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【リレー小説】高校生青春!現実恋愛の話を9人で書いてみた  作者: キハ アホリアSS 時空まほろ 夕日色の鳥 一布 西川新 しいなここみ 風音紫杏
7/10

7迷いを吹っ切れ! 莉衣菜視点 (しいなここみ)


「笹木……、貴様……。迷いがあるな?」


 道場で練習をしていたら、突然横から快斗先輩にそう言われ、あたしはドキッとした。


「ま……、迷い……ですか?」


「ああ。剣筋を見ればわかる。貴様の振る剣はまるでバナナだ」


「バ……、バナナ」


「ふにゃふにゃしている! 手刀でたやすく折れそうなふにゃさだ! 何を迷っている?」


「ご……、ごめんなさい」

 それだけ言って、あたしは黙り込んだ。


 30秒間ぐらいの気まずい沈黙があった。


「あのな……」

 快斗先輩がようやく喋り出してくれた。

「お前は確かに公式戦のレギュラーから漏れた……。

 だが、まだ1年だろう。まだ来年も、再来年もある。

 そこを目指せばいいことだ。何を迷うことがあるのだ?」


「え……と……」

 話がそっちに行ってくれたのに乗じて、あたしは快斗先輩に急遽相談を持ちかけることにした。いっぱい話が出来る方向へ持って行きたかったのが本音だ。

「先輩っ! あたしっ……! どうすればレギュラーになれますか!?」


「いい目だ……」

 快斗先輩がフッと笑う。

「頼もしいぞ、笹木。

 お前がレギュラーになれるほどの実力をつけてくれれば、我が校は話題の的間違いなしだ。

『アイドルみたいに可愛い女の子剣士』として、剣道雑誌に載れ!」


「あっ……、アイドル!?」


「そうだ。貴様は可愛い」

 快斗先輩が照れた様子ゼロで言った。あたしの真っ赤になってるだろう顔をまっすぐ見つめながら、

「少なくとも俺の目にはアイドル級に可愛く見えている。

 俺はミーハーではないが、アイドルは大好きなんだ。

 笹木よ、高校剣道に輝くアイドルとなれ!」


「いっ……、嫌ですっ!」


「……なんだと?」


 あたしはみんなのアイドルじゃなくて……あたしがなりたいのは……快斗先輩だけの……

 そう思ったけど、それは口に出せず、誤魔化すように、でも本心でもあることを、言った。


「あたしは実力でレギュラーを掴んで、実力で全国にその名を轟かせたいんです!」


 めぇーん!

 こてっ!

 他の人達の発する声や竹刀の音が急に大きく、でも遠くなったような気がした。

 あたしと快斗先輩は無言で向き合ったまま、時間が停まったみたいに、まるで二人だけの世界に入り込んだように、しばらくお互いの真剣な目を見つめ合っていた。


「よくぞ……言った」

 快斗先輩が再び沈黙を破ってくれた。ああ……今度はずっと見つめ合っていたかったのに……。

「笹木ッ! 貴様の本気、確かにこの俺が受け取った!」


「先輩……!」


「褒美にこの俺が直々に稽古をつけてやろう」


「ほ」

 あたしは嬉しくて飛び上がりそうだった。

「本当ですかっ!?」





 防具を着けて、あたしは道場の隅のほうで、快斗先輩と向き合った。

 見てほしい技がある、とあたしが言ったら、実戦をして見せろと快斗先輩が言い、こうなったのだ。


「フフ……。いつでもいいぞ」

 快斗先輩が面の奥で楽しそうに笑う。

「見せてみろ。貴様の編み出したという、本気のその技を」


「行きますっ!」

 あたしは竹刀を構え、唇をぎゅっと噛む。

「めぇーーーんっ!」


 先輩の胸に飛び込むつもりで、前へ駆けた。

 大好きな気持ちを素直にぶつけるつもりで、突っ込んだ。

 先輩は引かない。あたしの隙だらけの胴に本気の一撃を打ち込みに来てくれた。

 先輩の攻撃のほうが、速い。

 当たる。胴を、取られる!


 ありがとう、先輩。あたしを受け入れてくれて。

 ありがとう、先輩。でも、あたしの得意技がフェイントだってこと、ちゃんとわかっていてくれてる?


 すぐ目の前の壁をスレスレでかすめるように、あたしの竹刀は先輩の面をかすめ、下に落ちる。


 コピーした。快斗先輩のあの、壁に近く立って、小さい動きで竹刀を振り下ろす、神楽の動き。

 あれを自分のフェイントに応用し、人知れず練習を重ねていたのだ。

 実戦で使うのは初めてどころか、他人に見せるのがこれが初めて。


 あたしの胴を打ちに来た快斗先輩の竹刀よりも、小さい動きのあたしのほうがさらに速かった。振り下ろした動きでそのまま快斗先輩の竹刀を弾き飛ばし、返す太刀で逆に先輩の胴を──



 パシイッ!


「胴っ!」



 決まったのは快斗先輩の胴のほうだった。



 あたしの竹刀は動きが小さいぶん、力が乗っていなかったのだ。

 くるくると飛んで行くあたしの竹刀。


 ああ……。この人は、本当に強い……。



「凄いじゃないか、笹木!」


「へ……?」



 次の瞬間、あたしは快斗先輩に思いっきり、抱き締められていた。



「俺のあの動きを真似したんだな? しかも自分のフェイントに応用するとは! 凄いぞっ、笹木!」


「ひぇ……、ひぇんぱい!」


「好きだっ! 笹木っ!」


「は……?」

 なんか……空耳だろうか。なんか、聞こえたような……。

「な、なんて言いました?」


「好きなんだっ! ちょっと前からお前のことが大好きだったっ!」

 快斗先輩はみんなに聞こえるほどはっきりした声で言った。

「俺のカノジョになってくれっ!」






 えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?





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