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35話 平和な日々


「ふあああ……きもちい」


 暖かな陽光。

【神堕としの幻狼モフリル】のふかふかお日様の匂い。

 そしてお昼寝。


 この世の最高三拍子をゆったり味わっていると、嬉しいことに『ヒモ』スキルまで発動してくれた。



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:婚約女子に4000万円以上貢がれる】を達成』

『婚約女子が見繕った『魔封石:冥界凍土(めいかいとうど)』が7000万円で売却され、商会の人件費やインセンティブを引いて4000万円が貢がれました』

『スキル【冥府(めいふ)魔法Lv4 → Lv5】にアップしました』

『スキル【氷獄(ひょうごく)魔法Lv3 → Lv4】にアップしました』


 相も変わらず魔石製造機ちゃんは俺に貢ぎ続けてくれる。

 ただ恐ろしいのが、年々マナリアの使用できる魔法のバリエーションが強力になっている点だ。

『冥界凍土』は『ガチ百合ファンタジー』後期に習得するはず(・・・・・・)の戦略級だった。俺は女大賢者のレベリングを放置していたが、アホ妹は『マナちゃんさいきょー! 火力ぶっぱ!』とか騒いでいた。


 マナリアはまだ12歳だ。

 そして『ガチ百合ファンタジー』の本編は15歳の高等部一年から始まるわけだが……すでに戦略級を習得している?

 何かがおかしい。というか、身の危険を感じるのは気のせいか?


 いや、せっかくのお昼寝タイムだ。

 不確定な未来を不安がって、気分を悪くするのはやめよう。

 今はただまどろみに揺れて————



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:奴隷少女があなたの職務を肩代わり】を達成』

『スキル【士気高揚Lv1】習得しました』


 おお。我らがストクッズ副騎士団長シロナ殿は働き者だなあ。

 彼女は最近、自分の職務外でも俺の負担が減るような立ち回りをしてくれる。主に騎士団長である俺が出張る事案や強力な魔物相手の討伐だ。

 サンキュー奴隷ちゃん。


 ただ、シロナも何かがおかしいんだよなあ……。

 明らかに英雄レベルで強いっていうか才能があるっていうか。

 それこそマジで女勇者(しゅじんこう)とタイマン張れるぐらいで、ちょっと怖いっていうか。


 いや、やめよう。

 今はただ幸せのまどろみにどっぷり浸っていよう。



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:取引き先の女性から新寝具『天使の羽枕』を開発してもらう】を達成』

『スキル【錬金術Lv3 → Lv4】にレベルアップしました』


 はあーアイテマって最高だよな。

 たまーに冒険してたまーに素材を持ってくと、勝手に新寝具を開発しちゃってさあ。これはストクッズ商会を通して、色をつけて買い取ってやらないとだなあ。



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:領民の女性から自家製の野菜を届けられる】を達成』

『スキル【農業魔法Lv1 → Lv2】にレベルアップしました』


 ここ数年、王国内は食糧難が続いているけど、ヘリオと裏で推進していた事業『語り草』栽培雇用が実を結び、ストクッズ男爵領は食べ物に困っていない。

 さらに職にあぶれた領民の働き口としても、この栽培雇用は結果も出し、発案者である俺に愚民からの感謝が届く。


 今日のお野菜もそんなところだ。

 ありがとう愚民たちよ、俺の肥やしになっておくれ。



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:貴族令嬢から、押し花のしおり付き手紙をもらう】を達成』

『スキル【伝達魔法Lv2 →Lv3】にレベルアップしました』


 最近はやたらお茶会のお誘いが増えた。

 姫騎士主催パーティーの一件があってから、『お命を救われた~どうの~戦うお姿が凛々しかったのでぜひ~うんぬん』って内容ばかりだ。

 まあ貴族令嬢からのお誘いに、男として嬉しくないわけではないけど、礼儀作法がめんどいんだよな~ってことで色々理由をつけてパスしてる。

 あとお茶会に行ったのがマナリアの耳に届いたら殺されそうだからとか、別にビビってはいない。



「はあ~幸せ~……これだよ、これ。こういう日々を求めていたんだよ、俺はさ」


 ぐーたら過ごして、『ヒモ』スキルが自動で発動する。

 幸せな毎日だ。

 順調に領民の家畜化計画は進んでいるし、武力面でもストクッズ騎士団は増員する一方だ。


 主に奴隷騎士シロナの華々しい評判のおかげなのだが、中には俺を慕って集ってくれる連中もいた。

 そのうちの一人が数年前に剣闘大会で戦った相手、『鬼殺しのオグルス』君だ。

 たまーに気分で遊ぶ冒険者ごっこ中に、彼が不祥事で貴族子弟を殺めて投獄されたとの情報を耳に入れたので、彼の釈放を金で買った。


 あれから数年、なんとなく彼の筋肉の寝心地がどんな風に変わったのか気になっただけだった。しかし彼は『あいつあ、裏で人を攫って酷い性虐待をしてたんだ! それが許せなくって! 旦那はそこんとこ理解してくれたんすね!? って、げええ!? もしかして【無剣のネロ】ですかい!?』とかなんとか勝手に感動して勝手にビビって、そして勝手に自ら研鑽してくれていた。

 意外にも彼の伸びしろはすごいもので、シロナに追い付こうと必死に訓練や実戦に明け暮れている。


 近々、部隊長に昇格させるつもりだ。

 あの調子でレベルアップするなら、将来は二人目の副団長に任命してやってもいい。


 ただなあ、どうにも戦略を練れる者が少ないのがマズイ。

 副団長のシロナは若干12歳だし、団員も教養のある者より叩き上げが多い。


 ヘリオはその辺、優秀なのだが……彼に騎士団の仕事まで任せると、おそらくパンクしてしまうだろう。

 せっかくの優秀な駒を使い潰してしまっては、夢のニートヒモ生活が遠のくのでそれだけはダメだ。


 まあ騎士団の頭脳役人材を探す場はあるにはあるので、まだ焦る必要はないか。



「ネル様。お休みのところ失礼いたします。旦那様がお呼びです」

「わかった。ヘリオ、ついてまいれ」

「はっ!」


 このタイミングで父上の呼び出し、すなわち【王立魔剣学園】での立ち回りについてだろうな。

 いよいよ五日後には、全寮制の学園生活が始まる。

 そして『ガチ百合ファンタジー』の舞台がやってきたわけだが、本編が始まるまであと3年はある。

 それまではぐーたらゆるっとさせてもらう予定だが、父上の話には耳を傾けた方がよい。


「父上、参りました!」

「うむ。入れ」


 気を引き締め、俺が将来継ぐであろうニート用執務室へと入る。

 相変わらず理路整然と書類が整理されていて、できる男の部屋だった。これが将来、寝具だけの部屋になるなんて父上は微塵も思ってないんだろうなあ。


「ネル。我が愛しの息子よ! パパンはお前を誇らしい! お前はまさに大金の成る実だ!」


 うん、最近のパパンはちょっと言動が少しアレになってきている。

 期待しすぎはよくありませんよ?

 なんて内心は一切表に出さずに、凛々しい顔で殊勝に頷く。


「父上の背を追いかける者として当然でございます」


 だって、全部相続したいもん。気に入られた方が相続も円滑に進むし、何よりここは日本と違って相続税がない!

 まあそもそも相続税なんて設定したら、国民全体が弱体化するし、外国の貴族に土地など買収されかねないから当然なのだけど。


 実は現在、ストクッズ大商会は隣国のジャポン小国の土地をいくつか買収し、販路と拠点を拡大している。

 というのもあちらの国は相続税が重く、国民が築いたあらゆる財産をネコババしているらしい。多くの税を課し経済状況は悪化、貨幣価値も下がっている。

 そこに目をつけたのが父上だ。


 ジャポン小国にとっては大金でも、こちらの金貨ではそこまで大金ではない。

 今がチャンスと土地を安く買い叩いたのだ。


 そして仮に父上が死んだとしても、ジャポン小国の税務官に父上の死を確認する術がなかった場合、相続人である俺が相続税を徴収される可能性は低い。

 実際に父上が死んでも、自宅療養用中だの面会拒絶だの、家督は継いだけどジャポン小国の土地は父上の財産扱いだから~とか理由はごまんと並べ立てられる。


 つまりジャポン国民だけが搾取され、弱体化しやすい制度を利用し、長期的かつ合法的な侵略を実現している。

 さすが父上だ。ぬかりない。

 そして将来の俺の財産を増やしてくれてありがとーっす!


 というか外国の貴族が隣国の土地を買えるとか、冷静になって考えるとヤバイよな。我がオルデンナイツ王国は他国の者が土地を購入できないのに、ジャポン小国側は一方的に買い漁れるとか……あらゆる勢力圏を国内に誘致する、それは小国ゆえの生存戦略なのかもしれないけど、外国勢に土地を無制限に所有させてOKって……もしかして父上、ジャポン小国の王侯貴族を買収してたりする……?

 じゃないと法案を通す、というか土地の買い付けなんて不可能なんじゃ?


「ネルよ。【王立魔剣学園】は明日からだな」

「はい」


 おっと、今は意識を学園に戻すべきか。


「お前ほど優秀ならば、当然全てを把握しているだろう。しかし、共有と確認は大事な行程だ。ストクッズ男爵家の立ち位置を、今一度明確にしておこう」

「かしこまりました」


 全く把握してないけど、それらしく覚悟が決まった風に頷く。


「まずストクッズ大商会が各領地の騎士団に販売している【眠れるくん初号機】だが、大好評だ。これにより多くの騎士家令息令嬢は、お前の味方と考えてよい」

「ははっ!」


 ちなみに【眠れるくん初号機】はゴーレム型で、移動もできる。さらに変形モードで戦闘にも対応する最高のベッドだ。

 アイテマちゃんが改良に改良を重ね、遠征中の騎士たちに適したフォルムへと進化を遂げた逸品である。


「そしてネルが栽培法を発見した【語り草】だ。これにより王国内を襲った飢饉および、深刻な食糧危機に瀕した『ハヤグイン侯爵領』、『ブターラ伯爵領』、『ウシーノ伯爵領』、『デブル子爵領』、『ガシス男爵領』、の五領に食糧支援し、有効な関係を構築している」

「五領の子息令嬢は、学園内でも私に味方しやすい派閥ですね」


「そうだ。家格は上の者もいるが、同等の朋友だと振る舞ってよい。次に先の姫殿下が主催したパーティーでのお前の活躍だ」

「はい。あの場には確か……34名のご令嬢と、5名のご令息がいましたね」


「うむ、そのうち命を落としたのは『フリンネ公爵令嬢』、『ウワッキ伯爵令息』、『ザコーダ子爵令息』、『モブリン男爵令嬢』の4名だ。この四家からは言いがかりも甚だしいが、救えなかったお前を糾弾する声もわずかに上がっている」

「公爵家が含まれるのは手痛いですね……」


「よい。お前はよく立ち回ってくれた。他35家からは感謝状も届いているし、恩を売れたと考えれば味方は一気に増えた」

「そちら35家とは深い結びつきはなくとも私に友好的だと」


「うむ。学園内で窮地に立たされた際は、貸しを異端なく返してもらうがよい」

「かしこまりました。それで、パーティーを襲った悪魔の仮面集団については何か判明しましたか?」


「それが、な……正体は定かでない。帝国の回し者……もしくは魔族の暗部との見解もある」

「尋問は成功しなかったのですか?」


「うむ。時限式の自殺魔法が付与されていたようでな……」

「さようですか」


「まあ、その辺の調査は近衛騎士団に任せればよい。次にお前の派閥(・・・・・)だが、私が以前より懇意にしている『カーネル伯爵領』、『レイ伯爵領』、『コシギンチャ男爵領』、そして資金援助をしている『ストレーガ伯爵領』、『グリンダ子爵領』だな。こちらもまた家格は上の者もいるが、お前の傘下だと振る舞え」


「私を中心とした派閥ですね。カーネル伯爵令嬢が三年、レイ伯爵令嬢とコシギンチャ男爵令息が二年……婚約者のマナリア嬢にグリンダ子爵令嬢が同学年ですか」


「ふふっ、お前の派閥はそれだけじゃない。マリアローズ嬢もいるだろう。今年の秋期から転入してくるそうだ」

「アストロメリア王国の公爵令嬢がご遊学ですか……彼女が持つ傭兵団【青薔薇の剣】の武力は頼もしい限りですので、無礼のないようにいたします」


「各地に駐屯する展開力は目を見張るものがある。そんな剣の姫君のご実家から、じきじきにお前ご指名の婚約話も上がってきておる」

「そ、それは……」


 承諾したらマジでマナリアに殺されかねないんじゃ?


「まあよい、その辺はお前の意思を尊重しよう。さて、外国との繋がりは何もソレだけじゃない」

「というと?」


 そこで父上はこれみよがしに笑みを浮かべた。

 なんだよ、そのしてやったり感。悪い予感しかないんだけど……。


「ジャポン小国からも皇族の姫君がご留学なさる。その案内大使の役を、お前が全うせよ」


「そ、それは……」


 将来のための足掛かりを十分に作っておけと。

 今後、ジャポン小国に販路を広げるのであれば、皇族との関係を構築しておくに損はない。むしろプラスでしかない。

 そんなお膳立てを父上はしてくれた。


 正直ものすっごおおおおくめんどくさいけど、目を輝かせておく。


「ふふっ、何のためにジャポン小国の土地を買い上げ、ストクッズ大商会の支店を築いたと思っている。私もまだまだ現役だぞ?」

「恐れ入ります、父上」


 それから2時間ほど細かい打ち合わせを済ませ、俺は自室へと戻った。

 父上には色々言われたけど、俺は基本的に悪役モブ貴族だ。

 学校内では分をわきまえ、地味に目立たず堅実に居眠りをしよう、そうしよう。






今更ですが貴族位の序列表です。


王族……最高権威の象徴であり、王族直轄領も保有している。(アリス姫騎士)

公爵……王家との繋がりが深く、親戚関係にある者もいる。広大な領地と叙爵権を持つ。(マリアローズの生家)

辺境伯……国境沿いの広大な領地を持っている。戦争の際は防衛の要となるため武家が多い。

侯爵……由緒正しい血筋。広大な領地と叙爵権を持つ。

伯爵……町を複数、もしくは大都市を領地に持っている。(マナリアの生家)

子爵……複数の村と町を領地に持っている。

男爵……複数の村を領地に持っている。(ネルの生家)

準男爵……一代限りの名誉貴族になることもある。開拓村を一つ以上所有している、もしくは数名~数十名の臣下や騎士が仕えている。

騎士……建前上は一代限りの名誉貴族。多くの子弟が親を見て騎士を目指す


※ストクッズ男爵家の領地は、子爵家と同等規模で街を複数所有している。

※伯爵家には上位と下位が存在しており、王家から直々に叙爵された家柄は上位となる。下位は公爵家や侯爵家などの上級貴族から叙爵を受けた家柄となる。

なお上位伯爵家から上級貴族と目され、マナリアの生家であるストレーガ伯爵家は上級貴族。



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