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6話 虹の才能



「坊ちゃまを殺めるだと!? おい、シロナ! うちの【奴隷紋】は、奴隷が主人に危害を加えられるような安物じゃないぞ!」


 奴隷商はシロナに激昂した。

 確かに彼女の発言は奴隷商人としての沽券に関わる。


「シロナ。俺を殺す、とはどういう意味だ?」


「……べつに、そのままの意味、です」


 うーん。

 この話題について深く話すつもりはないようだ。

 彼女の様子から買われたくなくて嘘を言っているようには思えない。

 少しだけ危険な匂いがするので、ヘリオに聞いてみる。


「ヘリオ。この娘をどう思う?」

「はっ。ネル様のご英断に背くなど言語道断でございます。ネル様のご慧眼に間違いないかと」


 うーん……こいつはいつもイエスマンなんだよなあ。

 いい奴ではあるんだけど……先を思うと不安が残る。


 対する目の前の少女は、『俺が死ぬ可能性がある』と物言いは無礼であっても、根底には俺への思いやりがあって、俺の方針に意を唱えている。

 イエスマンだけで脇を固めるのは二流。

 一流は諫言してくれる部下がいてこそだ。


 崇高なるヒモニートライフを実現するためにも、女勇者(主人公)の脅威を避けるためにも、こういった人材は必要だろう。もちろん奴隷だから万が一にも俺の命を脅かすことはないはずだ。

 彼女が何を抱えていて、どうして俺を殺すかもしれない、と言ったのかはわからない。


 今の関係値では語らずとも、じっくり懐柔してゆけば口を割ってくれるだろう。それに自分自身を危険視するなんて、むしろ女勇者をも凌ぐ強力なユニークスキルを持っているかもと期待してしまう。


「もしや……この娘はユニークスキル持ちか?」


 奴隷商に尋ねると、そこだけは誇らしげに語る。


「【神託の聖石】が示した内容によりますと、【怪力】と【魔士】の二つございます」

「二つもか。珍しいな」


【怪力】は文字通り、『ステータス:力』の成長が著しく伸びやすく、武器を扱うスキルがほんの少しだけ習得しやすくなる。そして【魔士】は『ステータス:色力(いりょく)』と『信仰(MP)』の成長に若干のプラス補正がある。

 なかなか使い勝手のいい魔法剣士スタイルにビルドできそうだ。


「はい。ただどちらも強力なユニークスキルではございませんので、お買い上げいただけるのであればサービスいたしますよ?」


「わかった。ではシロナを購入しよう」


 こうして俺は白髪のぼくっ()奴隷を買った。





 邸宅についてからは、俺自らの手でシロナの面倒を見てやった。

 最初はビクビクしていた彼女も、一週間が過ぎる頃になれば硬い表情も柔らかいものに変化していく。

 そりゃあ暖かい寝床や食事も与え、さらに読み書きや魔法のアレコレなど丁寧に教えてやるのだから信用せざるを得ないだろう。


「いいかい、シロナ。魔法には白、黒、青、緑、赤、黄、紫と七属性が存在していて、これらにはそれぞれ特色があるんだ」


 邸宅内でシロナと過ごす時は、なるべく悪役小物貴族らしい外面は捨てて、優しい声音を出すように意識している。


「今からキミがどの属性に最も適正があるのか調べるから、【神託の魔石】に手をかざしてごらん」

「はい、先生」


 素直に俺の言うことを聞くシロナ。

 彼女が魔石へ手を伸ばすと、眩い光が魔石に宿る。

 それから数瞬後には七色に明滅して魔石が砕けてしまった。


 俺は見覚えのある現象に唖然とするが、一緒に見ていたヘリオはその様子を鼻で笑った。


「ふん。神に拒絶されたか……奴隷の分際でネル様のお手を煩わせるからこうなる。まさか適正なしの無能だとはな」


「ヘリオ……静かに」

「しっ、失礼いたしました」


 虹色に光って【神託の魔石】が砕ける。

 これは『ガチ百合ファンタジー』で、女勇者(しゅじんこう)が魔法適正診断を受けた時と同じ反応だ。

【神託の魔石】が砕けるのは、神に拒絶された無能の証。ゲーム序盤では、みなが女勇者の『適正なし』に失望しては見下した。


 しかし、女勇者(しゅじんこう)の場合は砕けただけでなく、一瞬だけ七色に輝いていた。

 あとで判明するのだが、それは全属性に適正があり、かつ神をも砕くほどの力を秘めている意味だったのだ。


「いやしかし……そう、女勇者(しゅじんこう)と同じ特性を持つ者がほいほい存在するのか……?」


 俺は慎重に考える。

 しかし目の前のシロナは女勇者とは違う名前だし、そもそも生まれ持っての才能『ユニークスキル』だって違う。


 まったくの別人だ。

 そうなるとシロナは魔法戦で、女勇者に匹敵するカードにだってなりうる!?


「……シロナ、よくやった!」


 もしかして俺はものすごい逸材を拾ってしまったのかもしれない。




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