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31話 モブの生存戦略は人脈です



「これはこれは気品あふれる姉君が、まさか男爵令息に夢中とは……」


 ディスト王子はにこやかな笑みをたたえているが、俺たちを見るその瞳は冷え切っていた。


「お熱いですねえ。実の弟に挨拶を忘れてしまうほどとは」


 やれやれと楽しそうに笑うディスト王子だが、確実に俺を敵視しているようだ。

 え、もう何なのこれ……姫騎士には剣闘大会の件を根に持たれるし、ディスト王子からも睨まれるしで最悪だよ。


 パパンごめん。

 俺ってば同年代の王族2人から嫌われまくちゃってる。


「やはり姉君も一人の女性だったのですか。いえ、僕は心配していたのですよ? 姉君は今までずっと婚約話を断り続け、我が王家を支える有力貴族の令息にすら滅多に顔を合わせなかったので。男性に興味がないのかとね」


 いやまあ、姫騎士は『ガチ百合』のメインヒロインだし、もはや恋愛に性別とか関係ない時代だし?


「何が言いたいのかしら? ディスト」


「ようやく姉君の心を射止める男性が現れ、僕は素直に嬉しいと言っているだけです。ですが今まで袖に振られた忠臣たちはどう思うでしょうか? ぽっと出の男爵令息なんかに熱を上げていると知ったら……僕は愚者(あねぎみ)が心配で仕方ありませんよ?」


 おや?

 ディスト王子は俺だけを敵視しているのではなく、姫騎士との関係もあまり良くない?

 むしろ公の場で姫騎士を貶めるような発言をしているあたり、俺はどうでもいい?


 なんか姉弟関係が悪そうだな。

 となると、俺がつくべき側は————



「そうね、ちょうどいいですわ。みな、お聞きになって!」


 俺が二人の言動を見守っていると、姫騎士は自信たっぷりな様子で周囲に語りかけた。



「みなが知っている通り、(わたくし)は優秀な者が大好きですわ! そしてこのストクッズ男爵令息は、まぎれもなく神童の類でございます! 王家として臣下の功績は正当な評価をすべきですわ!」


 ふぁっ!?

 勝手にハードル上げないで!?

 俺はただのモブだし、将来はヒモニートを目指してるから!

 くっそ、こいつマジで俺を追い詰めてきてんな!?

 なんて内心を閉じ込めて、俺はキリリとした顔で姫殿下のご紹介に預かった。


「近年、魔物の活性化が盛んで国内は多数のスタンピードに見舞われました。そんな時、ストクッズ大商会が開発したベッド『ウルトラ快眠ちゃん2号』が騎士団の宿舎に配備され、騎士たちの戦力が大幅に上昇したのは周知の事実です! この場には自領を救われた者もいるでしょう」


 あ、パパンしっかり宣伝してたんだ。

 ちなみに現在は『ウルトラ快眠ちゃん2号』の進化系『眠れるくん初号機』を鋭意開発中だ。


「つまり、ストクッズ大商会は王国の守護者として! 大いなる働きと忠義を示してくれたのです! であるならばこの場のみな代表して、(わたくし)は発案者である彼、ネル・ニートホ・ストクッズ男爵令息に最大限の礼節を尽くしましょう!」


 姫騎士は世界の中心が自分であるかのように、傲岸不遜に振る舞う。しかし、その圧倒的なオーラこそが王族だけに許された威光で、周囲の貴族の子たちはすっかり姫騎士の演説に呑まれきっていた。

 彼女がシャンパングラスを片手に持てば、みながそろって乾杯の準備をする。

 そして姫騎士がシャンパンを天に捧げて豪語する。


「ストクッズ男爵令息に祝福を!」


「「「「ストクッズ男爵令息に祝福を!」」」」


 んんん、俺がこの場の貴族連中やみんなを守った! だから感謝し称えよ! みたいな言い回しになってないか?

 まあ、さっきまで俺に注がれていた敵意に満ちた視線はなくなり、代わって今は憧れの的みたいになってるからいいのか?


 ……姫騎士の狙いがまるでわからん。



『スキル【ヒモ】が発動。【条件:王族女性に30人以上の前で宣伝してもらう】を達成』

『スキル【王の覇気Lv1】習得しました』


 おっ、他人を威圧したり大物に見えるスキルを習得できたからいっか!


 姫騎士もなぜかこっちを向いて清々しい笑み浮かべてるし?

 やりきってやりましたわ、みたいな————


 そこで俺は嫌な予感が走った。

 こいつまさか……俺のだらだらヒモニート計画を見抜いてる……?

 だから今後は俺を、王家に深く忠誠を誓う貴族の模範として、馬車馬のごとく働かせる腹積もりなのでは!?


 そうだ。

 そうに違いない。


 だって姫騎士が認めた男爵令息が、もし今後も普通に貴族やってたら『なんだよ、あいつしょぼいじゃん』『姫殿下の顔に泥を塗ったな』って評価になるよな?

 ハードルを異様に上げてきたのはそういう狙いか!


 ちっきしょうがああああああああああこのクソ姫騎士め!



「姉君はまたそうやって……ひっかきまわす……ストクッズ男爵令息を英雄にでも仕立てあげるおつもりですか」


 俺は周囲の貴族令嬢や令息たちが熱狂するなか、ディスト王子の呟きを聞き逃さなかった。

 この場で唯一、姫騎士の演説に流されず冷静さを保っているのはディスト王子ただ一人だった。


 そこで俺は姫騎士によって創り上げられた絶望的な偶像を砕くべく、ディスト王子にすり寄ると決めた。

 もはや姫騎士との関係修復は不可能だろう。

 であるならば同じ王族であるディスト王子を味方につける他ない。


 シナリオ通り、メイン級悪役キャラの部下みたいな立ち位置になってしまうかれもしれないが、少なくとも二名の王族から敵視されるよりかはマシだ。

 モブは! 人脈なくして生き残れないのだ!


「シロナ!」

「ここに、ネル様」


 即座に返事をするシロナへ、俺は今日一番に鋭い視線を送る。

 俺の態度に一大事であると察したシロナは、いつでも全力で動き出せるよう闘気をみなぎらせる。


「アイテマに作らせておいた例の物を取り出せ」

「御意に」


 シロナが【宝物殿の守護者(アイテムボックス)】から取り出したのは、上品にラッピングされたプレゼント箱だ。

 俺はそれを持ち、姫騎士なんぞに絶対敗北しないと全力で気合いを入れる。

 さらに先ほど習得したばかりの【王の覇気Lv1】を発動し、一気に存在感を底上げした。


 このダンスパーティー中において最も優雅に、そして険しくも堂々とした表情を意識し、ディスト王子の前まで歩む。


 その尋常ならざる空気を感じとったのか、ディスト王子も何事かと俺を見る。

 互いの視線と視線が交錯し合い、モブ悪役と最強悪役の二人が向き合った。


 俺が挑戦的な笑みを浮かべると、ディスト王子もまた豪胆な笑顔で受けて立った。

 何でも来い、と。

 貴様(おれ)が何を企んでいようが、その全てを見透かし叩き潰してやると。

 

 まさに悪役の覇道をいくディスト王子だが、実は『ガチ百合』において俺が唯一尊敬するキャラでもあった。

 そう、ディスト王子は基本的に物凄い努力家なのだ。

 そしてガチ百合をしていた当時、俺は王子のクズっぷりにも心をうたれた。


 だからこそ!!!!

 俺はディスト王子の趣味嗜好だけは(・・・・・・・)! ほぼ完璧に把握している!


「ディスト王子殿下。どうかこちらを献上させていただきたく」


 俺はその場で直属の家臣のように跪き、必殺の貢物(わいろ)を王子に突き出した。

 ディスト王子は無言で箱のフタを開け、本人だけが見えるようプレゼントの中身を確認した。

 

 その瞬間、ディスト王子の目にわずかな動揺と、そして歓喜の色が走った。


 さあ、どう出る?

 最強最悪の王子よ。




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