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42話 生徒会


「共同作業というものが大事なのだ——」


 物々しくどっしりと構えたディスト王子殿下が俺の派閥に加わった。


『え、あの一瞬で?』

『こいつ化物じゃね?』


 なんて驚愕の眼差しで取り巻き連中が俺を見るが、そういう感じじゃないんだよな。

 今だって共同作業うんぬんほざいてるけど、先ほど俺が密かに『育乳は女性ホルモンを多く分泌させるのが重要ですので、おっぱいをなるべく揉んでさしあげて女性ホルモンを促進させましょう。つまり男女の共同作業が必須。ですので、【女性胸部解放法案】ならびに【無制限女性胸部接触法案】を通すのも近道かと』なんて進言したがゆえのディスト王子殿下の発言だ。


「共同作業でございますか、ディスト王子殿下」

「ああ、そうだな……共同作業の第一歩として、うむ。我々で生徒会に入ろう」


「と、いうと?」

「この【王立魔剣学園】は1~3学年が基礎部、4~6学年が高等部となっているであろう? 基礎部の学生たちを取り仕切る生徒会メンバーに、我々共々ミコト姫も入ればよい」


 あれ、ちゃんとミコト姫との関係改善作戦も考えてくれてたようだ。

 まあ『全王国民☆巨乳育成計画』の要だしな(大嘘)。


 しっかし生徒会とか、マジでめんどくさそう。

 どうにかそっちはやらない方向でいけないかなあ……。


「しかし殿下。生徒会とはそんな簡単に入れるものなのでしょうか? いわゆる生徒代表みたいな組織なのでは?」


 パワード君を初め、コシギンチャ男爵令息やレイ伯爵令嬢はこぞって首を縦に振っていた。

 やはり選りすぐりのみが加入できるエリート組織なのか。


「いかにも。面白くないが姉君が現生徒会会長でな……しかし、僕と貴様が言えばどうにか融通してくれる可能性もある……」


 うっわ……最悪だあ。

 なんで生徒会なんぞに姫騎士がいるんだよ……。

 あいつって常にやる気ない系ヒロインだったじゃねえか。


 ますます生徒会入りしたくない理由ができた。

 とはいえディスト王子殿下のご提案を無下に否定するのも憚られるので、ひとまずは頷いておく。

 どうせ俺ってば姫騎士に嫌われてるし、それはディスト王子も同様だ。

 急に学園内で実績のない奴が『俺らも生徒会に入れて~』なんて言っても門前払いだろう。


 そこは安心して、ディスト王子が次に提案する作戦に乗っかればいいだけだ。

 もう考えるのめんどくさいし、これからはディスト王子の意見に従うだけで責任も全部ディスト王子になすりつければいい。

 おっ、俺ってけっこうモブっぽい腰巾着できてないか?


 っていうかさっきから俺の派閥メンバーが誰も喋らないのは何でだ?

 なんかこうもうちょっと意見を言ったり、ディスカッションみたいなのをしてほしい。俺が考える労力を減らすためにも。


 あ……そうか。

 ディスト王子殿下がみんなに名乗らず、興味を示してないからだ。

 

 王族が名乗りを許さなければ、下位の者は自己紹介してはならない。それは王族に対する押しつけがましい無礼であると。


 きーめんどくさ!

 俺から一人一人サラっと紹介していくか。

 まずは爵位の高さから考えてパワード君だけど、マナリアは一応俺の婚約者だし……でもストクッズ家との関係が一番古参なのはコシギンチャ男爵令息だしなあ……。


 そんな風に優先順位を迷いながらも、それぞれが得意とする分野や生家の特徴などを軽く紹介しつつ、俺の派閥をディスト王子殿下へと紹介していった。

 なぜかパワード君が物凄く感動していたのは印象的だった。





「姉君、僕です。ディストです」


 豪華絢爛な生徒会室の扉は、いかにも選ばれし者のみが入室を許可される立派な装飾に彩られていた。

 ディスト王子を筆頭に、俺、パワード君の三人で生徒会室の門戸を叩く。


「あら、何事かしら?」


「所要がありまして、よろしいですか姉君」


「はあ……本来であればディストがこの生徒会室に来るなんて、そんな資格があるはずもないのですが……今回は特例ですわ。どうぞ」


 佇まいを正したディスト王子殿下は颯爽と生徒会室へ入室した。

 俺はやる気がないのでほげーっと歩き、隣のパワード君はもうめちゃくちゃ緊張していた。


「ディスト。いいかしら、いくら(わたくし)の弟で王族だからといって、ここは神聖なる生徒会室よ。学園の中でも特別優秀な者しか足を踏み入れられない聖域であって、入学したばかりの貴方のような子が————」


 メインヒロインの姫騎士は、『ガチ百合』で散々俺をイラつかせたやる気ゼロ姫とは違い覇気に満ちていた。三年後のこいつに一体何が起きて、あんな腑抜け姫になるんだ?

 入室早々に実弟であるディスト王子を糾弾し、生徒会とはかくも高尚な存在でうんたらかんたらとお説教してるし。

 しかし、姫騎士が俺を見るや否や、口をつぐんでパクパクしている。



「姉君?」


「ネルさん、こんにてゃ」


 え、なんて?

 姫騎士はディスト王子の問いかけをスルーして俺に何かを言ったようだ。

 しかしその内容は聞き取れず、もしや王族のみに伝わる隠語なのかとディスト王子を目だけで見るも……彼も首を傾げていた。


「こほん。ネルさん、こんにちは。今日はお日柄もよく、朝から晴々した空模様が続いておりますわね。きっとネルさんが訪れるのを予兆していたようですわ」


 は?

 これは何を言いたいんだ?

 晴れてた空も俺が来たら曇り空になる、つまり姫騎士はご機嫌斜めだよ的な嫌味か?


 なんかもうマジでめんどくせーな。

 俺は全ての礼節をすっ飛ばして早く本題に入ってほしかった。なので王子殿下に繋げるべく言葉を紡ぐ


「恐れながらアリス姫殿下。この度はお願いがありまして、ディスト王子殿下と参ったしだいでございます」

「姉君、実は生徒会に————」


「ディストはお黙りなさい」


 ピシャリと実弟の言葉を潰す姫騎士。

 その美しい金眼はなぜか俺に注がれ続け、『早くお願いとやらをお聞かせくださいませ』と物語っていた。

 

 いや……ここで俺がお願いするのはお角違いだろ。

 俺たちの中で一番身分が高いのはディスト王子だし、そもそもメインヒロインの姫騎士にお願いを口にするのも嫌だ。

 どうせ断られるだろうけど、こちらから貸しを作らせてほしいと言い出すのは……『ガチ百合』を女勇者(しゅじんこう)一人でクリアし切った俺のプライドが許さない。


 使えなかったメインヒロインの姫騎士に頭を下げる?

 ナンセンスだ。


「おやおや。ディスト王子殿下もアリス姫殿下も、我らが頭上に頂くお方々はどうやら犬猿の仲のご様子」


 俺は不遜にも王族仲わりーと言ってのけた。

 これにはディスト王子は渋い顔になり、パワード君は顔面蒼白となる。しかし姫騎士だけはこちらを油断ない眼差しで凝視し続けている。


「アリス姫殿下の優劣で物事を判断する思想は、なるほど、大変すばらしく存じます。この生徒会がまさに姫殿下の御心そのものなのですね」


 ですが、と俺は畳みかける。


「果たして人間とは誰もが崇高な傑物になれるのでしょうか? 答えは簡単で否です。偉業を達せずとも、日々の小さな幸せを糧に生きる者たちもたくさんいるのです」


「ネルさんは何が(おっしゃ)りたいのかしら?」


 姫騎士の問いに俺は【王の覇気Lv1】を発動しながら答える。


「我々は! より多くの大衆を導く責務があります!」


 ディスト王子には『全王国民☆巨乳育成計画』のことですと目配せをし、姫騎士にはえーっとうーんと……。


「ディスト王子殿下は我が国の王族であらせられる。姫殿下が如何様にご判断しようとも、まぎれもなく。そして今、私はディスト王子殿下を支持しております」


「……愚弟につく貴族や民衆もいると、そう仰りたいわけですわね?」


「どのように捉えていただいてもかまいません。ですが、私は高貴なる王族の方々が削り合うより、互いに手を取り合った方が王国の未来により強い光が灯ると信じております」


「……王位継承戦は国を分断したり疲弊させますわ。ですが、この(わたくし)がそのような愚かな事態に陥るはずありませんもの」


「優秀な者だけで脇を固めても、味方する者が多くなるとは限りませんよ?」


 俺みたいな奴は特に働きたくないし、頑張りたくない。

 貴族の利権や甘い汁を吸って生きていたい。しかし目の前の姫騎士はひどく厳しそうだ。優秀ではない者をハブき、重宝してくれないなら彼女を支持しないだろう。

 怠けてると粛清対象にすらなりそうな雰囲気だしな。



「ネルさんは……優秀でない王族の方がいいと?」


「そうではありません。どうやら今の(・・)姫殿下にはご理解いただけないようで」


 ですので、と俺は上から目線で語る。


「共同作業です。互いを近くに置き、互いを見て学ぶ。切磋琢磨する。さすれば見えてくるものもあるでしょう?」

「共同作業ですの?」


 なぜか頬を赤らめる姫騎士を気持ち悪いなと思いながら、ここぞとばかりに決め台詞を吐く。


「ゆえに! 私とディスト王子殿下、そして他国の姫君であらせられるミコト姫、ついでにパワード辺境伯令息が! 生徒会に入るのもやぶさかではないと、王子殿下はご提案してくださったのですよ」


 早い話が生徒会に入ってやってもいいけど?

 どうする?

 と、王族に対する圧倒的不遜な物言いだ。


 さてさて、ここまで無礼な言い回しをされたらサクっと断られるだろう。

 姫騎士にはさらに嫌われただろうが、ディスト王子を持ち上げた形になったのでいい。

 俺は清々しい気持ちで踵を返し、生徒会室を後にしようとする。



「お待ちになってネルさん」


 おん?

 なぜか俺の背には姫騎士の声がかけられた。


「ぜひとも生徒会入りを歓迎いたしますわ」


 ん?

 サクッと断られるどころか、サクッと歓迎されてしまうだと?

 これは幻聴か?


「愚弟のディストもついでに許可しますわ。もちろんミコト姫も。ただしパワード辺境伯令息はお断りいたします。こちらの条件は以上ですわ」


 俺が困惑する中、ディスト王子は『よくやった』と勝ち誇った笑みを浮かべていた。よほど姫騎士を丸め込めたのが嬉しかったのかもしれない。

 そしてパワードくんは俺を信じられない者でも見るような目つきで凝視している。

 いや、俺もなんでこうなったかまるで理解してないんだよな。


 っていうかパワード君だけ生徒会に入らずに済んだのがマジで羨ましい。ずるいな。一体、俺はどこでミスってしまったのだろうか……。


 ああ、なるほど。

 これもまた姫騎士による嫌がらせか。

 奴は俺の目立たずぐーたら学園生活を送りたいって願望を見透かし、生徒会入りを強行させコキ使ってやろうって魂胆なわけだ。

 ちっきしょうが!



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:王族女子のコネでエリート組織に入れてもらう】を達成』

『スキル【王の覇気Lv1 → Lv2】にアップしました』


 唯一の救いはかろうじてヒモスキルが発動してくれた事ぐらいだった。




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