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【リレー小説】高校生青春!現実恋愛の話を9人で書いてみた  作者: キハ アホリアSS 時空まほろ 夕日色の鳥 一布 西川新 しいなここみ 風音紫杏
2/10

2私の日常 莉衣菜視点 (アホリアSS)

 今朝はいつもよりもだいぶ早く学校に着いた。

お父さんが出張に行くため、朝ごはんが早くなったのだ。

別に私まで早く食べる必要はなかったけど、朝ごはんが出来上がってたからね。


 始業時間より早いので、校門の周りの生徒は少ない。

このまま教室で予習をしててもいいんだけど、なんとなく私は体育館にきていた。


 剣道部の朝連は強制参加ではないため、やる人はあまりいない。

朝連で疲れて授業に差しつかえるといけないし、汗の臭いも気になる。

手洗いが足りずにコテの臭いが残ってて、クラスメイトに『手がくさい』と言われた人もいるとか。

大会前とかでなければ、やるとしても制服のままで軽く素振りをするぐらいだろう。


 体育館に灯りがついている。だれか朝連をやってるのかな?

でも掛け声が聞こえず静かだ。素振りの時でも、けっこう声を出すと思うんだけど。

他の部活でももっと音がするよね。

入口の扉が開いているので、中をそっと覗いてみた。


 中では制服のままで竹刀を持った男の人が一人いる。

あれは……知らない人だ。ってことは、あれがもしかして日下部快斗(くさかべかいと)先輩?

壁に向かって竹刀を構えている。1メートルも壁から離れていない。

竹刀の先が壁につきそうなんだけど?

あれはいったい何をしているのか。


 竹刀を上段に構えた。

あ、壁に向かって振り下ろした。


 ……びゅん……


 壁スレスレで面打ち?


 ……びゅん……


 横に振って、胴打ち。……いや違う。斬るような動作だ。

あれは剣道じゃない?


 快斗先輩は壁から一歩離れると、竹刀を左腰に……

あれ? 真剣を納刀するみたいな動作をしてる。

居合でもやってるんだっけ?


 快斗先輩はそのまま部室の方に歩いて行った。

竹刀を戻しにいくのだろう。

私はそっと、体育館を離れた。


 あの動きはいったい何だったのだろう。

快斗先輩って、ずっと剣道部を休んでいて今日から復帰するんだっけ。

普通の剣道じゃなくて、別の流派をやってたとかかな。


莉衣菜(りいな)さん。おはよう」


 考え事をしていた私に声をかけてきたのは、1コ上の2年生で私の親友、河原唯華(かわはらゆいか)だ。


「おはよう。唯華」


 先輩だけど仲良しだから呼び捨て。


「ねえ、莉衣菜さん。お昼休みに時間取れる? またデッサンモデルをお願いしたいの」


 唯華には時々絵のモデルを頼まれる。

モデルと言っても写実的なものではなく、おおまかなデッサンをするだけだ。


「うん、特に用事もないし。大丈夫だよ」


 以前も私は剣を持つポーズを何度かやらされた。

竹刀とファンタジーの剣はだいぶ違うと思うけど。

そういえば、コンクールの題材で迷っているとか言ってたっけ。


「今回はもうひとり呼んでるの。剣道部の日下部くん。ふたりで並んでポーズとってもらうからよろしくー」


「……え?……」


 その時、予鈴のチェイムが鳴った。

私は急いで教室に向かったので詳しくは聞けなかった。


 快斗先輩と2人でモデル?

剣を持って戦っているシーンかな。

それとも、ピンチの女性を剣を持ったヒーローがかばうシーン?

あ、悪の魔王に女剣士が斬りかかるとかかな。


 快斗先輩って、唯華とは仲いいのかな?


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 そんなこんなでお昼休み。

少し急いでお弁当をたべて、やってきました美術室。

入口には、ちょうど快斗先輩が入ろうとしていた。


「こんにちは、日下部先輩ですよね。私、一年で剣道部の笹木莉衣菜(ささきりいな)です。先輩も河原先輩に呼ばれたんですね」


「笹木……元気で技がうまい一年生が入ったってきいていた。河原が相手役を呼ぶっていってたが、君のことだな。戦闘シーンでもやらせるのな」


「たぶん、私もそう思います」


 私は快斗先輩について美術室に入った。

中で唯華が待っていた。


「日下部くん、莉衣菜さん。時間をとってもらってごめんなさい。この埋め合わせはしますから」


「俺はかまわない。河原にはいろいろ世話になってるからな」


「うん。私も大丈夫だよ。で、やっぱり剣を持って戦闘シーンとかやればいいのかな?」


 私は美術室を見回した。

ホウキとか、剣の代わりになる長い物体はなさそうだけど?


 唯華さんは小首をかしげて言った。


「いえ、今日は違います。おふたりにカベドンをお願いしようかと」


「「……?」」


 カベドンってなんだろう? 快斗先輩もわからないようだ。


「河原。アパートとかで、隣室に抗議しているような感じで壁を叩けばいいのか?」


 あ、そういう意味? でもふたりでやるんだよね。


「実際にやってみた方がわかりやすいですね。莉衣菜さん、そこの壁ぎわに立ってみて」


「うん。いいよ。何するの?」


 私が指示された位置に立つと、唯華さんがトコトコと近寄ってきた。


 どんっ!


 唯華さんが右手を伸ばして、私の頭のすぐ横の壁に押し付けた。

ちょっと。唯華さんの顔が近い!


「え? ちょっと、唯華さん。近い、近いってっ」


 唯華さんはスッと離れた。びっくりしたー。


「これが『壁ドン』です。男の子が女の子にオハナシするときのポーズですね」


「おいっ」


「無理、無理です!」


 今のを快斗先輩にやらせるって?

いやそれは待ってほしい。今は無理。まだ無理。

っていうか、まさかその絵をコンクールに出さないよね?


「なあ、河原。そういうのはカップルになっている子達に頼みなよ。俺が相手だと笹木にも失礼だろう」


 あ、いえ。どちらかというと、私の方が快斗先輩に失礼かも。


「あははは……。恥ずかしながら、やってくれそうなカップルの友達がいないんですよ」」


「だったら、そこのデッサン人形を使えばいい。今のポーズならできるんじゃないか?」


 快斗先輩が指した机に、木の人形があった。

いろいろなポーズがつけられるやつだ。


「私も試してみたんですけど、その人形だといまいちなんですよ。特に女性の方のポーズはぜんぜんだめです」


「じゃあ、こうするか。一人ずつでその『壁ドン』のポーズをして、スケッチすればいい。後で絵を合わせればいいだろう。昼休みもあまり残ってないぞ。早く終わらせよう」


 快斗先輩は、さっき私が立っていたところに右手を当てた。

その前に人がいる感じで、何かささやいているような表情になった。

ちょっとかっこいいかも。


「それしかないですね。ちょっと待ってください」


 唯華さんは、スケッチブックにさらさらと描き始めた。

輪郭だけであたりをつけているようだ。

そこに目の位置の服のシワの位置などを追加している。


「できました。じゃあ、今度は莉衣菜さんに交代。さっき私が壁ドンしたときみたいな表情でいいよ」


「う、うん。やってみる」


 私は壁際に立った。無意識にだけど、両手が胸前に来ていた。

目の前に唯華さんが立っているのをイメージ……するつもりが別の顔が思い浮かぶ。

ちょっと私の顔が赤くなったかも。


 しばらくそうしていると、「できましたー」という唯華さんの声がした。

あー……恥ずかしかったよ。


「ふたりとも、無理言ってすみません。ありがとうございます」


 午後の授業が迫っているので、私たちはそそくさと美術室を後にした。


 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □


 放課後、剣道部に稽古のため体育館に来ていた。

剣道着に着替えて部室から出る。


「笹木だったか。さっきは大変だったな」


 あ、快斗先輩だ。


「そうですね。ちょっとびっくりしました。快斗先輩、今日から復帰ですね。よろしくお願いします。あ、快斗先輩って今日は朝練やってましたよね。変わった振り方をしていませんでしたか?」


「ああ、見てたのか。こういう感じだな」


 快斗先輩は竹刀を上段に構えた。

振りながら竹刀を引き、小さい動きで振り下ろした。


「これは神社で舞を奉納する神楽(かぐら)の動きだよ。他の踊り手に当てないように振るんだ」


「あ、そうだったんですね。先輩、神楽もやるんですか?」


「いや、テレビで見たのを真似しただけだ。剣道に応用できるかと試したが、使えないな。試合でこの動きで当ててもポイントはつかないだろう。むしろ変なクセがつきそうだ」


「そうなんですか。いろいろ研究しているんですね」


 もしかして、私のフェイント技には応用できるかな?


 そのとき、嶋川部長の声が体育館に響いた。


「集合ーー」


 さあ、練習開始だ。今日もかんばっていこー。



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― 新着の感想 ―
[良い点] アオハル、真っ盛りな作品ですね。 全体的に元気に溢れてますね。 そしてその後のバトンを受け継いだアホリアSS様の 落ち着いた雰囲気の文章も良いです。 上手い具合にリレー小説になってると思い…
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