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43話 悪友


 僕の名はディスト・エクエス・オルデンナイツ。

 オルデンナイツ王国の第一王子だ。


「ですので王子殿下……回復魔法の理論上、人体における感度の増減についてはまだ改良の余地があり、それらを参考に発想の転換をいたしまして全身を包むなどの方向性もまた————」


 涼し気な表情で天才的なアイディアを語るのは、我が盟友であるネルだ。

 今も【ぱいぱいホールド初号機】の構造案を重々しく僕に説明しており、その熱量と真剣さはまさに王族の気迫をも凌駕する本気さだ。

 きっと全身全霊を賭してこの発明に挑んでいるのだろう。

 であればこそ、同志であるこの僕が気を抜くわけにはいかない。


「癒しで全身を包む構造、それはまさに楽園への招致。しかし多くの魔力量やコストを必要とするのでは? それに局所的な付加価値、つまり母なる加護のありがたみが薄れる可能性もある」


 僕たちが真剣に語らっていると、遠目で僕らを見ていた連中がヒソヒソと囁き合っているようだ。


「すごいですわ。殿下もストクッズ男爵令息も……」

「何をお話になっているのかまるで理解できませんでした」

「ほんの少し聞き取れましたが、どうやら【地母神マーラ】の回復魔法系統を進化させられないか、もしくは範囲化の議論でしたわ」

「新魔法の開発ですの!?」

「はあ……見目麗しいお二人が熱い眼差しで見つめ合うお姿がっもうっ!」


 周囲の有象無象には僕らの会話など到底理解できまい。

 ネルの生家が所有するストクッズ大商会は現在、【眠れるくん初号機】といった騎士の遠征にもついてこれるベッドを販売している。

 騎士そのものを包み込むベッド、その応用でぱいぱいに包まれるベッドも作れないかと模索しているわけだ。

 その名も【ぱいぱいホールド初号機】!



 僕は学園に入学して以来、ネルが困っていれば手助けしてやろうと思っていたが……今ではすっかり助けられてばかりだ。

 僕も負けずにこいつの力になってやりたい。

 これが対等の、本当の友人ってやつなのだろう!


 幼少の時より常に周りは、僕を敬う者ばかりだった。対等に好みや秘密を語れる人物なんておらず、ただただ僕の権力や肩書に群がろうとする者ばかりが周りに溢れていた。

 そして僕もまたとある事情(・・・・・)を抱える身として、臣下との距離を不用意に近づけるのは避けていた。


 でも今は違う!

 少なくともネルは違う!

 彼なら僕の弱みも、本音も全てをさらけ出せる!


 そして僕はネルに大きな借りがある。

 まずは神々が作りたもうた例の贈答品だ。僕はあれに毎日お世話になっている。


 さらには姉君のダンスパーティー襲撃事件だ。

 あの事件はワルダックミ侯爵の力を借りて、僕がパーティーの妨害工作を命じたのだが……まさか死者が出るほどの大事件に発生してしまうとは……せいぜい参加者を脅してパーティーを中止させる狙いだったのに。


 もしネルがあの場にいなかったら、我が王国の未来ある令息令嬢たちの命がもっと失われていただろう。


 ワルダックミ侯爵に仲介を任せた侵入者集団だが……あれがどこの者かは未だに判然としない。ワルダックミ侯爵本人も認知できないとはどういうことか。

 まあ何はともあれ、ネルには感謝している。

 

「殿下、次に新法案の件ですが————テストケースが必要です。ですので、ひとまず生徒会の権力を行使して学園内で実施、およびデータを取るのがマストかと」


「実は僕も同じことを考えていた。ただ決裁権のある姉君をどう丸めこむかだな——」


 周囲の有象無象どもは僕らが巻き起こす改革の兆しを察知したのか、かしましくも黄色い声が上げている。


「あのお歳でもう法案想起をなさっていますわ!?」

「優秀すぎますでしょう……!」

「あのお二人がいる限り、王国の未来は安泰ですわ!」

「まさに美貌の貴公子たるお二人は王国の双璧でしょうね!」

「燦々と煌めく王子殿下の金色の御髪、そして静かに輝く男爵令息の銀の御髪……」

「王国を見守る【太陽と月】ですわ!」

「きゃあああああああ!」


 はあ、煩わしい。

 特に同級生のボリュームが足りなすぎる未成熟な双丘など見るに()えない。

 

 早くネルと共に高等部に行きたいものだ。


「殿下。成長を見守るのもまた楽しみの一つですよ」


 ふふ、ネルの奴め。

 僕の考えていることがわかるのか?

 全く優秀な友だよ、キミは。


「わかったわかった。過程も楽しみ、未来に心を躍らせる。つまりは三倍も慈しめるわけだな」

「さようでございます」


 やはり彼が提唱する『全王国民☆巨乳育成計画』は素晴らしい。





 俺様の名はパワード・ハイネケン・ロードス。

 ロードス辺境伯領の次期当主様だ。


 俺様はガキの頃から戦場近くの厳しい環境下で育った。

 軟弱な王都周辺の貴族共なんかに決して負けねえ自負があった。

 だが俺様は……学園に来てから自分の力が、いかにちっぽけだったのかを思い知らされた。


 相部屋のネルがやべえ。

 成り上がりのお坊ちゃんかと思いきや、慣れた手つきで自分の身支度を済ます。

 演習前の事前準備や、自分の武器の手入れなども入念で速い。そしていざ、演習での立ち振る舞いは……こいつは何度も従軍してる経験豊富な騎士と同等以上で、戦いに慣れ切っている歴戦のソレだ。


 とはいえ貴族ってのは華も大切で、泥臭い実戦で優秀な成績を収めるだけじゃ及第点。むしろ社交場での一対一の試合や、時には誇りと命を賭けた決闘で華を添える場面が訪れる。

 だからこそ一対一の模擬戦も大切だが、ネルは圧倒的に華のある勝ち方をする。


 正直、俺様よりつええ。


 他国の姫君に容赦なく木剣を叩き込み、いかに王国が優れ、『学ぶ側の立場をわきまえよ』と武で示したのは痛感だった。

 同時に恐ろしくもなった。


 いくら小国とはいえ、一国の姫君相手にここまで華麗な駆け引きを……あんな危ない綱渡りを俺様ができるかといえば無理だ。尻込みしちまう。

 だってよ、ジャポン小国は先の大戦で大敗を喫したとはいえ、未だ少数精鋭で有名な【神風大和隊】や【武士(もののふ)】たちが健在だ。


 ネルは多分、覚悟がちげえ。背負ってるものの大小はあるかもしれないが、覚悟がちげえんだよ。

 あいつ自身の家を天秤にかけて、王族相手に優位に立ち回る生存戦略は目を見張るもんがある。


 俺と同じ12歳なのに……これまでどれほどの訓練をしたら、努力に明け暮れたら、あれほどの領域になれんだよ?

 血の滲むような毎日だったはずだ。

 それら全てを乗り越えて、ネルはあの力を手にした。


 舐め切ってたのは俺様の方だった。

 王都周辺の貴族子息はすげえ。


 しかも、しかもだ!

 俺様も貴族間での横のつながりが大事なのは重々理解しているつもりだった。

 もし仮に王国が戦争状態になった場合、俺様の辺境伯領は高い確率で戦場の第一線となる。そん時きゃ、援軍を寄越すのは王の采配にもよるが、貴族諸侯のお歴々だ。

 物資の援助や兵站の確保も含め、多くの貴族と連携した方が勝率は上がる。

 そんな時に活かすのが人脈、つまりは横のつながりだ。


 俺様はそこを理解してるからこそ、【王立魔剣学園】に入学したわけだが……俺の見積もりは甘かった。


 まさか下位貴族である男爵令息のネルですら、俺様より一歩も二歩も先んじて影響力を持ってるじゃねえか。


 まず多くの騎士家がネルに一目置いてやがる。

 ネルがどこにいようと何をしてようと、軽く頭を下げて敬意を示す。それは他国の姫君をも凌駕するほどの堅い意思表示だ。

 明確に我々はストクッズ男爵家の味方の立場であると。


 挙句の果てにネルは王族とも懇意にしてるじゃねえか!

 王位継承権第一位のアリス姫殿下と第二位のディスト王子殿下が、ネルをひどく気にかけているのがわかる。


 そりゃあ最初はネルのやることなすこと無茶苦茶の嵐だったし、王族に対する傍若無人っぷりに絶句して、俺様も胃痛の連続だったが……今ならわかる。


 アリス姫殿下もディスト王子殿下も、ネルを自分の腹心につけたいってぐらいの勢いだし、将来ネルは大臣とか伯爵級に大出世するんじゃないかって噂が流れるほどだ。


 貴族ってのは基本的にどの王族を指示するかで将来の立場が決まる。

 親父はアリス姫殿下推しだから、姫殿下が王位を継承したらうちは盤石となる。しかしディスト王子殿下が王位についた場合、うちは冷遇されるだろうな。

 そんな中、男爵令息のネルはどっちつかずで両方にいい顔をする、蝙蝠野郎と罵られかねない……そんな状況なのに、両者との関係が恐ろしいぐらいにいいじゃねえか。


 俺は傍で見ているだけで胃痛がやまないってのに、ネルの奴は平然としやがる。

 んでもって姫殿下も王子殿下もネルを自派閥に取り入れたいと躍起になってる。


 王族は王族で、どの貴族を自派閥に引き込むかで王位継承レースが有利になるかを意識している。

 つまりそれほどまでに両者とも、たかだか男爵令息のネルを評価していると。


 そりゃあネルのやることなすこと無茶苦茶の嵐だし、王族に対する傍若無人っぷりには俺様の胃もよじれる日々だが……それでも食らいつかなきゃ、辺境伯令息の名がすたる。


 はああああ、華麗すぎるネルの立ち回りに俺様は置いてけぼりだぜ!

 ったくよう、これこそが王都周辺の貴族令息の在り方なのか……。


 しかもなあ……アイツの周囲にゃいつもやばそうなのがいやがるんだ……ネルの婚約者も大概だが、例えばあのワンコロだよ。

 ちょっくらネルが寝てる間に悪戯でもしてやろうと思ったら悪寒が走ってよ。なんか気になった方を見てみたらいるんだわ……暗闇の中でジッと俺を見つめてんだよワンコロが。

 まるで深淵そのものが俺をのぞき込んでくるみたいで、闇に呑まれた錯覚すら味わったぜ。


 んでワンコロが出かけてる夜に仕掛けようと思えば……ほんといつの間にかネルに添い寝するマナリア伯爵令嬢がいてよ……まるであいつの影からぬるりと出てきたみたいに、初めからその場にいましたって感じで。

 俺が近づくと片目だけパチっと開けて、静かに指を唇に当てて『黙って、邪魔したら殺す』みたいなジャスチャーしてくるしよお……。目が笑ってないんだよ。 

 ここは男子寮だとか、添い寝の許可はネルに取ってんのかとか、色々ツッコミたかったが口にしたらやられる気がしてな。

 

 とにかく無防備な瞬間がねえーんだわ。

 父上が王都の貴族連中を見て学べって言ってた意味が、今ならわかる。


「……ネルに出会えてよかったぜ。王族や高位貴族と渡り合う胆力、努力、華麗さ、その全てが今の俺様にとっちゃ足りねえ」


 だが、俺がネルを目指す必要はない。

 というかそもそもなれねえ。


 だが、傲慢と偏見はなくせる。

 少なくともネルと出会う前の俺様は、自分より家格の下の者は取るに足らんゴミだと思っていた。

 でも今は違う。


「パワード辺境伯令息、次は帝王経済学の講義ですね。私はあの分野が苦手でしてね」


「おうっ、ネル殿。俺様も身体を動かす講義の方が性に合ってんだよなあ」


「剣術講義か魔法戦講義の時間が待ち遠しいです」


「そうだな、それでネル殿……もっとこう、俺様には砕けた態度でもいいんだぜ?」


「というと?」


「そ、その……敬称を省略するとか、敬語をなくすとか……そ、そうだ! 俺様のことをパワードと呼ぶのを許す! だから俺様もお前のことをネルと、親しみを込めて呼ばせてほしい!」


「あはははっ、パワード辺境伯令息は……おっと、パワードはいい奴なんだな」

「おうよ、ネル。お前もな」


 いい戦友ができた気がすんだよなあ。



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( º言º)地雷原のフラメンコッぷりよ
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