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18話 運命の二人


 一回戦の集団戦は四つのグループに分けられ、一グループ50人の生き残り戦が始まった。

 まず注目選手が被ったのは第二グループの、【鬼殺しのオグルス】と【青薔薇(あおばら)】のマリアローズだ。

 賭けがいのある選手同士がつぶし合うこともあるので、これには多くの観客からブーイングが飛び交った。

 しかしそんな観客の心配は簡単に裏切られる。


「見事、第二グループを生き残った選手は【鬼殺しのオグルス】と【青薔薇】の両名となります! お二人に盛大な拍手を!」


 第二グループの結果を発表した司会も驚愕しただろう。

 何せマリアローズの圧倒的な無双で、他の選手たちはあらかた駆逐されてしまい、どうにか彼女の初手に堪え切れたのがオグルス一名だけだったのだ。


「……【凍てつく青薔薇(フローズメイデン)】の血筋は健在か」


『ガチ百合』では勝てなかった相手だからこそ、俺は彼女の設定だけはよく知っていた。

 マリアローズは隣国のアストロメリア王国の公爵令嬢だ。  

 彼女は二代前のフローズメイデン公爵家の当主にあたる伝説的な祖母、マリアローズの名を踏襲している。そして今は、祖母にも負けない武勲を残すのだと、世を渡り歩きながら修行に明け暮れる奇特なお嬢様だ。


 闘技場には氷の青薔薇(ばら)が咲き誇り、多くの汚らわしい有象無象を瞬時に青白き芸術品へと昇華させていた。


「あれでまだ(・・)本場のフローズメイデンではないのだから驚きだ」


 あれは【雪原に咲く野薔薇(アイス・フローラ)】といって、威力は【凍てつく青薔薇(フローズメイデン)】より数十倍劣る。

 どうやらこの時代のマリアローズはまだ、フローズメイデン家の極意を習得してないようだ。


 それでも厄介な選手には変わりないだろう。

 特にシロナにとって勝つのは厳しい相手になるはず。



「ほぅ、お前さんは【青薔薇】に詳しいのか」


「まあ多少なりとは。ファルス氏にとっても注目選手でしょう?」


 俺の独り言に入ってきたのは、同じ第三グループの【黒剣のファルス】さんだった。


「あのお嬢ちゃんはねえ……戦いたくないなあ。もちろん少年、お前さんともだよ。さっきエンブレナの魔女が、お前さんのツレ(・・・・・・・)を焼き焦がした(・・・・・・・)時は肝が冷えたもんさ。お前さんの殺気はおっかなすぎるぜ」


「あの時はいささか感情が昂ってしまいまして……まだまだ未熟者ですね」


 そう、ヘリオは第一グループの集団戦で敗北を喫した。

 やはり俺が睨んだ通り、【炎奏者エンブレナ】は徒党を組んでおり、他の選手たちとさりげなく共闘してグループ戦を勝ち抜いた。

 その際、そこそこ実力のあるヘリオは後半戦になるにつれて、多勢に無勢で狙われ……執拗なまでに追い込まれた。

 そして最後は、エンブレナの炎魔法によって焼き抜かれたのだ。



『ぐぁぁぁぁあああっ、ネル様の名声をっ、自分は背負っている、んだあああ……!』


 ヘリオは最後の最後まで屈せず、結局は死の間際まで焼かれても立ち向かい続けた。

 重傷を負って医務室に運ばれるヘリオは、全身が痛むであろうに、泣き言一つ漏らさずに黙っていた。


 そこで俺が『よくやった』と声をかければ、『自分の誓いを貫けませんでした……』と言い、結果を残せなかったことだけを悔やんで静かに泣き始めた。


 身体の痛みではなく、誇りを貫けなかった痛みに涙したのだ。

 その男泣きには少なからず、ぐーたらな俺ですら響いたものがある。


『ヘリオは……甘えられぬ者の強さを、十分に証明したさ』


 ヘリオはシロナという後輩に後れをとっている。俺への忠誠心が高い分、自分を不甲斐なく感じ、人一倍悔しい思いをしてきただろう。

 それでも焦りや妬みに潰されず、ひたむきに努力してきた。

 常に後輩の前ゆえに甘えることすら許されずに、俺の横に立ち続けてきた。


 それに比べて、あの炎魔女豚野郎は協力者に甘えまくってたな。

『ガチ百合』のヒロインたちも同じだ。

 気分でパフォーマンスが左右するとか、どんだけ甘えてるの? なんて思い出すだけで(はらわた)が煮えくりかえる。


 そうして俺はしばらくヘリオの傍につき、ひたすら中級治癒魔法をかけた。

 ヘリオは朦朧とした意識でありながら、何度も何度も『ネル様にお手を煩わせるわけには……』と遠慮していたが、そういうわけにもいかない。


 それから命に別状のない状態に持っていけたので、俺は医務室から出て今に至る。



「まあお手柔らかに頼むぜ、少年」


「マントの下の暗器を俺に向けない限り、ファルス氏をどうこうする気はありません。今のところは」


「おーこわいっ」


 なんておどけるファルス氏とともに、先ほどまでマリアローズたちが戦っていた会場へと足を運ぶ。

 いよいよ俺たち第三グループの勝ち抜き戦が始まった。





 やはりめぼしい選手はファルス氏だけで、俺に襲い掛かってくる者はあくびしながらでもさばけるはずだった(・・・・・)

 中には貴族の息がかかっていそうな冒険者やゴロツキなどもいたけど、せいぜいがLv35前後どまりだ。

 俺は剣すら抜かずにウォーミングアップ代わりに殴り倒しまくる。


 久しぶりの対人戦なので目を慣れさせる必要もあり、剣や斧の切っ先がこちらに向かってくる恐怖に耐えながら冷静に対処していく。


 ゲームでは淡々とできていた作業も、実際にやるとなると精神的に厳しい。

 時々ヒヤヒヤした場面もあったが、気付けば会場で立っているのはファルス氏と俺だけになっていた。


「勝者、【黒剣のファルス】と【無剣のネロ】に盛大な拍手を!」


 俺が剣を抜かずに他の選手を制圧していたからなのか、変な二つ名までついてしまったようだ。


「お前さんは妙な戦い方をするな。ズブのド素人みたいな動きをしたと思ったら、急に熟練の剣闘士が憑依したかのような……」


「詮索するつもりなら容赦しないですよ」


「おぉー最近のガキは怖いねえ。話も通じねーみたいだな。おっさんはただ若者と仲良くしたかっただけなんだがなあ」


 ファルス氏の軽口に付き合ってる暇はない。

 次はシロナが所属する第四グループの戦いが始まるからだ。


 ふとシロナに目を向ければ、どこか表情が硬い。初めての大会出場で緊張もしているのだろうが、おそらく【炎奏者(えんそうしゃ)エンブレナ】に焼かれた槍使いがヘリオだと勘付いたのだ。

 普段から二人は競い合う仲で、常にいがみ合ってはいるが……先ほどの光景に思うところがあるのだろう。


 いつもよりぎこちない動きで会場入りすれば、シロナは無数の選手たちから敵意を向けられる。それもそのはずで、選手の控室であれほど闘志を放ちまくっていたのだから『最初に潰してしまえ』といった心理が働いているのだろう。

 そしてそれは、例の少女騎士にも同じことが言えた。


 彼女もまたシロナを挑発するぐらいだから、他の選手にも息を吸うレベルで挑発しまくっていたのだろう。


 だからこそ自然に二人は協力し合う関係になっていた。

 多くの選手たちからの攻撃にさらされ、いつの間にか背中を合わせて防ぎきる二人の美少女? の姿は会場を熱く沸かす。

 まあ、片方はフルフェイスヘルムでほとんど顔は見えないけれど。


 とにかくあれほど試合前は険悪な空気だったにも拘わらず、シロナと少女騎士は共闘していた。どちらかが示し合わせたわけでもないのに、付け焼刃にしては見事な連携だった。


 少女騎士が趣味の悪い金色の大盾(タワーシールド)でことごとくを受け止め、シロナが鋭く流れるような刃で敵を屠る。

 まるで彼女たちが共に戦う運命であるかのような、そんな不思議な感情すら芽生えた。



「勝者、【金剛のアリシア】と……ストクッズ男爵家の奴隷騎士、【流星のシロナ】に盛大な拍手を!」



 無事にシロナが勝ち残ったのに安堵した俺は、いよいよ決勝トーナメントの相手は誰かと思いを馳せる。

 できれば初戦でマリアローズやシロナとはぶつかりたくない、そんな思いを神様は汲んでくれたらしい。


「はっ、さっきは思うように動けなかったがこっからが俺様の本領発揮だ! おいチビ、次の試合でお前をボコッボコのボコにしてやるぜえ!」


 わざわざ俺の目の前に来て吠えたのは、次の対戦相手である【鬼殺しのオグルス】だった。

 その立派な体躯に反し、弱い犬ほどよく吠えるを見事に体現した男だ。


 そんな彼に俺はあくびをする。



「てっ、てめえええ……必ずブチ殺してやる」


 彼はこれでもかと筋骨隆々な身体を膨張させて、精一杯の威圧をかましてきた。


 ん? 

 人間の筋肉って力を入れなければ、それほど硬くないよな?

 むしろ弾力性に富んでいるはず。


 筋肉量が豊富な彼の上に寝そべったら……もしかして寝心地がよかったりするのだろうか?





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