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【リレー小説】高校生青春!現実恋愛の話を9人で書いてみた  作者: キハ アホリアSS 時空まほろ 夕日色の鳥 一布 西川新 しいなここみ 風音紫杏
6/10

6走り出す 莉衣菜視点 (西川新)


 熱が更に顔に集中する感覚がする。私は足を止めて踵を返す。吉川先輩から、逃げるように背を向けた。


 心音は、先程よりもっともっと大きくなっていた。血が全身に巡る感覚がする。胸が痛い。苦しい。こんな感覚、今まで経験したことない。


 吉川先輩が快斗先輩を見つめていた瞳の色が、鮮明に脳裏に蘇る。怖い、怖い怖い。


ーーー私は、このまま快斗先輩を吉川先輩に取られてしまうのではないか。


 そんなの嫌だ。怖い。


 先輩が、遥か遠くに見える。先輩の背中が、やけに大きく見える。届かないーーー私の手は、先輩の背中まで届かない。さっきまであんなに近かったはずなのにーーーもう先輩は遠い遥か彼方。


 その後のことは、全く覚えていない。


 どうやって帰ってきたのかも、部活中何をしていたかも、覚えていない。覚えているのは、あの胸の痛みと、吉川先輩の恋する瞳の色だけ。





「莉衣菜さん?」

「…………え??」


 「あ、ごめんごめん」と私は、目の前にいる唯華に向かって謝った。


「大丈夫? 今日、心なしかぼーっとしてるけど」

「えっ?! 大丈夫ダイジョーブ! で…、なんの話だっけ?」


 唯華は、心ここに在らずな私を見かねて、ため息をついた。


 朝ーーー登校中。


 唯華と私は、珍しくふたりで登校していた。普段は、別々に登校しているのだが、今日はたまたま時間が合って一緒に行くことにした。こうやって二人で登校するのも楽しいが、今日は、どうしても話に集中ができない。


「なんだか様子が変だよ? 昨日から」

「そ、そう?」

「そうだよ〜。何があったの?」


 心配そうな顔でこちらを覗き込む唯華。心当たりは確かにある。快斗先輩を見つめる吉川先輩のことが、昨日からどうしても頭から離れてくれない。あの恋する先輩の横顔が、やけに美しくて、忘れようにも忘れられなかった。吉川先輩のあの顔を思い出すたびに、胸がズキズキと痛み出して、どうしようもなかった。


「ごめん、間違ってたら悪いんだけど」

「…………ん?」


 「もしかして莉衣菜さんって快斗くんのことが好きなの?」と。唯華は遠慮がちにそう言った。私はーーー言葉を失う。笑って誤魔化すことも、真っ向に否定することも、正直に言うこともできなかった。ただ、黙り込む。


 唯華と私の間に、生まれる沈黙。


 気まずい。何か言わないと。そうやって焦れば焦るほど、頭が白くなってくる。何にも声が出てこない。


「………莉衣菜さん?」

「…そ、そういう唯華は、快斗先輩のこと、どう思ってるのよ?」


 なんとか紡ぎ出した言葉は、まさかのものだった。今更、やらかしたと思っても時すでに遅しーーー唯華は目を伏せ気味に、小さくぽつりと言葉をつぶやいた。


「別に……、私はどうも思ってないよ」


 言葉の割には暗い顔つきの唯華。どうかしたのかな?と思って様子を伺っていると、唯華の顔つきは、すぐにいつもの明るいものに戻った。


「莉衣菜さん、ごまかしたけど、やっぱり快斗くんのこと好きだよね?」


 確信を持ったとでも言わんばかりに、ニヤニヤする唯華。さっきまでの暗い顔はなんだったんだよ〜、と思わざるおえないほどのギャップだ。あれは私の見間違いだったのだろうか?

 唯華にそう問われて、私は、何も言わずにただ頷いた。もう親友を前に、この感情を誤魔化せそうではない。


「……へぇ、そうなんだ」


 「やっぱりね」と、唯華は言った。その言い方に少し違和感を覚える。唯華の顔がまた暗くてーーーなんだか寂しげである。なんでそんな顔するのか、何も分かんなくて、何も言えなかった。ただ、唯華は優しい口調で


「快斗くん、絶対に莉衣菜さんのこと好きだから!頑張ってね!!」


と言った。


 優しい口調だけど、やっぱり顔は、寂しげで。あの時の吉川先輩とおんなじような色をしていたーーー唯華の瞳は。切なくて悲しくて寂しくて、でも愛おしさの込められた色。


ーーーあぁ、と思った。


 唯華も、吉川先輩と、私と、“おんなじ”なのだと思った。


 “おんなじ”だけどーーー違った。


 唯華はもうそれを吹っ切っていた。唯華はもう、快斗先輩を遠くから見ようとしていた。近付かず、遠くから見守ろうとしていた。唯華が快斗先輩を見る瞳は、悲しげで寂しげで、見守るようだった。


 私の心臓がやけにうるさい。快斗先輩のことが、頭から離れない。私の底から、湧いてくる熱。ここにいてもたってもいられないような感覚に陥った。


「莉衣菜、行かないの?」

「………え?」


 親友は私を見て微笑む。どうやら、親友は何もかもお見通しらしい。


「まだ朝練やってるはずでしょ?」


 そうやって唯華は呟いた。


 頼もしい親友に見送られ、私は体育館へと、快斗先輩の元へと、風を切ってなりふり構わず、一直線に向かっていった。


 私はーーーやはり快斗先輩のことがどうしようもなく、好きである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 感情の動きや表情、体中の変化など色んな角度から描写されていて読んでいて、角度がまた違って見えてとても良かったです。
2022/08/16 23:05 退会済み
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