3私の日常 莉衣菜視点 (時空まほろ)
今日の部活は、一年生は筋トレ中心だ。
剣道部だって、いつも素振りしている訳じゃあない。
勿論、体幹を鍛えるトレーニングだって必須だ。
昨日の部活の試合は、一年生の現レベルを見極めるそんな腕試しの試合でもあったのだった。
今年、莉衣菜を含めて剣道部に入部したのは六名。
女子は莉衣菜だけであるのは、もう述べてある通りだ。
大体が中学時代からの続行である。
という莉衣菜自身は、これも述べてある通り中学時代は何の因果か美術部。
剣道自体は小学校の低学年の頃に親に無理やり剣道をやらされていたから、である。
追い込みをしている先輩たちを見ながら、筋トレを続ける一年生。
皆、真面目にトレーニングを黙々としている。
まだお互いにクラスが違ったりする所為か、なかなか距離感がつかめていない為、黙々なのである。
「……」
私は、腹筋をしながらそんな同級生たちとの昨日の試合を思い出していた。
あの男子は、手強い。
あの男子は何だか手癖がある。
ああ、あの男子ではまどろっこしいなー。
昨日、一応名前とクラスは名乗ったが、ちゃんとした交流は必要ではないか。
そんな事を思っていた時だった。
「遅れてすみませんー」
道場にそんな声が響く。
気の抜けた様な声は、真面目に部活動をしていた剣道部には似つかわしくないもの。
「快斗先輩……」
私は目を見張る。
「また快斗遅刻かよ!」
二年生の先輩が快斗先輩に茶化す様に言う。
「……気をつけるように、快斗」
嶋川部長の言葉に、頭を下げて快斗先輩は着替えるために更衣室に向かう。
少し、くたびれた様な背中が、何故だか無性に気になった。
「あれで、強いのかよ」
「遅刻ばっかして」
ぶつぶつと、筋トレの手を止めている同級生を私は睨んだ。
「あんた達ももちゃんと筋トレしなよ」
私がキレると相当怖い、と言ったのは誰だったか。
「「は、はい……!」」
同級生たちはムッとするどころか震えあがっていたのだった。
それでも尚、私は腹立ちが収まらない。
快斗先輩は、朝練にもちゃんと参加していたのだ。
「莉衣菜」
静かな声が頭上から降ってきた。
吉川先輩が立っていた。
「ランニング、行っておいで」
「え?」
「行って、頭をちょっと冷やしてきなさい。今の莉衣菜は剣道に向き合えないよ」
「はい……」
渋々と、私は立ち上がり吉川先輩に頭を下げてから道場を出た。
放課後の校庭は、陸上部・サッカー部などで賑わっている。
そんな校庭の周りを、私は足取り重く走る。
何だろう、胸がすごくもやもやする……。
この、何とも言えない気持ち。
一体、何にぶつければいいのだろう。
苦しくなってきて、私は立ち止まる。
はあー、と大きくため息をついた。
「笹木」
「快斗せ、……日下部先輩!」
「大丈夫か? なかなか戻って来ないから、呼びに来た」