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殿下、怪しいものに手を出さないで下さい

「ジェイド様、可愛いお花が咲いていたんです。執務室に飾っても良いですか?」

「勝手にすればいい」

(くっ、天使がいる……花とフローラの組み合わせはダメだっ、直視出来ないっ)


「ハンカチに刺繍をしてみたのですが、貰ってくれますか?」

「そこのテーブルに置いておいてくれ」

(私のために刺繍を?直接手渡されたら、みっともなく手が震えてしまうかもしれない)


 自分の態度がツンデレではなく、ただの態度が悪い男だと指摘された無自覚最低男ジェイドは、フローラとの関係修復を考えるが、やはり本人の前だとツンとした態度になってしまう(もはや条件反射)。


「ジェイド……」

 一向に変わらないジェイドの様子に、ランツが呆れてしみじみと呟くのも無理のない話だった。

「うっ……わかってる」

 机に突っ伏したジェイドが、弱々しくライツの言葉を遮る。自分でもフローラへの対応を思い返して「最低だな」と思っていたところだった。

「でも、フローラを前にすると、どうしてもあんな態度になってしまうんだ」

 毎回、フローラが居なくなった後から、「可愛い」だの「天使だ」などとランツ相手にデレているが、フローラを前にすると緊張やら、恥ずかしさやらで、思い通りに話すことができないでいた。

「そろそろ、その態度どうにかしないと、フローラ嬢から愛想尽かされるぞ。アリソン伯爵は元々婚約を渋っていたんだろ?このままじゃ、婚約破棄になったりして……」

「それは、イヤだっ」

 婚約破棄という単語に反応したジェイドが、ガバッと起き上がる。

「なら、俺じゃなくで、本人にデレるようにならないと」

「うっ……そうだよな、このままじゃ駄目だな」

 しかし、これまでの経験でフローラを前にすると、いくら態度を変えようとしても最低男になることは実証されている(寧ろ意識しすぎて悪化している)。

「あ、そうだ」

 ジェイドは思い出したように机の引き出しを開けて何かを探し出した。

「あった」

 引き出しから取り出した木箱に入っていたのは、手のひらサイズの布人形だった。

「え、なに、その人形」

 目のボタンは取れかかっているし、口と思われる箇所は太めの赤い糸でギザギザに縫われている。全体的にほつれ、薄汚れていることもあり、正直気持ち悪い。思わずランツが距離を取るように一歩下がった。

「随分前に異国の商人から貰ったんだ。確か、願いを叶えてくれる人形だと言っていた気がする。ただ、見た目が不気味だし、なんか部屋に置いていたらジッと見られてるような気配があるし、気のせいかもしれないが夢見が悪くなったり、疲れやすいようになったから、入っていた箱に入れておいたんだが」

 ジェイドの説明の途中で、ランツは木箱を奪い取ると、バタンッと勢いよく蓋を閉めた。

「呪いの人形じゃんっ!」

 木箱に思いっきり「封」とか「開けるべからず」って書いてあるし、何枚もお札が貼られている。

「これは没収!」

 こんな不気味な物が執務室にずっとあったと思うとゾワゾワとする。ジェイドは「願いを叶えてくれる人形じゃないのか?」とキョトンとした表情をしているが、見るからに不穏な空気を纏った人形にそんな効果があるとは思えない。そもそも、あの無機質なボタンの目でジット見られている気配がするとか怖すぎる。

「この箱は絶対開けるなよ。なんなら触るな。帰りに俺が魔法局に持っていくから」

 魔法局はこういった呪物も管理しているから、持っていけばどうにかしてくれるだろう。鬼気迫るランツの様子に、ジェイドは諦めたように「分かった」と頷いた。


「人形は駄目か……となると、薬を使うしかないか?」

 考え込むジェイドが、目を瞑りなにかを決断するように呟く。

「は?薬?」

「この前、城下へ視察に行っただろ?その時に買ったんだ。『自分の気持ちに素直になれる』薬らしい」

 そう言いながら、ジェイドは机の引き出しから薄い桃色の小瓶を取り出した。

「いやいやいや!何その怪しい薬!!」

「フローラの瞳の色みたいで綺麗な小瓶だろ?」とか呑気なことを言っているジェイドから、ランツは引ったくるように薬を奪った。

 小瓶には『これで貴方も欲望に忠実になれる』とか『彼女も貴方の虜に』とか書かれている。いかにもな文言──これは、所謂媚薬というものでは?

「ジェイド、この薬がどんなものか分かってるのか?」

「え?書いてるままじゃないのか?自分の気持ちを、相手に素直に伝えられるようになるんだろ?」

 気持ちというか欲望と書いているのだが、都合の良いように脳内変換されている。確かに今のジェイドにしたら、「気持ちに素直になる」というのが欲望なのかもしれないが、この薬に書かれている欲望は別物である。

 全く分かっていないジェイドの様子に、ランツは頭を押さえた。

「あー……この薬は……」

 ランツがジェイドに近付き、そっと耳打ちする。部屋の中には二人しか居ないのだが、何となく大きな声でいうのは憚られたので。

「び……媚薬?そ、そうか、それは使えないな……」

 小瓶が何の薬か知ったジェイドは、かぁっと顔を赤めた。

 ジェイドは小瓶を机にそっと入れて鍵をかけた。誤って飲んでしまったら大変なことになってしまう。

「物に頼らないで、頑張れ……」

「ああ、そうする……」

 ジェイドは力なく項垂れた。


「それから、今から机の中を整理するからな!」

「え、何で」

「当たり前だ。これ以上変な物が出てきたら、たまったものじゃない!!」

 それからランツにより机の中が整理され、出てきた怪しげなアイテムは全て没収されたのだった。

 もちろん媚薬も没収された。

 

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