王太子妃は、夫の甘い攻撃を阻止したい
元話
「婚約者の為に悪役令嬢になることにしましたが、なぜかいつも阻止されます」
「あなたの手を離さない」
「ミリィ、今日は何の日かな?」
夜、夫婦の寝室に来たクロード様がそわそわしながらちらちらと見て来る。
「え?……?」
特に何の記念日か分からない。
何かあったかしら。
ベッドの上でうんうんうなって。
「今日はなんの日?」と言われたのを思い出し、しまった、と思った。
今日は聖アムールの日だ。
年に一度の想いを告げる日。
可愛い盛りの息子の相手をしていてすっかり忘れていた。
チラリと見ると、クロード様の目は座っていた。
ここは潔く謝るしかないわね。
「クロード様」
こほんと向き直り、正座をしてみた。
ベッドに腰掛けたクロード様は、答えが分かっているかのように胡乱げに見てくる。
「申し訳ございません。すっかり忘れていました」
いまさら取り繕っても仕方ないから、がばりと頭を下げた。
するとクロード様はくすくすと笑う。
え~……何だか怖いわ。
「ミリィの事だからそうだと思ったよ」
頭をぽんぽんとされる。
見上げると、優しい顔のクロード様がいる。
「だからね」
ん?
「ほら」
んん?
「今日は別に女性からの告白だけの日じゃ無いでしょ?」
んんん?
「じゃ、ミリィ、いいかな?」
妖しい瞳にぺろりとくちびるを舐めるクロード様の手には、茶色い液体が入った瓶がある。
その蓋を開けると甘い香りが漂ってきた。
「く、クロード様、それを何に使われますの……?」
「ん?聖女アムールの日を忘れたミリィが悪いんだよ?」
答えになってませんが!?
にこにこしながらるんるんとするクロード様がこれから何をしでかすのか。
こういう時の嫌な予感はよく当たるもので。
私はそれを阻止しようとして。
「だめでしゅ!!」
今日もやっぱり失敗して。
「ああああやっぱりミリィ可愛い!大好き!!」
クロード様に美味しくいただかれてしまったのでした。
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王太子は今日も愛しの妻を愛でたい(クロード視点)
「今日はやたらとご機嫌ですね?」
アベルが珍しいという顔をしながら書類を机に置いた。
周到な男だ。昨夜の事は部下から筒抜けだろう。
確かに昨夜は聖アムールの日という事で、ミリィと甘い一夜を過ごした。
ミリィは可愛い。
出産しても体型は変わる事も無く美しさも毎日更新している。
王太子妃として日々研鑽しているミリィの一番の関心は2歳になる息子だ。
息子は大事だ。
ミリィの子だ。可愛くないわけがない。
それに将来早期退陣するには息子の存在は欠かせない。
だが息子は最近母親の関心を集める為か日々「いや!」「これや!」「ちがう!」とまず否定するようになった。
自我の表れと言われればそうかもしれないが。
ミリィが息子に集中するから面白くない。
そしてミリィはやっぱり聖アムールの日を忘れていた。
別にすっごく欲しかったとか、ものすごく欲しかったとは思わないけど、忘れられていたのはとてつもなく悲しかった。
叶うなら俺は息子になりたい。
そしたらミリィの関心を俺に向けられるのに。
いやでもそうしたらミリィといちゃいちゃできない。やはり俺はミリィの夫でいたい。
「無視ですかー?ま、いいですけどね。
はい、これ」
アベルがぽん、と机に包みを置く。
「何だこれは」
赤い包装紙につつまれ、リボンでラッピングしてあるそれは聞くまでもない事は分かっているが、一応聞いてみる。
「さっき王太子妃殿下に頼まれたんだよ。殿下に渡してくれって」
は?
ミリィが?
なんでわざわざ?
「ミリィからの贈り物をなんでアベルから貰わないといけないんだ」
「え、いや、たまたま俺が通りかかったからついでに……て、ちょっとお兄さん怖いんですけど」
俺はその包みを持って執務室を出た。
なんでアベルから貰うのか。
ミリィに小一時間問い詰めたい。
渡す時のもじもじしたシチュエーションがあってこそだろう!?
「ミリィ、いるかな」
王太子妃の執務室の扉を優しくノックする。
「どうぞ」
ミリィの声があって、中にいる侍女が扉を開けた。
つかつかと部屋の中に入ると、侍女を下がらせる。
「クロード様?……どうなさいましたの?」
きょとんとしたミリィは最高に可愛い。
けど俺は怒っているんだ。
「ミリィ、これ」
笑顔で先程アベルから貰った包みをミリィの手のひらに乗せる。
「あ……え、と……」
「ミリィ、アベルを介して、じゃなくて。
ちゃんと僕に手渡ししてくれなきゃ」
ミリィの手を握りながら、指を絡ませる。
「クロード様、お忙しそうでしたので……」
「ミリィが時間作れって言ったら何時間でも作るよ。だから、やり直して?」
「う……」
「ほら、早くしないと上から順にちゅーするからね」
「お待ちくださいクロード様!
……恥ずかしかったのでフェーヴル様を捕まえましたの。申し訳ございません。
あの……クロード様。
いつも、お疲れ様です。甘い物を食べて、癒やしてくださいね」
照れながら、もじもじとするミリィはなんでこんなにも可愛いのだろう。女神か。いや、女神だな。
「ありがとう、ミリィ。ミリィからの贈り物だなんて、嬉しいよ。愛しているよ、ミリィ」
「わたくしも、愛しています……」
結局、俺は上から順にミリィを堪能したのだった。
……今日は噛まなかったな?
「私も、いつまでも噛んではいられませんからね!」
えっへんとしたミリィにやっぱりわきわきしてしまった。
あー、可愛いほんと、大好きな可愛い奥さんだな!




