1私の日常 莉衣菜視点 (キハ)
「ねえあの人ってカッコよくない?」
「キャー、メッチャイケメンやあ!」
「話しかけてみよっかな〜」
高校生。
女子特有の黄色い声が廊下で行き渡っている。
ふ、また噂話に花を咲かせて……ま悪くないけど。
廊下ですれ違う生徒たち。
そのなかの女子はほぼそんな話ばかりだ。
そんな恋バナをするだけで青春だなと感じる。
さすが青春真っ盛りの高校生らしいのかな。
時折聞こえる「カッコいい」だの「イケメン」だの声を聞いて思わず私は楽しくなってしまう。
あ、私たちついに青春だな、って。
夢のThe青春!って。
「ヤーぁぁぁぁぁ!」
気迫を滲ませた声。大きな声が体育館に響き渡る。
自分の声が相手にガンガン届いたことを確認すると私は右足を思い切り前に出す。
と来たらもう自然と竹刀を振り上げて相手の面真上を狙う!
相手は竹刀を頭の上に持ってきて避けようとする。
……と見せかけて。
「えい!」
サッと竹刀を引き上げて。
バシッ
音と共に相手のコテに竹刀を命中させる。
お、これは決まった!うわ気持ちいー!
審判を見ると勝利の印の赤い旗が掲げられていた。
これで三本目決まった!勝ったぜ☆
「勝負あり!莉衣菜勝者!」
三年の吉川先輩が笑みを返してくれる。
「今日も上手いわね。莉衣菜まだ一年生でしょ?なのにそんだけ上手いって……やっぱり剣道経験者だったりする?」
「いいえ。私は小学校低学年の頃やってましたけどそこは経験に含まれますかねー」
「充分含まれるわ」
「ですけどもう剣道のことなんて忘れてる状態ですよー?」
「体が覚えていてくれているのよ、きっと」
優しく私と話してくれる先輩。
しかも吉川先輩は美人で剣道部の唯一の女子だったりする。
今年は私が入っちゃったけどそれまでは吉川先輩が唯一の女子。それなのに男顔負けの剣道の達人でメッチャカッコいい。
「あ。それより、えい!じゃなくてコテ、ね」
「あー別にいーじゃないですか!言葉に出ちゃったんですからー」
「まあ勝者に変わりはないけれど」
本当に吉川先輩と話していると楽しい。剣道部で女子が吉川先輩しかいないため話しやすいのも事実だけど。
と、そのとき部長が「終了ー!」と呼びかけた。
「はいはい、今日は終わりだぞー、集まれッ!」
部長嶋川先輩の声でみんなは一斉に整列し、正座をする。
面を外して手ぬぐいで汗を拭うと私は一息ついた。
「黙想!」
という声と共に私達は目を閉じる。そして今日のことを反省する。
なんだか今日は良い調子だった。一年生部員の半分の人数には試合に勝てた。
やっぱフェイント技は面白い。これさえあればちょっとは勝機が掴める感じがする。
後は筋トレ系をしっかりしないとなー。
──とか考えているうちに「やめッ!」という声がかかった。
一斉に瞼を開け、それから嶋川部長の話になる。
そして吉川先輩……じゃない、吉川副部長の話が終わると礼をして解散かと思った時。
「そういえば来週から休んでいた部員、二年生の日下部快斗が復帰します。日下部は試合で優勝させた奇跡の部員ですので温かく迎えてあげてください」
「これで剣道部を終わる。礼ッ!」
一斉に頭を下げる。
上げた後は解散。今日もハードだったけど楽しかった!
日下部快斗……か。確か剣道部に一人だけ来てない部員って聞いたことある気がする。学校に来ていたけど部活に来てないって。
何で来てなかったのか不思議だけど来週から復帰するのかーどんな人だろう。
それに試合を優勝したって結構なツワモノ……?
「莉衣菜ーお疲れ様」
更衣室から出ると吉川先輩が笑顔で手を振ってくれた。
「先輩もお疲れさまです」
「ありがとうー。良い週末をー!」
「先輩もです!さようならー」
手を振り返して踵を返そうとした時。
「……あ!来週快斗に会ったらよろしくねー!あいつ実力あるくせに半年以上来てないから!」
「え!?そうなんですか?分かりました!」
先輩に心配させないように大きな声で返事をしておく。
へーその日下部先輩って半年も来てないんだ……。なんで?
剣道に実力があって……それになのに?
ますます会ってみたい。そして挨拶をして見たい。
そんなこんなを考えていたら美術室の前を誰かがウロウロしてる。
迷ってるのかな?なら声掛けしてみよう。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「は、はい!?だ、大丈夫です……って莉衣菜さん」
黒縁メガネに三編み。私の親友の河原唯華だった。
唯華は中学生の頃私が美術部を入っていたからそこで知り合った先輩。
先輩なんだけどアニメとか漫画の話をするにつれて親しくなってフツーに呼び捨てで呼び合ってる。
「今年のコンクールの絵の題材が思いつかなくて考えていたんです」
「おー頑張れ!私唯華の絵好きだから期待してるよー!」
「あ、ありがとう。あ、あの部活お疲れさま」
「今日も汗を流してきたよー。ねえ一緒に帰る?」
こくこくと唯華はうなずいた。
可愛いかな少し顔を赤に染めてうなずいている。
恥ずかしがり屋なんだから!
「じゃあ一緒に帰ろ!ついでに題材もアドバイスぐらいなら考えてあげるね!」
「……あ、ありがとう!じゃあ帰りましょう!」
少しどもりながらも唯華は嬉しそうに隣に並ぶ。
大切な親友。楽しい部活。わお青春だー!
あと私は恋愛したいなー!
それと来週快斗っていう人がどんな人か気になる!
高校生活って楽しー!