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45話 初めての共同作業


「ディスト王子殿下、ついにこの時がやって参りましたな」

「ああ、ネルよ。今日、この時より我らが大いなる野望は始動する」


「仰る通りでございます。たとえ小さな変革であろうと、これは革命の兆しと言えるでしょう」

「ああ、まさか貴族の常識を根底から覆す境地に辿りつくとはな……」


 俺たちは重厚な雰囲気をまとわせながら廊下を歩く。

 最近はそれだけで、俺たちを目にしたご令嬢たちが黄色い声や吐息を奏でているが、今も例にもれずに崇敬の眼差しが向けられている。

 もちろん、俺は【王の覇気Lv2】を発動しているしディスト王子も同じようなスキルが備わっているのだろう。

 だからこそ彼女たちは何か勘違いしている。


 なにせ俺たちの会話内容は、今から同年齢の貴族令嬢たちのブラ姿を視察して、その意見やデザイン案をリサーチするだけだ。

 とはいえこの世界において男である俺たちが、婚姻前の貴族令嬢の素肌を目にするのは、貴族社会の常識を根底からぶっ壊したに等しい。


 そう、合法的に同級生らのブラ姿を堪能できるなんてマジすげえ。

 そもそも貴族令嬢の貞操というのはかなり厳しい。婚約者でもない限り、異性と二人きりでいるだけで不名誉に値するし純潔を疑われる。

 そんな貴族社会であれば当然、うら若き乙女の素肌を直接この目で見るなんてご法度中のご法度だ。


 しかし、しかしだ諸君。

 正当な理由さえあればどうとでもなる、それこそが貴族社会である。


 それは社交界のために、ダンスパーティー用のドレスを仕立てる時の採寸など、下町のデザイナー風情に令嬢たちは純潔な素肌をあられもなく見せる。

 今回もまた、王族が仕切る学園イベントでの必須業務であり、さらには貴族令嬢たちが今後身に着けるブラジャーの先駆者として名を残せる栄誉をもらえるわけだ。


「姉君。ネルと共に参った」

「ひゃっ、はい。どうぞ、ディスト」


「失礼する」

「失礼いたします」


 そんなわけでご令嬢方が待つ更衣室へ、堂々と俺たちは入った。


 まず目に入ったのは三年生の方々だ。

 そこには未成熟でありながらも、すでにボインの兆しを大いに見せるアリス姫騎士とバインネ公爵令嬢のナイスなブラ姿が。

 15歳になりかけの瑞々しい白肌と、雄大なやわさが育ちつつある双丘は……何物にも代えがたい王国の至宝と言える。


 チラリとディスト王子を横目で見れば、バインネ公爵令嬢の胸元に視線が釘付けである。

 しかし腐ってもそこは王族。

 下心のしの字も見せずに、淡々と気難しげな表情でブラのデザインを凝視しているフリをしている。


 ちなみになぜ姫騎士とバインネ公爵令嬢がブラのモデルになったのかと言えば、当初は一年のミコト姫だけがテスターの話だった。しかしそれでは外聞がよくないとの意見が入ったのだ。

 そこには『他国の姫君だから素肌を見せてもよいと不当に扱った』、もしくは『他国の姫君にばかり脚光を浴びせるのはよくない』との指摘を受けた。

 そして尤もな意見は、そもそも『学年毎によって成長具合が違うので適性サイズを分析するには、学年別で試着した方がよい』なんて素晴らしい提案もあった。


 その発言を聞いた時のディスト王子の喜びようと言ったら尋常じゃなかったな。

 もちろん喜びを表情には出さず、俺だけがわかる熱い瞳で語っていた。


 とにもかくにもミコト姫と家格的に劣らない、王族である姫騎士とバインネ公爵令嬢に白羽の矢が立ったわけだ。


「いかがかしら、ネルさん」

「どうでしょうか、ディスト王子殿下」


 二人は恥じらいつつも俺たちに意見を聞いてくる。

 まずは俺が姫騎士のぷにゅぷるるんなマシュマロを眺めつつ、ブラジャーを入念にチェックする。


「そうですね姫殿下。サイズはEの80で申し分なさそうですが……もう少し脇肉を寄せて、そうです。背中からも多少もってくるようにすれば楽になるかと」

「私ったらまだまだ、ですわね……下着一つとってもネルさんにご指導いただくなんて……他にもございまして?」


 なぜかハアハアと頬を赤らめながら『もっとご指導を』と所望してくる姫騎士。

 しかしそれ以上はできないしやりたくもない。

 更衣室の隅から(・・・・・・・)黒いオーラが(・・・・・・)バッチバチに漂ってくるからね!


「バインネ公爵令嬢。着け心地はいかがか? 少々、キツそうにお見受けするが」

「はい。こちらの表記ですと……Eの75ですわよね」


「であるならばEの80もしくは、Fの65~70を着用してみてくれ」

「かしこまりました王子殿下」


 ここでバインネ公爵令嬢はつい、いつもの習慣でカーテシーをしてしまう。

 少し膝を折るわけで、バインネ公爵令嬢のバインバインが上から鮮明に見えてしまう。


「……!?」


 なんてトラップ! 強力すぎる伏兵を目の前に、ディスト王子の鼻の下が伸びかける。しかし、彼は腐っても王族。

 自分を極限まで律し、どうにか平静を保った。


「……くっ、はっ……!」


 ちなみにディスト王子殿下はたった数日で、ブラジャー知識全てを俺から吸収して頭に叩き込んでいる。寝る間も惜しんで研究した甲斐もあり、もはやその実力はブラジャーソムリエの有段者だ。

 ゆえに彼の指示も的確で理にかなっている。


「お次はレイ伯爵令嬢ですね。サイズはCの70でキツくはないかな?」


 二学年でブラの先駆者として選ばれたのは、当然俺の派閥に属しているレイ伯爵令嬢だ。

 彼女はストクッズ大商会が取り扱う品々の威力を知ってるからこそ、その商品の先駆けモデルになれるのを大いに喜んでいた。

 何せ今後ブラが普及すればレイ伯爵令嬢の箔が付き、格も上がるわけだ。


「はい、ネル様。ですが下のワイヤー部分が少し気になってしまって……」

「なるほど……肩ひもの位置は動きに支障など出ないかな?」


「そこは問題ないかと。ですがやはりお胸の下部の締め付けが窮屈です」

「なるほど下乳は尊くも……いえっ、これはパット導入も検討した方がよいかも……いやディスト王子殿下の信念を考慮するとソレは邪道か……?」


 危ない危ない。

 ブラの下部から見えるレイ伯爵令嬢の下乳はみ肉ぷるりんにやられかけた。

 13歳の発育真っ最中な下乳の破壊力といったら、張りつやぷっくり信仰に目覚めそうになるほどの威力だ。

 そもそもはみ出ているので、その辺も先ほど姫騎士に行ったように正しいブラのつけ方を冷静に指導しておく。


 ちなみに前世も男である俺がどうしてブラのつけ方を知ってるかって?

 ご想像にお任せするさ。

 キモいって思われようが、そこはロマン。調べてしまうのが男の性ってもので————


 おっと、ディスト王子も二年の何某令嬢のお胸を堪能し終えたようだな。

 ではラスボスといきますか。


 我らが同級生!

 ミコト姫と!

 俺の暫定婚約者であるマナリアのお胸とご対面だ!


「ふんっ……さっさと済ませてください」

「ネルくん……あの、おてやわからに、その……」


 うおっっっっっ!

 黒髪黒目の控えめな美少女がっっ!

 懸命に恥じらいに耐えながら、両肘をそわそわと掴むポーズはっっ!

 自然とぷるるるんなる果実を寄せてしまう神ポージングッッ! アメイジーングッ!


 思わず目の前に現れた双子ブリンバンバン霊峰に屈しそうになる。

 しかし俺は紳士なる意志を総動員して、どうにかこうにか理性を結集させた。


「マ、マナリアは……Gの75、だったね。国宝級、そうキミの心を国の宝だと思って……キミを守り抜く気概で取りくむよ。マナリアも自分の心を大切に、優しく包み込むよう意識して、ブラジャーにどうあってほしいか意見を聞かせてほしい」


 あっぶね。

 変なこと言いかけたけど、どうにか軌道修正できたはず。

 つーかロリ巨乳するぎるだろマナリア!


 ダイナマイトすぎるぞ!?

 マナリアってまだ12歳だよな!?

 もうすぐ13歳にしたって爆乳候補すぎないか!?

 くっは!

 着やせ豊満万歳!


 ちなみにマナリアが選ばれた理由は、婚約者である俺が貴族令嬢の素肌を見るならその場でマナリアも立ち会えるなら許す、とのご実家のスタンスらしい。

 浮気予防ってやつだろうか?

 とにかくマナリアの叔父であるストレーガ伯爵はグッジョブすぎる。



 俺はそれからマナリアが所望するデザインや構造などを事細かに聞いてゆく。

 一方ディスト王子の方は、ミコト姫に関心なさげに対応していた。

 それもそのはずでミコト姫のサイズは……AA65だったからだ。

 確かにこの場においては明らかに敗者でありハズレクジだろう。


 だかなディスト王子よ。

 キミはまるで理解していない。


 ここは多少その道の先達である俺が、彼に救道を示してやらねばならないか。

 マナリアとの意見交換をそこそこに終えた俺は、ミコト姫に対して形式上だけの質疑応答を繰り返すディスト王子の間に入った。



「ミコト姫、失礼いたします。ふむふむ……ちくb、先端部分がこすれて敏感になるようでしたら、パットを添えて摩擦を軽減するなどの対処方もございます」


「あっ」


 やんごとなき声を出すミコト姫だが、俺はただただ忠実に任務を遂行するのみ。

 下心が一切気取られるぬよう、全集中(ちち)の呼吸でサラリとパパっとパットを用意し、神速の手つきでブラ補正に入る。



「しかしミコト姫は非常に形が整っていらっしゃいますので、パットで調整するのは女神の美しさを穢すに等しい蛮行でもあります」


「んっ」


 またもやかしましい声を上げるミコト姫だが、俺はブレない。

 絶対にブレない。

 ただただ真剣に解決策と最善の答えを導きだすために全力を尽くす。

 そこだけに意識を傾ける。

 ちっぱいもまた素晴らしきかな、なんて邪念を振り払えええええええいっ!



「ゆえに……! 最終奥義ッッ、ニップレス召喚んんんううう!」


 俺は裂ぱくの気迫と共に、乳首を保護する乳首保護用シートを降臨させた。

 それらをAA65カップですら隙間が浮いてしまうミコト姫の乳首に素早く安置。


「くっあぁっ……!?」


 これこそが華麗なるブラ流儀。

 可憐な娘を守り抜く偉大な父のように、そうこれは父なる乳の呼吸。


「ふう。いかがでしょうか、ミコト姫」

「はぅ……あ……はい、大丈夫、です」


 耳まで真っ赤に染まったミコト姫だが、俺は微塵も気にした素振りを見せずに笑顔で頷く。

 ふうーちっぱいツンデレ姫君が羞恥に染まる顔とかやっばいご褒美でしかないぜ敏感最高!


 それにミコト姫は、今はちっぱいだけど裏ボスの【桜花の大和姫】として登場した時は、立派で立派すぎるボインだった。

 つまり、ここで将来性を決めつけてしまったディスト王子に代わり、彼女の可能性を示唆しておく。

 数年もすればわかることだけど、うちのブラはマジで優秀だからねディスト王子。

 だから王族との共同開発および、王族ブランドは絶対に撤回するなよ。

 

 そんな思惑を内心に秘めつつも、俺たちは同級生のブラ姿を真面目腐った表情を保ちながら楽しんでいった。



「ネルよ……素晴らしかったな。王国の将来はこれで安泰かもしれない」

「確かに。ですが、今は小さき希望すらない者にもお心をお配りなってくださいませ。大いなる可能性を秘めているやもしれませぬ」


「もちろんだ。今日……僕は新たなる境地に至ったかもしれない……」

「殿下……小さな宝玉の原石もまた、大変に魅力的に輝くものですな……」


「わかるか、ネル」

「それはもう……その輝きにこの目が焼き尽くされる勢いでしたから」


「僕もだ。これはもう……我々が大切に育てあげねばならんな。険しい道のりだが、ついてきてくれるか」

「それはもちろんでございます」


 そんな俺たちの会話内容の真意も知らずに、『きゃああ! 見て! 王国の太陽と月ですわよ!』なんて騒ぎ立てる貴族令嬢たち。



 アホほど平和だ。




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