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27話 ヒロインに誘われるだと!?


「みんな落ち着いて! 中央の大狼を包囲するよ!」


 シロナに率いられたストクッズ騎士団の面々が、【大豚の鬼人(ハイオーク)】たちの死体の山を目にして驚愕する。

 なにせ【大豚の鬼王(オークキング)】の肉をむさぼるモフリルがいたのだから、警戒せざるを得ない。


 シロナのその判断は褒めてあげたいのだが、もう少し偵察で様子を見るとかしてほしい。

 いきなり包囲とかしたら、一触即発状態になってしまいかねない。


「おーい、シロナ。俺だよ俺」


 ひょっこりとモフリルの上から顔を出せば、シロナは美少女がしてはいけない顔をした。

 アングリと大口を開けて、『自分は幻でも見ているのか?』と何度も何度も目をこすっている。



「ネル騎士団長閣下がどうして……?」


 他の騎士団員たちも驚きの色を隠せないままざわついているが、俺はそれらしい態度でみなに宣言する。


「この神獣は私の友だ! みな、安心するがいい! 領内の脅威は退けた!」


 まさか移動式のベッドで惰眠を貪っていたら、いつの間にか討伐してましたなんて言えるはずもない。

 ここは小物悪党らしくそれらしいことを吐けばいいさ。

 発言に嘘はないしな!


「さすがは、ネル騎士団長閣下……でもそれなら騎士団の出動要請はいらなかったのでは……?」


 シロナは外向きの喋りかたで、おそるおそるモフリルに近づきながら尤もな発言をする。

 しかし、俺もここ数年小悪党をやってきてない。

 

「【神堕としの幻狼モフリル】ほどの神獣をテイムできるか確実ではなかったからな。失敗を考慮すればこそ、信頼できる騎士団を出動させたのだ」


「ネル団長閣下は……このような神獣をテイムするのにたったお一人で!?」


「危険を顧みずに、我らが土地を守ろうとしてくださった!?」

「くうううう、俺たちは男気溢れる次期当主様にお仕えできて光栄です!」

「ですがご無理だけはなさらずに……!」

「いやいや、俺たちの次期当主様だぜ? いつだって偉業を軽くこなしてるじゃねえか」

「微力ながらでもお支えしたい!」


 よしよし。

 寝ていただけで、臣下の好感度がアップしまくった。

 これで万が一女勇者(しゅじんこう)に目をつけられても、俺が逃げ切るだけの時間稼ぎ肉壁マンになってくれるだろう。





「ネル様。例の物をこちらに」


 粛々とヘリオが俺に献上したのは、プランターに入った何の変哲もない草だった。

 しかしこれこそ、俺がヘリオに探させていた草で間違いなかった。


「この葉先がぷっくりと丸まったフォルム。そして今にも喋りだしそうで気味の悪い人面草! まさに【語り(ぐさ)】だ! よくやったぞヘリオ!」


「ありがたきお言葉」


 どうしてそんな草一本でこれほどまでに喜んでいるのか。

 そこを語るにはまず、『ガチ百合』にあった非常に面倒なシステムから説明しなければいけない。


 それはパーティーメンバーの空腹システムだ。

 ヒロインたちはお腹がすくとやる気がなくなったり、ステータスにデバフが発生するので、定期的にメシを食わせなければいけなかった。

 碌に働きもしないヒロインたちの食い扶持に、懐事情は常に圧迫されていた。なにせ奴らは全員が貴族か何かで、生まれも育ちも高貴。舌が肥えていれば、味や品質にうるさかったのだ。


 もちろん食べさせる物でパフォーマンスも変わる。いわゆる甘い物やお菓子などを食べれば、やる気になったりするのだ。しかしそういった物はお決まりの如くお高い。

 ただでさえ気分屋で働かないヒロインたちにヘイトがたまっていた俺は、ご機嫌取りが面倒でウンザリだった。


 そこで重宝していたアイテムこそが【語り(ぐさ)】だ。

 見た目こそグロテスクな植物だが、こいつは話しかければ話しかけるほど実がよく育ち、その果実はものすごく絶品で栄養価も高い。


 しかも繁殖力が尋常じゃなく、ちょこっと拠点に植えて一日一回でも話しかければ、どんな土壌でも育ってしまうのがコスパ最高の食べ物たる所以(ゆえん)

 

「ヘリオ! いいか、これをとにかく量産するのだ! 職にあぶれている者や、親を失った孤児、路頭に迷った者、肉体労働がキツくなった老人たち向けの求人を出せ! 内容は日がな一日、【語り(ぐさ)】に話しかけるだけだ!」


「おおせのままに」


「この計画がうまくいけば……王国内を蝕みつつある、食糧危機の問題も解決できるかもしれない」


「さすがですネル様」


 全ては俺がグータラ過ごすためだ。

 食料不足で愚民たちに反発でもされたら、贅沢なヒモ貴族ライフを満喫できなくなってしまう。

 そんな内心は漏らさず、ただただヘリオの前ではそれらしく頷いておく。


 さて、仕事も一段落ついたし、今日はもう中庭でお日様でも浴びながらモフリルと昼寝でもしようかな。

 昼間っから惰眠を貪るとか最高だぜ!


「ではヘリオ。少々、休息にしようではないか」

「かしこまりました」


 ぽかぽかな陽気に当てられて、俺は自然とモフリルが寝そべる中庭へと向かう。

 少々どころか明日の朝まで寝ちゃおっかな~!


「ネル様」

 

 安眠への道中、例のクッキーをよく作ってくれる年若いメイドが声をかけてきた。

 おっと、今日もお手製クッキーをくれるのかな?

 ヒモスキルが発動するからありがたいぞ?


「どうした?」


 そんなルンルン気分はおくびも出さずに、クールで淡々な感じで問いかける。


「旦那様がお呼びでございます。至急とのことで、邸宅内の使用人全てに伝達がゆきわたっております」


 俺の期待はあっけなく裏切られ、代わりに由々しき事態が起きているようだ。

 うわあぁ……正直、ちょっと気が重い。


 ただでさえ最近の父上って、【魔封石】とか快眠ベッドとか、領内保護の件があって、俺にものすごい期待してるからプレッシャーなんだよなあ。

 舞い上がって、12歳の息子を自領の騎士団長に任命しちゃうぐらいだぞ?

 感情が先走って人事を間違ってないかな?


「……そうか、すぐにいく。ヘリオ、ついてまいれ」

「ははっ!」

 

 そんなダルい気持ちを表には出さずに、きびきびと父上の書斎へと足を運ぶ。

 一体、なんの用だろうか?


「父上、ネルです」


「入れ」


 扉越しから伝わる父上の声音はいつもよりほんのわずかに硬かった。

 これは……父上が真剣な話をする前の入室許可の言い方だ。


「父上。いかがされましたか?」


「ネルよ、我が自慢の息子よ。商いの天才にして、魔導の俊英よ! 武神の生まれ変わりであり、神獣をはべらせる神童よ! 喜べ!」


 マジで父上の最近の俺の評価がバカたけえ。



「なんと、我らが姫殿下主催のダンスパーティーに招待されたぞ!」


「それは喜ばしいですね。父上であれば、ストクッズ家の覚えもさらに良いものとなるでしょう」


「何を言っておる? 招待されたのはネル、お前だ」


「え?」


「ふははは! これでストクッズ家も安泰だ! 何せ姫殿下は気に入った者にしか招待状を出さぬ。よいか、これは我が家へ『将来に向けて人脈作りをしてもよい』と、王家のお墨付きをいただいたに等しい」


 父上は大盛り上がりだが、俺の心は極寒に震える子羊のように氷点下だ。


「聞くところによれば姫殿下はすでにご自身と歳の近い者を集め、派閥作りに邁進されているそうだ。このタイミングでネル、お前に白羽の矢が立ったということは————」


 みなまで言わずとも、賢いお前ならわかるな?

 そう父上の目が力強く語っていた。


 つまりは、王位継承権第一位の姫殿下が自派閥に俺を引き込もうとしているのだ。

 そしてもし仮に姫殿下が王位につけば、同派閥であるストクッズ男爵家の地位も上がる。

 もちろんそれなりの見返りとして、彼女が王位につくまで色々と支援しなければいけないだろう。


 しかしそのような大役をなぜ?

 成り上がり貴族なんか自派閥に入れたら、古参の有力貴族の票を取り逃す可能性もあるはずだ。



「な、なぜ、私なのでしょうか?」


「ふっ。息子の活躍を喧伝しない手はないだろう? 父さん、頑張っちゃった」


 ふはあああああああああああ。

 お前かああああ愛すべきクソおやじいいいい!


「悲劇のマナリア伯爵令嬢を救うべく、奔走する年若き獅子。百獣の王にかかれば、どのような困難も鋭い牙と爪で食い破り、己が糧にしてしまう。9歳の天才児により、わずか半年足らずでストクッズ商会の売り上げは白金貨1000枚を超えたのだぞ? さらぁーに! 領内の治安維持のため! 隣国の公爵令嬢が所持する武装勢力を我が物顔で操るだけでなく、自らも先陣を切って民を守る英雄! 我らが領内の守護者! その慈悲深さは自領内だけでなく、周辺貴族の民にまで向けられ、疲労が蓄積し続ける騎士たちに快眠と癒しを約束した! その大きな器は神獣をも従え、神獣とともに魔物を狩る姿がッ、まさぁに! 神話の登場人物そのものだ!」


 ああ、父上の語りが止まらない。

 たしかに当時九歳児が100億円も売り上げたら、王家としても注目しちゃうよな!?

 パパン……成り上がりの貴族としては、息子を売り込むのは正解だよ。

 正解だけど!


 姫殿下って言えば『ガチ百合』のメインヒロインが一人!

『姫騎士アリス』じゃねえか!

 一番関わりたくない相手なんだよ!


 もし粗相をしでかして、のちに女勇者にチクられたら俺の死亡フラグが増えちゃう!



「父上、仮の話なのですが万が一にも欠席した場合は……」


「王族からの招待状だぞ? 四肢が欠損しない限り、欠席など許されるはずもないだろう」


 で、ですよねー。

 安眠への道のりはまだまだ遠かった。




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