名も無き甘い物語
元話
「名も無き恋の物語【短編集】」より
7、9、6話目の順
【無骨な将軍は妻から甘えられたい】
(元話/無骨な将軍と皇帝の元側妃)
使用人に教えてもらったチョコレートのアルコールを、就寝前の妻に勧めた。
甘い匂いのそれを、愛しの妻がこくりと飲み干す。
とろんとなった妻はにこにこしながら寄り添ってきた。
「んふふ、だんなさま。わたくし、とーっても幸せですわ」
すりすりしながら夫にしなだれかかる妻を、夫は膝に乗せたまま口付ける。
以前妻がアルコール入りの紅茶を飲んだ時、くにゃくにゃのふにゃふにゃになった妻に、夫は我慢していた理性を弾き飛ばされた。
以来、時折妻とアルコールを嗜む事にしている。
日頃恥ずかしがって一歩引いた態度の妻も、このときばかりは夫に甘えてくる。
本当ならアルコールの力など無くても甘えて欲しいが中々難しいらしい。
「君は普段からもっと甘えてくれていいのになぁ……」
ぽつりと漏らされた夫の呟きは、妻に聞こえたのか聞こえなかったのか。
後日、いつもは夫が膝に乗せる所を、妻自らちょこんと夫の膝に乗る姿に、再び理性を弾き飛ばした夫がいたとかいなかったとか。
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【大好きな君が、いつかは】
(元話/大好きな貴方、婚約を解消しましょう)
ずっと好きだった女性がいた。
殿下の側近として隣国に行った際、歓迎の夜会で一目惚れした。
だがその女性には想い人がいて、しかも想い人が彼女の婚約者と知った時には絶望した。
いつだったか、未練がましく彼女に会いに行った事がある。
その時の彼女は頬を染めて婚約者の隣でにこにこしていた。
──婚約者の彼は疎ましそうにはしていたが、時折彼女を見るとその瞳に熱を宿していた。
だから一度は諦めたんだ。
だが彼女と想い人の婚約は解消された。
掻い摘んで聞いた話、彼女の想いは婚約者にとって重荷でしかなかったようだ。
それならばと再び婚約を打診するとあっさり了承された。しかもこちらの国に留学して来るらしい。
そんなわけで今、俺の目の前にはその彼女がいる。婚約者だからどうせなら余っている部屋に住めばいいと説得した結果、戸惑いながらも了承してくれた。
それから俺は毎日彼女に愛を囁いた。
失恋したての彼女は中々元婚約者を忘れられないみたいだけど、最近では少しずつ笑顔を見せてくれるようになった。
「これは?」
今日は年に一度の恋人の日。
互いに感謝を告げようという日である。
だから俺は甘いお菓子を彼女に渡した。
「日頃のお礼。あと願掛けかな」
「願掛け?」
きょとんと見上げる彼女を愛おしく想う。
「君が早く俺を好きになってくれますようにってね」
彼女の額に軽く口付けると、ぽかんとしていた彼女は顔を赤くした。
それからごそごそとして。
「私も……。あなたに……」
それは小さな包みだった。
開けてみると甘いお菓子。
「いつもありがとうございます」
そう言って彼女は頬を染めて笑った。
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【あなたを好きになる】
(元話/好きだと気付いたら知らなかった頃には戻れない)
少しずつ、婚約者と想いを通わせるようになって。
もう少ししたら正式に婚姻を交わす事になる。
あれから未だに私は自分の気持ちを持て余していた。
“好きな人”だった人の事は過去になりつつある。
だけど、それで婚約者の彼を好きになったかと言われたら、それは分からない。
けれど。
私は婚約者の笑顔を見たいのだ。
……だから、慣れない事をした。
侍女に聞いた話、市井の間では愛と感謝を伝える日というのがあるらしく。
その日は甘いお菓子を贈り合うらしい。
しかもそれはちょうど婚約者としての交流の日と同じ日だった。
だから日頃の感謝も込めて、料理長に習って簡単なお菓子を作ってみた。
ちょっと……。
いえ、かなり不格好で少し焦げてしまったそれを箱に詰めてそれなりにラッピングすれば悪くない贈り物に見えるかしら。
笑顔で、食べてくれるかしら。
そう思って差し出してみたのだけれど。
婚約者は呆然として私の手元を見ている。
「これは……。その手……」
彼は贈り物を受け取ってテーブルに置くと私の手を取った。
慣れない作業はいらぬ怪我を招いてしまって。
所々に手当のあとがある。
「俺の為に……?」
婚約者は私の指をなぞりながら躊躇いがちに聞いてきた。
「今日は、市井で……感謝の気持ちを込めてお菓子を贈る日と聞いたので……」
なんとなく気まずくて俯いてしまう。
けれど彼の反応を見たくてちらりと上を向いたら。
嬉しくて仕方ないというような。
堪らえようとして失敗して、少し歪な笑顔。
それが何だかおかしくて、ついぷぷっと笑ってしまった。
「しょうがないだろ。俺の為に一生懸命作ってくれたって思ったら、すごく、嬉しいんだから」
それから彼は我慢をやめて破顔した。
私の作ったお菓子はちょっと苦かったけれど、食べてる間中ずっとにこにこしていた。
だから。
結婚しても、ずっと笑顔でいてくれるように。
私も笑顔で彼の側にいようと思った。




