17話 剣闘大会
「でぇーあるからにしてー、お日柄もよくー、みなみなさまー、どうかヤッホイしてくださいー」
剣闘大会は大盛況で開幕した。
どこぞの主催貴族の挨拶は退屈であったにしても、その内容は血沸く肉躍る祭典だ。
「俺は【黒剣のファルス】に銀貨10枚を賭けたぞ!」
「おらあ【炎奏者エンブレナ】と運命を共にするぜ。何せ今月の生活費ぜんぶ突っ込んだからな」
「頼む! 頼むから【鬼殺しのオグルス】が優勝してくれ! でないとカミさんに殺される!」
「おいおい! ありゃあ【白金級】の冒険者……【青薔薇】じゃねえか!」
観客席の声に耳を傾けると、どうやら優勝候補として名が挙がっているのは4名らしい。
選手の控室で俺が目をつけておいた4人中3人は的中した。
【黒剣のファルス】は黒頭巾とマントを被った中年男性で、その足取りに隙がない。
おそらく暗殺系統のスキルと、スピード系のスキルを保有しているはずだ。そして主武器は曲剣と見せかけて、マントの裏に隠した暗器がメインなのだろう。
【炎奏者エンブレナ】は赤髪が特徴的なローブ姿の女魔術師だ。
魔術師にしては動けそうだし、集団戦も含まれる剣闘大会に出場しているのだから詠唱スピードもそれなりに早いのだろう。
とはいえ、魔術師一人で集団戦を生き残るのは厳しすぎる。おそらくどこぞの貴族の手の者か、あらかじめ徒党を組んでの参戦となっているはず。
【鬼殺しのオグルス】は……控室からすごく威圧的で、『おれさいきょー』アピールが稚拙だった。つまりはただの木偶の坊で、見掛け倒しの世間知らずだろう。
さて、一番の問題となるのは【青薔薇】だろうな。
透き通るような青色の長髪をなびかせた魔法剣士風の美少女は、【白金級】冒険者の肩書きに負けない静かな闘気に満ちていた。
得物は腰に差したレイピアと短杖で、近接と中距離を得意とするスタイルで間違いない。しかしそう思わせておいて、あの家系は遠距離にも特化していて————
「おい、仮面のチビ。邪魔だ、どけ」
俺が【青薔薇】を遠目に観察していると、【鬼殺しのオグルス】さんがどついてきた。
しかし俺のレベルは今や68なので、そんじょそこらの木偶がぶつかってきたぐらいじゃビクともしない。逆に俺の二倍近くある上背の大男がフラついてしまった。
それを偶然見た何人かの選手がクスクスと冷笑する。
「ちっ……てめえ、舐めてんな? わざわざ魔法とか使いやがって。一回戦で同じになったら真っ先にてめえをぶっ殺す」
額に血管まで浮き上がらせたオグルスさんは、俺を凄い形相で睨みながら去っていった。もちろん俺にぶつからないように。
なんだったんだ?
そんな疑問を浮かべていると、不意に背後からヒヤリとする感覚が生じる。
少しだけ眠気が覚めた。
「きみ……仮面の貴方よ。【岩飾りの娘】……? ではないようね。人間の少年?」
噂をすればなんとやらで、俺が一番注目していた【青薔薇】さんが話しかけてきた。
へえ、改めて生で見ると美形すぎる人だな。
俺が知ってるのは5年後の彼女の姿だけど、5年前の今でも十分に女性としての魅力に満ち溢れている。
「年齢は10歳ぐらい? 私はマリアローズ、13歳よ。よろしくね?」
知ってますとも。
『ガチ百合』の剣闘大会で、俺が唯一勝ち星をあげられなかったのは貴女ただ一人ですからね。
「これはご丁寧にどうも。俺は————ネロだ。鉄級冒険者のネロだ」
「そう、ネロね。とてもではないけれど、鉄級になんて見えないわ。どうか本番もよろしくね」
誰もが昇天しそうな笑みをニコリと咲かせる一方で、笑顔の裏には強い確信と意思が垣間見えた。
なるほど……ゲームでは上手くいっても、現実では具合が違うと。
どうやって俺の力を見破ったかわからないけど、やっぱり【青薔薇】は警戒するべきだな。
「白金級にお世辞を言われるとは嬉しいね。それじゃあ、また」
「お世辞なんてまさか、私は正当な評価を貴方に————」
マリアローズが何かを言い終わる前に俺は彼女に背を向ける。
【青薔薇】なんかに話しかけられてしまったら、周囲の目が俺にも集まってしまう。
なので俺はそそくさと彼女から離れた。
剣闘大会一回戦のセオリーはいかに他の選手を油断させるかによる。
人畜無害を演出し、モブに徹するのが一番効率がいいのだ。
『こいつはあんまり強そうじゃないから後回しにしてもよさそう』『集中攻撃する必要がない』と思わせる。そして選手が少なくなってきた後半戦で、少しずつギアを上げていくわけだ。
端的に言えば力を温存できた者が、グループトップ2位に最後まで残れる。
その辺を【青薔薇】には看破されていたようだ。
そう、すでに控室から『だまし合い』の戦いは始まっていた。
だというのにシロナや例の少女騎士、そして【鬼殺しのオグルス】さんはビンビン闘志をみなぎらせていたので、序盤から徒党を組んだ奴らに狙われるだろうなあと思う。
もちろん事前にシロナには最低限のノウハウを伝えてあるものの、ここまで細かくは教えていない。決して言い忘れていたのではなく、何事もいい経験になると思ってのことだ!
ほ、本当だからな!?




