32話 男同士の密約
『ガチ百合ファンタジー』においてディスト王子は、まぎれもなく最強の悪役だった。特にその本性をさらけ出したシーンは痛快で、プレイしていた俺もさすがに笑ってしまった。
彼は今から数年後、魔王討伐のため女勇者パーティーに一時的に参加する。ちなみに魔王は中ボスの位置付けで、魔王を倒したら真の悪役が登場! さらに世界で暗躍する闇の組織が~戦争が~異世界が~みたいなよくある展開だった。
とにかくディスト王子は、お助けキャラのポジションで『バインネ公爵令嬢』と二人で協力してくれる。
二人は気分屋ヒロインと比べ有能で、安定した戦力になるので当時の俺は頼もしさを感じていた。
また旅の道中、夜になるとコミュニケーションパートが加わり、各キャラと夜のお話を通して好感度を深めていける。
ディスト王子にもコミュニケーションパートは用意されており、当時は『ガチ百合』唯一の男性攻略対象であると期待もされた。
そりゃそうだ。
眉目秀麗で優秀、身分も格上で玉の輿を期待できる王子様だ。
しかも性格も表向きは良く、なんだかんだで女勇者に愛を囁き、旅の途中で婚約まで迫ってくる男っぷりを見せてくれた。
そして順調に魔王を倒すと————その本性をむき出しにしてくる。
女勇者とメインヒロインたち(何もしてない)が必死になって魔王を倒し、ボロボロのなか喜びを噛みしめていると……女勇者が弱った瞬間を狙って、ディスト王子とバインネ公爵令嬢が襲いかかったのだ。
『どうして……愛していると言ってくれたのに!?』
女勇者は確かこんな感じで、ディスト王子に切り付けられながら困惑してた気がする。
その答えとしてディスト王子が出したのは、一部の女性を敵に回しそうなセリフだった。
「お前が貧乳だからさ! 僕はなあ、巨乳が大好きなんだ! 見ろ、この立派でもみごたえのある巨乳を!」
「ああん、おたわむれをディスト王子ぃん♪」
まさかのディスト王子はバインネ公爵令嬢とデキていたのだ。
彼女の胸元をまさぐりながら、倒れ伏す女勇者を蹴りまくるスチルは今でも鮮明に覚えている。
あの瞬間から、悪役王子と悪役公爵令嬢が爆誕した。
「ハッ! 女勇者の魔王討伐のモチベを高くするために、くだらない愛を囁いた日々も今日で終わりだ! 強すぎる個の武力は王権を揺るがしかねない! あと貧乳と結婚なんてまっぴらごめんだからなあ! 巨乳でないお前は人にあらず!」
まさに外道。
まさに変態鬼畜野郎。
女は巨乳以外、人権はないと……俺は思わず笑ってしまった。
一国の王子、ゴミクズすぎやろ。
だけどここまで自分の好みと、理にかなった動機を結びつけるのはちょっと感心した。
何より、メインヒロインより使える仲間が消えるのは……一抹の寂しさを覚えたものだ。
魔王戦の後もあって本調子じゃない女勇者は、役立たずのメインヒロインたちをどうにか守り、その場を逃げおおせる。
ここからシナリオは【亡命編】に繋がり、のちに【戦争編】へと発展してゆくのだが。
今はそこが重要ではない。
ディスト王子が大の『巨乳好き』である点だ。
俺はスキル【王の覇気Lv1】を最大限に発動しながら、王子にプレゼントを渡した。対する王子はプレゼントの中身を凝視し、たっぷり数秒間は固まった。
すりよる者と吟味する者、双方が拮抗し、せめぎ合い、その想いを無言でぶつけ合う。
「……ほう、これはなかなかだな。ストクッズ男爵令息」
「お気に召されましたか?」
「ふっ……しかし、かような物で僕の気を引こうなどと……所詮は下賤の生まれか」
口では俺を罵り、周囲に平民出のバカがつまらない贈り物をしたと豪語する。
しかし王子の目は確かに煌めいていた。
それもそのはず。
ディスト王子に贈ったのはこの世界にはなかった、たった一つのエロ本。
『巨乳なる肉奴隷たち』だからだ。
実は俺、ヒモスキルの恩恵でスキル【写実Lv8】に達している。
なんかもう伝説を通り越して神話的な画家レベルらしい。
そこで俺はストクッズ商会傘下の奴隷商に頼みこみ、様々な巨乳奴隷にメイド服やドレス、えっちい下着を着せて全力で模写した。
その後、全裸や卑猥なポーズをさせて描き、脱ぐ前と脱いだ後のギャップ、巨乳を活かした着衣エロを楽しめる最高のエロ絵を描きまくったのだ。
それをアイテマに製本させたわけだが……なるほど、それを目にしてもまだ冷静を装っていられるか。
さすがはディスト王子だ。
だがな、次を見てもまだそんな態度を貫けるものかな?
俺はさらに【王の覇気Lv1】を全力で発動させながら、次なる献上品を繰り出す。
「——シロナ」
「かしこまりました!」
みなまで言わずとも察した優秀な奴隷騎士は、【宝物殿の守護者】からもう一つのプレゼント箱を取り出す。
「ではこちらをごらんください」
俺は重々しく王子にプレゼントを渡す。
国宝級レベルの宝物を授けるか如く、悠々と傅く俺に周囲が息を吞むのがわかる。
そしてディスト王子はまたもや周囲に見えないよう、慎重に箱の中身を確認しようとする。そんな彼の手はわずかに震え、緊張と歓喜が見え隠れしているようだ。
「こっ……これは……!?」
さすがのクール系悪役最強王子もポーカーフェイスを貫けなかったようだ。
目をカッと見開いた後、だらしなく緩みそうな口元を引き結び——
無言で天を仰いだ。
「貴様を……天才と認めざるを得ないようだ……」
「どうか手触りの方もご確認なさってください」
「なっ……もしや観賞用だけでなく、実戦もまた可能なのか!?」
「さようでございます。究極の戦術美をご堪能なさってください」
そうしてディスト王子は俺が特性スライムジェルで製作した、実寸大Gカップおっぱいズリホールのリアルで柔らかな感触を確かめた。
周囲の者たちの目に触れないよう箱の中で、もみっ、もみっと丁寧に……そして愛を込めて、彼はGカップの素晴らしい弾力と包容力に打ちのめされたのだ。
「くっ……! こうしてはおれん! 僕は帰る!」
王子は御神像をおさめるように、非常に丁寧な手つきで箱のフタを閉めた。
それからキリリと決意にみなぎる熱い表情で、颯爽と歩き出す。
「ストクッズ男爵令息、近々ぼくが開催するパーティーにも必ず参加しろ! いいな、絶対だぞ! ん~早くこのママぁに…思いっきりばぶばぶう……」
「仰せのママにッ!」
よし。
ディスト王子、陥落。
ちなみにシロナは中身が何かは知りません。
こんなものを年端もいかない少女に見せるのは毒ですからね、はい。
アイテマは————ロリですがああ見えて18歳以上なので。




