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34話 ヒロインたちの陰謀


 (わたくし)はアリス・エクエス・オルデンナイツ。

 この国の第一王位継承権を持つ姫ですわ。


 今日は待ちに待ったダンスパーティーですの。

 なにせ話題のストクッズ男爵令息とお会いできる日なのですから。

 噂ほど優秀であるかどうか、この目で見定めてさしあげますわ!


 しかし、彼を目にした途端……自分はなんと浅はかで矮小な人間だったのかと思い知らされたのです。

 彼の隣には、数年前の剣闘大会で負かした【流星のシロナ】がいらっしゃるではありませんか。

 そして、そして、もしや、もしやと思っておりましたが……!


「お初にお目にかかります。私はネル・ニートホ・ストクッズでございます」


 聖なる輝きを伴う銀髪がハラリと揺れ、蒼穹色に煌めく切れ長の瞳が私を射貫きましたわ。

 誰がなんと言おうと、そこには神が羨むほどの美少年がいました。

 そしてそのお声こそ……かつての剣闘大会で傲慢だった私に、『世界は面白い』と知らしめた天啓そのものだったのです。


 ええ、ええ、忘れもしませんわ!

 愚かな私に賜ったお言葉を!



『よかったな。その若さで自分のつまらなさに気付けて。今後はもっと楽しい戦い方を学べよ』



 (わたくし)より年下でありながら、仮面の王子様は……圧倒的な武で、まだ見ぬ武の楽しさを垣間見せてくれましたわ。

 まさか、あの仮面の王子様がストクッズ男爵令息であられましたのね!?


 そしてこの御方は、私の興奮の熱を冷ますどころか、激しく火をくべてゆきますわ。

 普段は冷徹で斜めに構えてばかりの煩わしい弟が、血相を変えているではありませんか。



「こっ……これは……!?」


 あそこまで愚弟が動揺する姿を見たことありませんわ。

 愚弟は仮面の王子様にいただいたプレゼントを凝視し、神に祈るように天を仰いでいますわ。


 一体なにを贈られましたの?

 どうして私にはくださらないの?

 ああんっ……いじましい、じれったい、これも私を遠回しに刺激する刺激ですの!?



「貴様を……天才と認めざるを得ないようだ……」


 あの意地っ張りな愚弟を瞬時に丸めこむなんて、さすがは私の(・・)仮面の王子様ですわ!


「くっ……! こうしてはおれん! 僕は帰る!」


 普段の愚弟であれば、この場に招かれた王族の責務を全うするでしょうに。

 しかし一分一秒も時間を無駄にしたくないと、愚弟にあるまじき大胆な行動に出ましたわ。仮面の王子様は、王族を容易く動かしてみせましたのね!?



「ストクッズ男爵令息、近々ぼくが開催するパーティーにも必ず参加しろ! いいな、絶対だぞ!」


「仰せのママにッ!」


 あまつさえ、私の目の前で!

 彼を自分の派閥に誘う気があると!

 私に牙を剥き、宣戦布告をする……そんな大仰に振る舞う価値が、あの御方にはあると宣言したようなものではありませんか。


 やっぱり私の仮面の王子様————ネルさんは大変優秀ですわね!

 一体、どんな手練手管で一国の王子を意図も容易く操り、味方に引き入れたのでしょう!?


 想像するだけで濡れてしまいますわ!

 だってそんな権謀術数も、私にはお披露目してくれないのですもの! いじわるですわ! もう私の心は切なくて、寂しくて、ボッコボコのボコですわ!


 しかも、しかもですわよ!?

 私主催のパーティーが襲われ、貴族子息や令嬢に4名の死者を出してしまった折、誰よりも迅速にその力を示したのが私の王子様でしたわ。


 華麗なる漆黒の剣技で、卑賎な者たちのことごとく切り伏せる姿は、まさに英雄でしたわ。

 そして怒りに震えながらも、冷徹に最後の一人を生け捕りにする手腕。

 私なんてビックリして殺し切ってしまいましたのに、王子様は騒動の最中ですら冷静に、黒幕探しをしっかり意識してらっしゃったのです。


 ああ、(わたくし)は主催のパーティーで侵入者を許し、死者を出す大失態を犯しましたわ。片や王子様は颯爽と完璧に対応し、被害を最小限に抑えてくれましたの。

 まるで『お前はこんな危機管理もできない愚者なのか』と、攻め立てるように。


 これでは私の面目は丸つぶれでしたわ!

 ああ、私は仮面の王子様と比べ、未熟で、愚かで、か弱いですわ!


 そう、もっと私を虐めて! 苛め抜いてくださいませ!

 ああ、でもでも……この数年、仮面の王子様を想い続けながら、火照る身体を一人でなぐさめるのは飽きてきましたわ。

 いえ、これも放置プレイだと思えば……あっ……んっ……。

 

「学園で、お会いできるのが……あっ……楽しみでなりませんわ……」





 私はマナリア・マギアノ・ストレーガ、12歳になりました。

 ずっと、ずっと、この時を待ってました。

 

 だってあと一週間で、ネル君と毎日、学園で会えるから。

 そう思うと嬉しさで胸が張り裂けちゃいそうです。

 この3年間は婚約者なのになかなか会えなくて、寂しくて……でもネル君を想いながら魔法研究に没頭するのも楽しくて。


 この前、いただいたお手紙だってネル君は素敵で、素敵すぎます。


『マナリアへ。俺のことはもういいから、自由に魔法研究をやってほしい。魔封石については、マナリアの気が向いたらストクッズ商会に卸してほしい。あくまで君自身がやりたくなったらでいいんだ』


 なんて私を縛ろうとせず、ただただ私の好きを尊重してくれます。

 それに隣国のアストロメリア王国の公爵令嬢に求婚された時だって、私の方を見ながらきっぱり断ってくださいました。

 なんだかんだで、ネル君は私を大切にしてくれてます。


 大好きです。


 でもシロちゃんばっかりネル君の傍にいるのはずるいと思います。

 でもでも、定期的にシロちゃんはネル君の様子を諜報————知らせてくれるから許します。


 将来の正妻として第二夫人? のシロちゃんとは今から持ちつ持たれつで、協力関係を築いていかなきゃです。

 

 シロちゃんからの情報を、ネル君のために活かすには……。

『回復魔法の修練がめんどい』って、ネル君がボヤいてるって聞いたので、聖女(・・)様をご紹介できれば……回復魔法のコツを共有してもらえます?


 私はすぐ叔父様に頼みこんで、女性のみが立ち入りを許された『聖域教会』に使いの者を送っていただきます。

 これでもストレーガ家は古くからの名門なので、聖女様との取次ぎはすんなりいきました。


「ネル君……喜んでくれるかな……?」


 学園で会えるのが楽しみなのです!




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