ)の一票を! 耐え忍んだ大和魂の一票を!」


「「「うおおおおおおおお!」」」


 ん、なんか【王族の金庫(ロイヤルバンク)Lv1】が発動してるな?


『ジャポン小国の民:忠誠度Lv1が10万人を超えました』

『【王族の金庫(ロイヤルバンク)】の残高が37億 → 137億に増額しました』


 おっほ。

 この調子でどんどん信仰を集めて、あとはそうだ!

 育乳食材の貿易も提言しておかないと!


「そして我がオルデンナイツ王国は消耗税さえ撤廃すれば、貴国に対する関税を撤廃する可能性がございます。さすればジャポン小国は今よりもっと豊かになります! 特に大豆、鶏肉、卵の大口取引きを————」


「喋りすぎだ小僧————【羅刹(らせつ)冬将軍】」


 しかし、俺の刀弁は冬豪(とうごう)財武大陣(ざいむだいじん)によって遮られた。

 全てを凍てつかせる冬将軍の刃が閃き、危うく俺は切り殺される寸前だった。

 どうにか身をかわせば、左腕を大きく切り裂かれ……体内の血が急速に凍結する感覚に襲われる。


 だがしかし、【血戦(けっせん)魔法Lv1】で習得する【血炎(けつえん)】にて、自身の血の温度を調整する。

 同時に【演舞春式Lv5】と【演舞夏式Lv2】の複合スキルを発動。


「————【血涙も、憎しみ溶かすは、春夏(遥か)の火】」


 んっ、今回の和歌演舞には二重意を含められたけど、美しい5・7・5の形を保てなかった。

 それでも本来は、出血で飛び散るだけだったはずの俺の血液は……燃える意志によって揺らめき、敵を焼き尽くす炎と化した。


「小僧風情がっ————【凍てつくは、春のあけぼの、照る炎夏(縁禍)】」


 冬豪は俺の反撃を冬雪の息吹きによって(しぼ)ませてゆく。

 夏と春の火でも溶かしきれないとは……さすが専攻部隊を束ねる財武大陣なだけはある。



「ネル・ニートホ・ストクッズ君、冬豪冬士郎財武大陣。両者拮抗により、問答を許可します」


「財武大陣として警告します! ジャポン小国は財源不足であります! 戦災復興費として多くの借金を抱え、その金額は1000億円貨(まどか)を超えるのです! この国難に立ち向かうには増税一択しかありえません! 国民の一人一人が戦争の傷跡を癒すのだ!」


 冬豪の先制攻撃に、俺はさらなるデータを空中に投影する。


「ジャポンの総資産は現在9800億円貨。ですので借金に怯える必要はありません! そもそもこの借金はジャポン小国が発行したもの! 返す必要すらないのです! 大陣がたが『財源がない』とうそぶき、『返せ!』と増税しなければ、ですが」


「バカを言うな! そもそもこのような外国貴族の小僧が示すデータに、言葉に! どれほどの真実味があるというのだ!」


 やばい。

 痛いところを突かれてしまった。

 

「消耗税を撤廃し、国民は本当に豊かになるのか!? 小僧ごときの一声で、オルデンナイツ王国が我が国に課した関税を廃止できるはずもない! 全てに根拠がないであろう!」


 かくなる上は————

 仕方ない、最終奥義パイオニア作戦に出る他ない。



「冬豪財武大陣にはどうやら見えていないようですね。我々が先駆者(パイオニア)にならんことを!」


「何を訳の分からんことを————」


 ふっ。

 だが『パイ』の二文字で覚醒する御方にはしっかりと伝わっただろう。


「これは()戦であります!」


 俺とディスト王子の視線が交錯すれば、誰よりも巨乳を愛するちっぱい男装姫は颯爽と立ち上がった。


 何も説明をしていない。

 何も説明すらいらない。

 ただ、俺に————全幅の信頼を預け、立ち上がってくれたのだ。


『これからネルがなすこと全てに僕が責任を取る』と!



「聖戦だと? 返す言葉もなく気でも狂ったか。もう小僧は刀弁するに値しない————【道化師が、鳴くよ霜夜(しもよ)に、はか()くも】」


「————【()もすがら、冬()れ想ふ、春花秋月(しゅんかしゅうげつ)】」


 全てを亡き者にしようとする絶対零度に、俺はジャポン小国民の苦しみを謳った。


 明けない絶望。

 夜通し草木(ひとびと)が枯れゆく寂しい世を、狩りたいと願う。

 春に咲き乱れる花を想い、秋の夜に浮かぶ名月の雅さを尊ぶ。自然の清らかな美しさを、ずっと待ち望んでいると。


 ゆえに季節を巡らせる。

 凍える冬を狩り、次の季節(はる)を呼ぶ。


「なっ、三季の舞いを合わせただと!? わしの冬がっ、小僧ごときにっ!?」


「——【春眠(しゅんみん)の、夢へと誘う、猛き夏、秋の残り香、澄んだ冬月】」


 春の夢で全てを見るがいい。

 地獄の猛暑も、豊かな猛毒の香りも、澄み切った狂気も。

 もっともっと美しかったであろう、自分の信念を思い出せ。


 春夏秋冬それぞれの舞いが、四季神術が、冬豪を催眠へと堕とす。

 そして無限に続く四季の厳しい自然を、ひたすら幻想の中で味わわせる。


「ふぅ、ぐぅううう……ぐああっ……ひぃっ……ぐううう……」


 俺が舞う中で、彼は無様に膝をついて涙をこぼし続けていた。

 その涙に悔恨やら無念があるかは与り知らない。

 知りたくもない。

 ただ、この場で誰が勝者なのかは証明できたはず。



「私、ネル・ニートホ・ストクッズの言葉は————オルデンナイツ王国第一王子、ディスト・エクエス・オルデンナイツの言葉と思ってください!」


「ネルの発言に相違ない」


 俺の隣に立つはディスト王子だ。

 これで俺の言葉にも信憑性が生まれるだろう。

 なんて頼もしい存在なんだ。なにせ何をやらかしても全責任を取ってくれるのだから!


「では、こちらのデータをご覧ください。年々、ジャポン小国の人口は減り、一年で約2万人も減少しております! これは貧困により子育てができない家庭が増加しているからです。つまり大いなる未来(巨乳)が摘まれているのです!」


「こっ、これは……政策による……静かな大虐殺ではないか……!」


「ですので、我がストクッズ男爵家は! 一年間! ジャポン国民一人一人に、毎月一律給付金うぉっ、3万円貨(まどか)進呈します!」


 この発言にはパパンがキョトン顔になってしまった。

『な、何を言っている、ネルよ……?』といった感じだったけど、さすがはパパンだ。一瞬で厳めしい顔に戻った。


 しかし、俺の狙いは功を奏していた。


『ジャポン小国の民:忠誠度Lv2が30万人を超えました』

『【王族の金庫(ロイヤルバンク)】の残高が137億 → 737億に増額しました』


 じゃぶじゃぶ増やしてどんどん投資して、がんがん経済を回せばいい!

 ジャポン小国の人口は約100万人なので、一カ月の出費は300億。

 いける。【王族の金庫(ロイヤルバンク)】の残高が、毎月このペースで増え続けるならむしろプラスだ。


 期限は一年だしな。

 その間に死に腐ったジャポン小国の経済が少しでも回復すればいいさ。


 民はとにかく重税に苦しんでるのだろう?

 なら人気取りだ! 民に媚びを売れ!

 俺の【王族の金庫(ロイヤルバンク)】が火を吹くぜ!



「みなさんはもうおわかりでしょう。ストレスや不安こそが、大いなる希望(巨乳)を打ち砕くのです!」

 

 そしてここからが本格的な演説だ。

 まだ気を抜くなよ、俺。


「私が掲げる公約は! 『楽しいジャポン!』です! まずはこちらのデータを! 地域別に酒場の祝杯カップ数をランク付けしたものです! 一番少ない地域をAカップとします!」


 首都圏は平均Cカップ。

 ちなみにジャポンとオルデンナイツ両国のデータを表示している。


「首都ですら! 全地域から多くの娘たちが集まってこの幸福値です! しかぁああああし! 地方の平均カップ数は大きいところでEを超える地域もございます!」


「な、なぜ我が王都はCなのだああああ!?」


 悲鳴を上げるディスト王子に俺は朗々と語る。


「それは! 地方の方が緩やかに! 和やかに! 穏やかストレスフリーで過ごせるからです!(そんなのはテキトー統計だし、都会の方が変にご近所付き合いとか少ないから楽って人もいる)つまり成長期によるストレス負荷は! お胸に抱く希望の成長率にッ、著しく! 影響が出ます!」


「ぐ、具体的に言うと……?」


「伸び伸び過ごした方が大いなる希望(巨乳)が育まれます!」


「な、なんと……ハッ、では現状のジャポン小国に三種の神器(育乳食材)がそろっていても……楽しくなければ、ダメなのか……!?」


「ジャポンの民よ! 重税に苦しむ毎日で! 未来に不安ばかりが募る毎日で! 楽しいか!?」


「ネルよ……まさか、まさかお前が目指す(いただき)は……!?」


 カッと今までにない目力で俺を見つめるディスト王子。

『王国民だけでなく、ジャポン小国の民にも【巨乳育成計画】を!? いや! お前はッ、【全世界☆巨乳育成計画】に挑むのだな!?』と、熱い眼差しで語ってきたので深く深く頷いておく。


「重税に苦しみ、節約生活を余儀なくされるうら若き希望(ちっぱい)……! それはもはやストレスと戦う毎日になっております殿下!」


「とうごおおおうう財武大陣ぃぃぃん! なつばあああ総明だいじぃぃぃぃいん! 正式な外交案として重要な話がある!」


 ディスト王子は天地を揺るがしかねない声量で以って、大議事堂を席巻した。


「こふぉ、ふぁ……?」


 しかし肝心の冬豪財武大陣は未だに幻想の中で苦しみ、夏破総明大陣はボッコボコのボコで倒れ伏している。

 それでも夏破はかろうじて意識を保ち、ディスト王子を見上げた。


「貴公は確か、龍華共和国とアメリオ帝国、そして各大商会から支援を受けているようだが……まず手始めに【消耗税】をなくすがよい。次に各種税率を見直し、大幅に減税せよ! キックバックや中抜きに対する厳罰への法整備も怠るな。そして財武省での出世基準を大幅に改定し、増税した者を出世させる悪しき風習は根絶せよ」


「か、そんな、いきなり無茶です。いくらオルデンナイツ王国が大国であっても……我が国の主権に意見するなどと……」


「もとより外国の飼い犬であろうに。民から搾取した者が出世するのではなく、民を潤した者が出世できる仕組みに作り変えよと言っている。全世界の平均カップ数を引き上げるため! 先駆者(パイオニア)となれ!」


「は……? カップ数、パイ、でございますか?」


「うむ。わかったな!?」


「しかし増税しないと……そう考えておりまして。一時的に給付金をバラまけば民はだませ、納得してくれるはずで……裏で復興所得税の支払い期間を20年伸ばせば、バレないので……実質二倍とれますから……」


 ここまで追い詰められても、夏破は口を開けば増税だった。

 俺もディスト王子も、そしてジャポン国民も怒りを通り越して呆れに染まる。


「僕の言を実現する意志があるのなら、オルデンナイツ王国は全面的な支援を約束する。無論、アメリオ帝国の圧力を気にするのであれば、武力面での安全保障条約を結ぶのもやぶさかではない。ミコト姫率いる春篠宮家はいかに考える!?」


(わらわ)の意志は民の意志なり。ゆえに異論などありません」


 よし。

 折よくミコト姫に話題が飛んだので、俺はここぞとばかりに飛びついた。


「私、ネル・ニートホ・ストクッズは曇りなき(まなこ)で見てまいりました!」


 手のひらで優雅にミコト姫を示す。

 なにせこのままでは俺がジャポン復活政策に尽力しないといけない雰囲気だからだ。あくまで政策やらの業務はミコト姫たちの派閥に任せるかんね!


「みなさんも疑問に思うでしょう! どうして私たちがここまでジャポンに助力するのかと! 何か裏があるのではないかと勘繰る者もいるはずです!」


 そして俺は堂々と、鋭く笑った。



「裏ならあります! ミコト姫の笑顔を、幸せそうなご尊顔が見たい!」


 これには秋家や春家のみなさんも同意だろう。

 まずは華族から共感を得て、そして国民へと繋ぐのだ!


「彼女は常に張りつめ、己を律し、ジャポンのために奔走しております! 単身でオルデンナイツに留学し、ジャポンを救えないかと必死に学んでおられる!」


「逃げたんじゃないのか?」

「我々を見捨てたわけではなかった?」

「そんなまさか。皇族は最大の戦犯者だろうに」


「そして! 彼女はクラスでの軋轢の中、必死に耐え忍びながら足掻き続けていました! 国民のみなさんと同じように辛酸を舐め続けたのです! ぶっちゃけ我が王国貴族子弟に仲間ハズレにされておりました! いじめです!」


「嘘だろ?」

「許せない……」

「仮にも皇族が?」

「情けないな」


「自国の皇族がこうまで軽んじられて、情けなくならないのか!?」


 俺の発言に今までミコト姫を糾弾していた一派が沈黙する。


「皇族が軽んじられるほどに、貴殿らは弱い! それでもミコト姫はお一人で戦い続け、多くの学友を獲得されました」


 俺たちがこの場いることこそ、大いなる証明である。


「私がこの場にいるのも、ディスト王子殿下がおられるのも! ミコト姫の生き様に胸を打たれたからです! では、ジャポン国民はどうか!?」

 

「ぐぬ……我らが力及ばずゆえに、ストクッズ男爵令息が姫君を……大和を守ると……」

「負けられぬ!」

「あっぱれだな……ストクッズ男爵令息は」


「これほどまでにミコト姫への熱い想いを胸に秘めていたとは」

「姫君を守る……護国の武士(もののふ)のそれじゃないか」

「認めざるをえないぞ、これは」


「まごうことなきミコト姫への求愛、求婚であるな」

「熱烈な愛は国境をも越え、そして大和の危機すら乗り越えるか」



 何か外野が騒がしくなってきたので、俺は熱弁と共に拳を振り上げる。

 正直、俺だってここまでくると自分で何を言ってるのか意味不明だし、論理は破綻しまくってるし、ツッコミどころも満載だ。


 それでも、どうにか、どうにか!



「どうにか現状を変えたいって気持ちだけは本物だ! ジャポン国民は……大和皇国の民はどうなのだ!?」


 ここにかける情熱は————


「熱き大和魂に誓って、次の選挙には必ず! 決断し、行動せよ!」


 再度、俺はミコト姫を示し、そして最後の言葉を全身全霊で届けた。





「そうっ! 今の大和に足りないのはエロなのだ! 巨乳なのだっ!」



 エロこそが今回のように人民を救う鍵となる!

 肌の色や目の色、価値観や環境が違っても、唯一エロこそが人類共通のテーマ!

 分かり合えるのだ!


 そして巨乳のために団結し、平和の礎を築く!

 これこそが世の真理なんだ!





 あっ。


 やべ、俺ってばなんか勢い余って口走った?



「あ、あー……エロとはつまり、エネルギーロスとかエコロジカルの略で、限りある資源を無駄にしないようエコロジカルな社会を目指す意味でして。それにキョニュウとは巨大なニューシンボルウ! の略で……国民が一丸となって集う旗印が必要だと、そんな感じです、はい」


 わかったかな、諸君?

 ん、無理がある?


 そこはどうにか無理を通してほしいな、うん。



 でもミコト姫が顔を真っ赤に染め涙目でこっち睨んでるし、自分のお胸を両手で隠しながらプルプル震えてるので何もかもオワタ。

 

 あと隣で『よくぞ言い切った』ってサムズアップしてるディスト王子がウゼエ。

 


 俺、珍しくがんばったのになあ……。



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