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【リレー小説】高校生青春!現実恋愛の話を9人で書いてみた  作者: キハ アホリアSS 時空まほろ 夕日色の鳥 一布 西川新 しいなここみ 風音紫杏
8/10

8……やらかした 快斗視点 (風音紫杏)

 「俺のカノジョになってくれっ!」

 

 そんな俺の声だけが、道場に響く。

 胸の中でくすぶっていた想いを吐露した快感も束の間。道場に静寂が戻るころには、俺はすっかり正気に戻っていた。

 

 皆が、啞然とした表情で、俺と笹木を見ている。

 その瞳に映るものは、好奇心・呆れ・驚愕と、さまざまだ。

 

 笹木と顔を合わせることが恐ろしいからか、俺はうろうろと視線を彷徨わせて――ふと、副部長である吉川先輩と、視線がかち合った。

 

 きっといつものように、呆れた目を向けられているのだろう。

 そうとばかり思っていた俺は、先輩の表情を認識した瞬間――息が止まったかのような錯覚を覚えた。

 

 いつも優しげな微笑みを湛えていたその顔は、悲しげかつ悔しげに歪んでいて。

 柔らかな弧を描いている筈の唇は、ぎゅっと結ばれていて。

 その、長い睫毛まつげには水滴が溜まっていて。

 

 俺がその状況を飲み込むよりも早く、先輩は――

 

 「っつ!?」

 

 ガタンと大きな音を立てて、先輩は道場を飛び出した。

 

 一瞬、追いかけるべきかと躊躇したが、咄嗟の判断でそれを止める。

 俺が先輩だったら、絶対に追いかけられたくなんかねえ。

 

 今まで気づくこともなかったし、気づこうともしなかった。

 笹木に出会わなければ、きっといつになっても気づかないままだったけれど。

 

 先輩はきっと……俺のことが、好きだ。

 

 恐らく、これは俺の自惚れではない。

 

 何故って?

 

 吉川先輩は、鏡に映る俺と全く同じ目をしていたんだ。

 恋する者の目。

 これは、男だろうが女だろうが、変わらない。

  

 だが、気づくのがあまりにも遅すぎた。

 

 もっと早くに感づけていれば、もっと上手く立ち回れたのかも知れないと、思う。

 

 ――否。

 そもそもこの告白だって、するつもりなんか少しもなかったんだ。

 もっと笹木と話せるようになって、もっと笹木のことを知って、周りの奴らのこともちゃんと配慮して……。

 

 だから俺は、ダメなんだ。

 いっつも自分のことしか考えられなくて。

 だから皆の反感を買って。

 好きな奴への告白だって――

 

 「……悪い」

 

 笹木の顔を見ようとしないまま、俺はそれだけ呟いて、道場を飛び出した。

 防具を装着したまま、がむしゃらに運動場をはしって、はしって、はしる。

 

 人目につきにくい校舎裏へたどり着いた俺は、防具をやや乱暴に脱ぎ捨て、ズルズルとその場に座り込んだ。

 

 暑苦しい防具を着用したまま全力疾走したため、息は切れ、汗は全身から、滝のように滴り落ちる。

 少ししょっぱい水滴を腕で拭いつつ、俺はぼうっと空を見上げた。

 

 雲一つない、青色をした空。

 

 俺にはそれが、まっすぐに剣道に向き合おうとする笹木と重なって見える。

 ――笹木は、俺とは違う。

 

 いや、笹木だけじゃない。

 吉川先輩も、部長……嶋川も、他の皆も。

 俺なんかよりもずっと、真摯に剣道と向き合っている。

 

 ……馬鹿らしい、な。

 

 ふっと自嘲が浮かんだ、そのとき。

 

 「かい、と……?」

 

 俺と同じように、防具を脱いだ吉川先輩が、居た。

 弱々しい声で俺の名を呼ぶ先輩の目は真っ赤に腫れている。

 

 「副部長……」

 

 何故、副部長がここにいるのか。俺は、どうすればいいのか。

 何も分からず、それでも声を絞り出す。

 そんな俺を見かねてか、吉川先輩は、こんなことを口にした。

 

 「なんか……ごめんね。意味わかんないよね、急に逃げたりして」

 

 わたし自身も、よくわかってないんだよね、実は。

 涙をこらえるようにして、発せられた言葉は……噓をついているようにしか、見えなかった。

 

 何故、本当のことを言ってくれないのか。

 

 それを言葉にすることなく、先輩の目を見つめることで問う。

 

 どれだけ気持ちを察することができても、実際に言葉にしてくれなければ、俺も答えようがない。

 笹木とキッチリ向き合いたいからこそ、吉川先輩とは、きちんと話し合いたいんだ、俺は。

 

 そんな俺の思いを感じ取ったのか、吉川先輩は、泣き笑いを浮かべて、言葉を紡ぐ。

 

 「もう、察してるみたいだけど……わたしは、日下部。あなたのことが好きだよ」

 

 ……ビンゴ。

 その気持ちが嬉しくないわけではないけれど、自分の恋心に噓をつくことは、俺には無理だ。

 

 そう思って、丁重に断ろうとしたところ、続けて発せられた吉川先輩の言葉で、それを遮られた。

 

 「ああ、さっきの件がなくても、わたしの気持ちが実らないことくらい、わかってたわよ?」

 

 わたし、そこまで鈍感じゃないからね?

 そう、付け足した先輩は。

 でも、と、さらに言葉を続けた。

 

 「……どうしても、諦めきれないんだ」

 

 ごめんね。

 そう続けた、吉川先輩。

 大きな瞳から一滴、涙が零れ落ちる。

 

 俺はかける言葉を見つけることができず、ぐっと拳を握りしめた。

 そんな俺を見かねてか、はたまた自身の未練を断ち切るためか。

 いつも通りの呆れたような笑みを浮かべ、俺に向かって、声を飛ばす。

 

 「行きなさい、快斗。あんな告白しておいて逃げるだなんて、許さないから!」

 

 その言葉に背中を押されて。

 俺は、弾かれたように駆け出した。

 先ほど脱ぎ捨てた防具を小脇に抱えて、再び、校庭へと躍り出る。

 

 校舎裏から出た瞬間、

 

 「先輩!日下部先輩!」

 

 よく通る、溌溂はつらつとした声……笹木の声が、聞こえた。

 

 「ささ、き」

 

 伝えたいことは、沢山ある。

 それなのに、声が上手く出てこない。

 そんな俺に向かって、防具を身につけたままの笹木が駆け寄ってくる。

 俺にぶつかる手前で止まった彼女は、防具の下から俺をまっすぐに見据えて、言葉を口にする。

 

 「先輩、さっきはびっくりしましたよ?いきなり、その……」

 

 途中で言い淀む笹木。

 そんな姿も、とても可愛い。

 初心な彼女のことだ。

 きっと、頬を紅く染めているに違いない。

 なんて思ってしまうのは、俺がアホだからだろうか。

 

 でも、今の俺には、そんなことを思う資格はない。

 

 だから、意を決して伝えようと思う。

 

 否、莉衣菜に、伝えたいんだ。

 俺が剣道部を休み、また始めた理由を――

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