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24話 絶対に勝てなかった相手


「私を前にさっそくのよそ見?」


「いや? 接近を誘うブラフだ」


 俺がマナリア伯爵令嬢の様子を伺った瞬間、マリアローズは間髪入れずに急接近してきた。

 たった13歳の少女が、わずか一歩で数メートルの距離を縮めてくる。

 傍目から観戦していたのと、いざ自分がやられるのではその迫力に雲泥の差がある。


「【解錠(オートクル)】————【蒼天に咲く火弁(フランメ・フローラ)】」


 しかも厄介なのがアストロメリア王国固有の魔法、【鍵魔法(キー)】だ。

 彼女の国では異界に繋がる扉や門を開く魔法の鍵を駆使し、その異界の力を行使する。

 その多くはうちの国と同じく詠唱を必要とするものだが、マリアローズはほぼ全ての【鍵魔法】を短縮詠唱で発動できる。


 現にコンマ1秒で彼女の背後に浮遊した魔法の鍵が異界の扉を開き、炎界からの現象やらをこちらの世界に召喚している。

 この晴天に突如降り注ぐ蒼き炎の花弁(かべん)が、つぶてとなって俺に襲い掛かる。

 同時にこちらの急所を的確に射貫こうとする、彼女のレイピアの突きにも対応しなければいけない。


「————【絶対の盾(アイギス)】」


「それ、もう見たわよ?」


 マリアローズは俺がやや斜め上方と前面に展開した盾を見抜くように、ギャリっと身体を回転させながら俺の背後に回った。

 突進のスピードをそのまま殺さずに、華麗なドレスが閃くのを横目に俺はついに剣を抜いた。


「抜いたわね、剣を。いいえ、抜かざるを得なかったの?」

「……ご名答」


 マリアローズが狙った背面への突きをどうにか剣で受け止める。

 思った以上の衝撃に手が軽くしびれた。


「おおーっと! 青薔薇が咲かした蒼き炎も、鋭い突きも見事防いだあああ! しかし、ここでついに【無剣のネロ】が剣を手にしたああああ! やはり彼に残された信仰(MP)は風前の灯なのかああ!? すがるように手にした剣は果たして、凍てつく青薔薇の前で希望を灯せるのか!? それとも絶望を前に凍てつくのかああ!」


 司会の考察や発言は一般的に言えば的を得ている。


 この場の誰もが、俺は前の試合で信仰(MP)を使い過ぎたと思っている。だからこそ、マリアローズとの決勝では強力な魔法を発動できない。

 それは試合前の会話でマリアローズ本人も確信しているだろう。


「魔法使いが、どこまで私の剣についてこれるかしら」

「どこまでも一緒に踊りますよ、愛しの淑女(マイ・レディ)


 マリアローズは『まさか、馬鹿げているわね』と、俺の言葉を強がりと捉えた表情で、こちらを追い詰めようとレイピアの嵐を見舞ってくる。

 当然、突きに次ぐ突きで息つく間もない。


 しかし、彼女が誇る高速連撃のことごとくを俺が剣でいなすと、彼女の顔は驚きに染まっていた。

 そこへさらに無詠唱での反撃が始まる。



「なっ————それって、【雷帝の剣】!?」


 俺の剣に、天より落ちた一筋の亀裂が宿る。

 それは空の青を割く雷そのもので、バリバリと弾ける電撃がマリアローズに襲い掛かる。

 雷を纏った剣を受けることはできない。なぜなら剣を合わせたと同時に、その電流が体を駆け抜けて動きを封じるからだ。


「————【流星剣】」


 加えて、シロナと同じく無数に流れる流星のごとき剣戟を披露する。

 剣を使えず、魔法も使えない。そんな相手からこんな反撃をもらうのは圧倒的な不意打ちだろう。


 俺が狙っていた展開に、マリアローズはしかし————



「【解門(オートクル)】————【水獄の鋳薔薇(ウォーター・プリズン)】」


 一振り、二振り、三振りと俺の剣をぎりぎりでかわしながら【鍵魔法】を発動させてみせた。

 マリアローズの背後から美しい薔薇が伝う門が出現し、門戸が開く頃には大きな透明の鋳薔薇(いばら)がタコ足のごとく出現した。

 それらは水でできたい鋳薔薇で、茎や葉の部分には高速で回転する棘のような突起が生じている。

 

水獄の鋳薔薇(ウォーター・プリズン)】は俺を閉じ込めようと生い茂る。俺が剣を振るっても、電気の性質上、水に絡めとられてしまう。

 水流に電撃が乗ってしまえば、当然マリアローズまでは届かない。


 くそっ……5年前でこれって……。

 俺の知ってるマリアローズとほぼ変わらないぞ?

 スピードが若干遅いぐらいで、鍵魔法の手札の数は同等だ。


 水流の棘と稲光が走るなか、彼女はさらに重く鋭い一撃を放ってきた。


「————【女王蜂の一刺し(クイーンビー)】」


 俺の【雷帝剣】の特性にすぐ対応し、間髪入れずに突進してくる勝負勘は本物だ。

 だが、その戦闘センスは嫌と言うほど『ガチ百合』で見てきた。だからこそ、俺は二手も三手も絡め手を用意してある。


「————【犀王の一突き(キング・ライノス)】」


 女王蜂が繰り出す致命的な一刺しと、獰猛なサイの王の突撃が、互いの剣に乗って衝突する。

 ギィンっと小気味よい音を響かせながら、俺たちの攻撃は相殺された。

 

 それから俺もマリアローズも無数の攻防を広げる。

 互いの戦闘方法は酷似していて、嵐のような剣と魔法の応酬を繰り広げる。

 似ているのは当たり前だ。


 魔法と剣技の組み合わせ、魔法の影や死角からの強襲。

 その全ては彼女の得意分野で————

 

 なにせ俺はマリアローズの5年後の戦い方を研究し尽くして、それでもなお届かなかったから……正直に言えば彼女に憧れて、彼女を超えようと必死にキャラを強化したりもした。


『【条件:Lv55以上のキャラ/モンスターの攻撃を剣で100回以上相殺する】を達成』

『スキル【封殺剣Lv1】習得しました』


 だからこそ、【封殺剣】という超便利スキルを獲得するまでは様子見(・・・)に徹していた。

 しかし予想通りLv55超えとか……この世界って周回モード何周目の難易度だよ。



「【開演(オープナー)】————【雪原に咲く野薔薇(アイス・フローラ)】」


 出たぞ、マリアローズのお得意魔法。

 青系統の氷雪属性を持つ彼女の鍵魔法は、拮抗した鍔迫り合いを崩すために発動された。

 そこへ俺は返す太刀で習得したばかりのスキルを放つ。


「————【封殺剣】」


 今はまだLv1だから一つの魔法やスキルなどを一時的に封印するしかできないが、それでも咲き誇るはずだった氷たちが芽吹かないのはマリアローズにとって予想外だ。

 何せ彼女は氷花の影を縫って、必殺の一撃をレイピアで打ち込む気満々だったから。


 俺はそれを大上段から本気(・・)の一撃で切り結ぶ。

 とっさに彼女はかわそうとするが間に合わない。レイピアを斜めに添えても、そらし切れる威力でもない。


 パリィィッンっと乾いた音が響けば、彼女の持つレイピアがポキリと折れる。

 それから豪速でマリアローズの頭に迫る俺の剣を、どうにか静止させた。


 剣圧だけで彼女の美しい青髪がぶわっと広がり、周囲に激しい土埃の波紋が広がった。



「まさかこの私を相手に寸止めなんて————」


 それから彼女は清々しい笑みとともに宣言した。


「私の完敗ね? いいわよ、私の未来の旦那様で」


 それから堂々と折れたレイピアを投げ捨てては、なぜか俺に抱き着いてきた。


「まだ小さいけれど、すごく紳士で優しさを感じたわ。もう私が私の武器を振るわなくても大丈夫ってぐらいの安心感」


 ……す、すみません。

 俺は全然安心じゃないです。

 むしろ観客席の一部がどす黒くなっていて危機感しか覚えてないです。



「マ、マナリア伯爵令嬢! こ、これは違うんだ!」


 

 ついつい恐怖で動揺してしまい、ヒモ男が浮気現場を押さえられて修羅場ってるみたいな台詞を吐いてしまった。



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