59話 陰謀と淫謀
「ぐぬぬぬ……外国貴族のバカ息子風情が……!」
「冬豪財武大陣。そう気を揉んでも仕方あるまいに」
「ですが夏破総明大陣……おかげでストクッズ男爵を通して、オルデンナイツ王国へ関税廃止の圧力をかけられずじまいでした……」
先日の会食の空気は、全てあの小生意気な小僧に持っていかれてしまった。
なにせあのガキが謳った和歌は……未だに皇族を支持する四大華族がうちの二家、春家と秋家の感情を無駄に勢いづかせた。
『亡国の——美しきかな、魂は——春をいづこへ、隠したもうた——』
あの小僧が謳ったのは、ミコト姫への熱烈な恋の歌に聞こえるが……実は在りし日のジャポン小国を……『大和皇国』を憂いた歌だ。亡国の魂は美しくも冬に散ったと、つまりこのわし冬豪家によって!
『大和皇国』の美しさを慈しみつつ、春家出身の命姫をどこに隠すのか、いつまで大和から芽吹きの春をお隠しになられるのかと……現在のジャポン小国の惨状と、ミコト姫帰還の祝いを掛け合わせた歌!
ぐぬぬぬ……『大和皇国』の復活を目論む連中からすれば、さぞ胸が打たれよう。じゃが、冬家と夏家は違う。
現に大陣の頂点に立つ、夏破総明大陣だって裏からアメリオ帝国や龍華共和国、そして商会献金で支援してもらっているのだ!
「まあまあ、冬豪財武大陣。そこまで気に障るのであれば、次回の【国会刀弁】に招いてはどうでしょうか」
「【国会刀弁】にですか……?」
【国会刀弁】とは全ジャポン国民に放送されるもので、武威と志を示す大会議である。
各勢力の代表者が卓越した刀術や四季神術を繰り出し、現在の政策に要望や疑問を呈する場だ。それらに現大陣は武技と言葉で以って応える。
わしらは敗戦後、アメリオ帝国などからの支援を礎とし、戦後復興を速める名目で民の支持を得てきた。
そうだ。わしだって最初は『大和皇国』を想って、皇族を犠牲にしてでもジャポンが残るならと必死に奔走した。
それでも大国の前では、やることなすこと全てを阻害される。
逆らえば武力による脅しが控え、理不尽にねじ伏せられるばかりだった。
どうしようもできないのなら、せめて私腹を肥やす他ないと悟ったのだ。
「しかし夏破総明大陣……次回は選挙に大きく関わるタイミングでは……?」
「【国会刀弁】でミコト姫を擁立する春家を徹底的に潰せばよいのです。その隙が、あの外国貴族の小僧にあると思いませんか?」
「それは……まさか敢えて、あの小僧にも【国会刀弁】に立たせると?」
「ええ。ミコト姫の傘下として喋らせ、舞わせればいいのです。政治など碌に知らぬ小僧っこを民の前で吊るし上げるのですよ。私や冬豪財武大陣の刀術と話術でねえ」
「さすれば外国貴族になぞ頼るミコト姫の、春家の脆弱さを見せつけられますな?」
「ええ、ええ。そしてストクッズ男爵は再びこの夏破に泣きつき、多くを献金してくれるでしょう。その際は、冬豪財武大陣も一枚かませてさしあげますよお」
ふぁーふぁっふぁっー!
見ていろよ、ストクッズ男爵家の小僧め。
◇
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:和の姫君に総額500万の和食をご馳走してもらう】を達成』
『スキル【四季降り剣術Lv3 → Lv5】にアップしました』
『スキル【演舞春式Lv3 → Lv5】にアップしました』
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:和の姫君に高級宿の宿泊代を2週間分支払ってもらう】を達成』
『スキル【春華春闘Lv1 → Lv3】にアップしました』
『スキル【演舞夏式Lv1 → Lv2】にアップしました』
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:和の姫君より国賓爵の位に認定されました。一時的に大和皇国の最下級貴族位の獲得】を達成』
『スキル【演舞秋式Lv1 → Lv2】にアップしました』
『スキル【演舞冬式Lv1 → Lv2】にアップしました』
『スキル【ヒモ】が発動。【条件:魔王ロザリア指揮下の魔王軍が、ストクッズ領内に潜伏していたアメリオ帝国の密偵部隊を捕縛】を達成』
『スキル【血戦魔法Lv1】を習得しました』
『スキル【記録魔法Lv1】を習得しました』
おお、おお!
ひとまずはミコト姫の大判振る舞いに大感謝だぜ!
それにサラっと魔王ちゃんも活躍してるようだ。
やるじゃん魔王ちゃんサンキュー。
もしかして和平条約に記された内容以外の支援って、全部ヒモスキルに結び付くのでは?
となると、『協力のラインはここまで!』って明確に線引きしておいた方がヒモスキルって発動しやすいかもしれない。
しっかしアメリオ帝国の密偵か。
ジャポン小国を蹂躙したかの帝国が、うちの領地で情報収集してたとかきな臭いな。
「ネルよ、ジャポンは良いな。夏でもかように涼やかな『かきごおり』を堪能でき、豊かな緑を楽しめるのだから」
「さようですね、ディスト王子殿下」
そして今、俺たちはジャポン小国の外交官数人がお付きでいる中、ジャポン庭園の奥ゆかしさを楽しみながら『かき氷』を優雅に食していた。
うーん! このキィーンとする感覚がたまらないぜ!
ディスト王子ってば数日は遅れるって話だったのに、たったの一日遅れでジャポン小国に到着したのだ。
なにやら急いで政務のアレコレを片付けてきたらしい。
もしかしてジャポン小国への旅行が楽しみだったのかな?
ちなみに高級宿の中居さんやら外交官やらは、ディスト王子の美形っぷりに目を見張っていた。
そしてまさかオルデンナイツ王国の王族であるディスト王子自ら、ジャポン小国に来るなんてと驚き慄いていた。
忘れそうになるけど、ちっぱい男装姫ってば超大国の王子なんだよね。
そりゃあ影響力は抜群だろうし、外交面でもかなり重要な人物になってくるよね。
ちなみにヘリオは王子殿下と俺が親しくしていると知ったとき、『もう今更驚きませんよ。ネル様なら当然ですとも』と呆れ感動が半々の反応だった。
「それでネルよ。ミコト姫との関係(育乳品の輸入)はどうなのだ?」
「はい。昨日は素晴らしいおもてなしを受けました」
ディスト王子は王族の威厳とやらを損なわないよう、外交官たちの前で堂々と語る。俺にだけわかる隠語を使って。いや、淫語か。
「して、三種の神器(育乳に必要不可欠な、大豆、鳥肉、卵)は確保できそうなのか?」
「はい。実は近々催される【国会刀弁】に立てる栄誉をいただけまして。その際に、我がオルデンナイツ王国との友好関係(育乳品の貿易)が、いかに実り(巨乳)あるものかと熱弁したく存じます」
「ほう? 外国貴族のネルがジャポン小国の内政に関与できるのか? よくやったではないか!」
「はい。とは言っても私の刀弁はお飾りのようなものです。それに春家や夏家と懇意にしていた父上の功績が大半ですので」
「ほう……そういえばストクッズ男爵は夏家の仲介で、ジャポン小国の土地を買い付けたと聞いたが。そうか、夏破茂蔵総明大陣の口添えあってか」
実はうちのパパンってば夏破総明大陣に、ストクッズ大商会から大口献金をしている。彼の政治資金に巨額を投じ、そしてジャポンの国土を買い付けられるだけの法を整備してもらったのだ。
「ですが私は今回、春家ご出身のミコト姫の名代で刀弁に立つようです」
「うん? まあ此度はミコト姫の学友として旅行に来たわけだしな……ただ、妙だな……ミコト姫の春家と、夏破総明大陣の夏家は……」
「はい、敵対しております。夏家が敵に塩を送るようなものかと……いずれにせよどんな困難が待ち受けていようと、ここは一歩も譲らず大い(巨乳)なる栄光を勝ち取ってみせます」
「ああ。大い(巨乳)に期待している」
して最近、ストクッズ男爵家が運営している紳士クラブ『母なる女王』についてだが————と、王子はドMバブバブ女王様クラブに大変興味を示されているようだ。
「あ、あれはここだけの話ですが……一部貴族の粛清のために運営しているものでして」
「ほう——詳しく申してみよ。特に紳士クラブのサービス内容についてな」
「承知いたしました! たるんだ貴族たちの身も心も引き締めるべく、耐久力を鍛えるプランがございまして————」
「————ほう、飴と鞭は教育の基本だが、絶妙なバランスでバブバブが——」
こうして俺たちの淫謀は育まれていった。




