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23話 青薔薇の名声


「準決勝戦第二試合は【青薔薇(あおばら)】の勝利です! 隣国の姫君に、白金級(プラチナ)の冒険者に、盛大なる拍手を!」


【青薔薇】と【炎奏者エンブレナ】の戦いはやはり一方的だった。

 魔法使いであるエンブレナが多少は無詠唱で魔法を発動できても、短縮詠唱の手札が多い【青薔薇】の敵ではなかった。

 

【青薔薇】はエンブレナに強い魔法を発動する暇を与えずに、レイピアと魔法による多重攻撃で封殺してみせた。

 やはり俺の決勝戦の相手は、【青薔薇】ことマリアローズになったってわけだ。

 

 決勝戦までは互いに2時間ほどの休憩を挟む。

 その短時間で回復しろとのことだが、ここまでの激戦を潜り抜けての消耗がそんな短時間で癒えるはずもない。

 しかしここには魔法が存在しているので生傷などはほとんど癒せるだろう。


 問題はここまで消費してしまった信仰(MP)だ。

 信仰(MP)は一般的に7時間~10時間ほど寝れば全快すると言われているが、俺の場合は5分寝ればだいたい復活する。これもユニークスキル【ヒモLv5】の恩恵だ。


 まあ寝なくともまだまだ信仰(MP)の余裕はあったけれど、相手はあのマリアローズだ。

『ガチ百合』時代は一度も勝てなかった人が、たとえ5年前の未熟な状態であっても油断はできない。

 俺は治療中のヘリオの傍で横になり、少しの仮眠で全回復をしておく。


 それからアレやコレやと対策案を練っていたら、決勝戦の時間はすぐに訪れた。


「ネロ様……ご武運を」

「俺なら大丈夫だ。ヘリオは安静にしていろ」


 寝たきりの従者に見送られ、俺は闘技場へと向かう。

 俺がいざ闘技場に姿を現すと割れんばかりの歓声が響き、同時に向かい側からマリアローズが出てくれば更にその音量は増した。

 闘技場は興奮と熱狂の渦に呑まれ、みなが今か今かと俺たちの戦いを待ち望んでいた。


「やっぱり決勝戦の相手は貴方なのね、ネロ」

「……俺だって唯一負けそうな相手とは戦いたくなかったさ。マリアローズ」


「準決勝で無用な魔法を使い過ぎよ? 私との戦いのために温存してくれないと」

「……俺への気遣いは不要だ。お互い、全力を出し合おう」


 先の少女騎士アリシアとの戦いで、俺は信仰(MP)をだいぶ消耗したイメージがついているのだろう。それこそ、碌な魔法を発動できないぐらいには。

 観客も司会も、マリアローズでさえもそう思っているはず。

 魔法使いとしては致命的なハンデを背負っての決勝戦に臨む。そんな風に映っているのだろうな。


「ネロ。貴方って気持ちいいわね。そうだわ、この勝負で一つ賭けをしてみない?」

「賭け……?」


『ガチ百合』での剣闘大会決勝戦で、こんな演出はなかったはずだ。

 ただ、最強の選手マリアローズに勝ったボーナス特典として、彼女が各国に駐屯させている傭兵団【青薔薇の剣】を使役できるようになる。

 俺は使えないクソヒロイン共の代わりに、その特典がどうしても欲しくて剣闘大会に何回も挑戦したけど……ついぞ彼女には敵わなかった。

 

「賭けに乗るか乗らないかは貴方に任せるわ。もし私が勝ったなら、うちの傭兵団に入りなさいネロ」

「もし俺が勝ったなら?」


「婚約者になってあげるわ」

「それは……婿入りか?」


 青髪の美少女は、誰もがとろける綺麗な笑顔でそんな爆弾発言を簡単に言ってのけた。


「まあ、そうなるわね? 私に勝てたら、のお話よ?」


 自分は絶対に負けないと自信に満ち溢れた言動だな。

 しかしこの提案は悪くないかもしれない。彼女は武装勢力である傭兵団も所有していて、男爵家の俺なんかよりよっぽど地位も財産も、名誉もある公爵家のお嬢様だ。

 しかも彼女は隣国のお貴族様だから、今後は女勇者(しゅじんこう)などと関わる可能性が低い。

 そんな破格なところへ婿入りなんて、理想のヒモライフを楽しめるのではないだろうか?


「おおおーっと! ここでまさかの【青薔薇】から婚約話を持ち掛けられたあああ!? 剣闘大会史に残る伝説的な賭けだあああ!」


「粋な計らいじゃねえか! 【青薔薇】はわかってやがる!」

「【青薔薇】のローズちゃんが婚約だと!? 絶対にそんなのは嫌だ!」

「【青薔薇】が勝つ! 俺はそう信じている!」

「俺たちの【青薔薇】が、顔も見せられねえ根性なしと結婚なんてありえねえ!」

「【青薔薇】に金貨10枚賭けるぞ! 絶対に負けるなよ【青薔薇】!」

「「「青薔薇! 青薔薇! 青薔薇!」」」


 一瞬で闘技場は青薔薇コール一色に染まってしまった。

 戦闘技術だけじゃなく人心掌握術まで完璧とは……さすがは公爵家のご令嬢。

 彼女の優秀さを目の当たりにした俺は、ますます希望が湧いた。今後の人生、面倒ごとは全て彼女に任せてのらりくらり生きていけるぞ!?


 そんな俺の淡い希望は、一部の観客席がどす黒く染まっているのを目にして霧散してしまう。

 そこには、今にも闇魔法【暗黒を生む日蝕(ダークマター)】を発動させそうなマナリア伯爵令嬢がいらっしゃった。

 あれを発動したら周囲に黒い球体が無数に発生し、それに触れた者は日蝕のごとく肉ごと抉り取られる恐怖のシャボン玉だ。


 そんなものをこちらに向けそうな理由はアレですか。

 マナリアさんは俺の正体をわかっている感じですかね?


 だだだだからご立腹されている? 自分という婚約者がありながら————ってやつですか?


 黒髪の姫カット美少女さんは、俺とマリアローズを冷たい表情で見下ろしながら、抱えた爆弾を今にも暴発させそうな勢いだ。

 無口系ヒロインは何考えているかわからないッッ、これだから恐ろしいッ!


 今そんなの発動したら周囲の客席から多数の死者が出るし……最悪、後になって俺の正体がバレでもしたら……婚約者との痴話ゲンカで剣闘大会を滅茶苦茶にしたってレッテルを貼られる!?


「まっ、マリアローズ。賭けの内容だが、俺が勝ったら傭兵団【青薔薇の剣】を俺のために3度だけ使ってほしい。それでどうだ?」

「婚約者になったら好きなだけ使えるけれど、そんなのでいいの?」


 確かに自ら賭けの報酬額を下げたに等しいかもしれない。

 しかし、俺としては『ガチ百合』で最も好感を持てたキャラがマリアローズなのだ。彼女は好感度やら気分に左右されるバカヒロインたちと違って、常に最高のパフォーマンスで競り合い、俺を叩き潰してきた。


 俺が何度、マリアローズがパーティーメンバーだったらと思ったことか。

 もはや彼女の戦闘に対する強い思いも、執念も、努力も、その全てが尊敬の域にあった。

 だからこそ彼女とは今後のお付き合いも踏まえて、慎重にことを運びたい。


 生まれも育ちも違ければ、国すら違う。そんな彼女といきなり婚約者ってのは無理な話だ。それに傭兵団だって俺が一から育ててきたわけじゃない。

 婚約者になっただけで簡単にその権力を握るというのは周囲からよく映らないし、傭兵団の連中だって俺なんかに使われたくないだろう。


 そんなわけで、正当な賭け金が【青薔薇の剣】の三回使用権ってところだ。

 そこからマリアローズとも、傭兵団とも繋がりを持って親密になっていけばいい。

 そして気付いたらヒモ。うん、我ながら完璧な計画だ。

 決して未来の女大賢者様の逆鱗に触れたくなくて、ビビったわけではない。



「分不相応な対価を要求するのは今後の信頼関係に響く。マリアローズとは長い付き合いになりそうだからな」


「へえ……それって私に勝つ気満々って意味よね?」


「どう捉えてもらっても構わない」


 俺たちの賭け金が定まれば、司会は空気を読んで試合開始の合図を声高らかに宣言した。


「絶対零度のレイピア使い、【青薔薇】マリアローズ嬢! 絶対魔法の使い手、【無剣のネロ】! 両者の賭け金は勝利への栄光と互いの覚悟! さあ、この賭けを制するのは一体どちらなのか!」


 闘技場には割れんばかりのコールが溢れ出す。

【青薔薇】とも【無剣】とも、どちらともへの声援が飛び交い、盛り上がりは最高潮に至る。


「剣闘大会! 決勝戦、開始いいいいいい!」


 司会の声が響き渡るなか————

 チラリとマナリアさんがいる観客席に目を向ければ、ドス黒いオーラは霧散していた。

 ははは……どうやら命拾いしたようだ。




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