表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ラジオ大賞参加作品

彼が時計を見る理由

作者: めみあ
掲載日:2021/12/06


 長く続いた夜の森のシーンが朝に変わり、劇場内の観客もポップコーンやドリンクに手を伸ばすためか、服の擦れる音があちらこちらで聞こえる。

  

 隣に座る彼もまた、身じろぎをし、左手首を持ち上げソレを見た。


 ――また時計


 

 半年前から恋人関係の彼は、5歳年上の優しい人で、大人の雰囲気だ。


 そこに惹かれたのは確かだけれど、共通の趣味“映画鑑賞”の話で意気投合した時に、映画の話になると、まくしたてるように語る姿を見て、

 

 可愛い、と彼を好きになった。

  

  

 なのに、ここ何ヶ月かその姿を見ていない。


 鑑賞後も落ち着いた様子で映画の感想を語る。それが悪いわけではないけれど、何か物足りなかった。

 


 ――なんで時計を見るの? 


 大の映画好きの彼が、上映中に何度も時計を見る理由は何? 他にやりたいことがあるの? でも誘ったのは彼の方。 誰かと約束でもしているの?


 ――また、見た



 彼の挙動が気になり

 映画なんて全く頭に入らない。

 


 ――もうダメ



「このあと、なにか予定があるの?」

 

 肘で彼に少し触れ、小声で話しかける。もう我慢ができなかった。


 彼は驚いた顔をして「なんで?」と私の耳元に顔を寄せる。


 いつもの優しい声。


 ――嫌われたわけではないの?



 その時、映画がクライマックスシーンになり、質問は途切れたままだがお互いスクリーンに顔を戻す。


 そしてそのまま、その質問は忘れられたのか、映画が終わるといつものように食事をし、感想を語り合った。


  

 ――なんなのだろう。


 


 その日から私は、モヤモヤとした日々を過ごした。

 

 ――明日、会うのやめようかな。


 退勤後に、明日来る予定の複合施設の前を通り過ぎながら私は溜息をつく。



 そこに、施設から男女が言い合いをしながら出てきた。

 

「途中で寝るとかありえない」

「つまんなかったんだもん」


 

 ――喧嘩ができるのいいな


 羨ましく思い、男女に視線を移したところでドキリと心臓が脈打つ。

 


 彼だった。見たことのないラフな服装。

 

 隣の女性は、誰?



 

 私が動けずにいると、女性は私の視線に気づき、「お兄ちゃんの知り合い?」と彼に声をかけた。


 

 ――妹


 


 一瞬で誤解は解けたが、彼は私に気づき慌てふためく。


 そして妹さんのおかげで、私は真相を知ることができた。


 

 なんと彼は、私と観る映画を事前に観ていた。 


 


 まくしたてるように話す自分がイヤで、先に感想を考えていたのだそう。


 

 私とデートの時は大人の男でありたかったと言い、


 私と早く話したくて時計を見ていたと言う彼。


 

 可愛い、と私はまた彼を好きになった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 時計を見るという何気ない行為への疑問と真相を見事にミステリー風味で仕立てており、おっ、と感嘆してしまいました。妹と一緒に見ていたことを秘密にして来るなんてけなげ(っていうか、恋愛開始直後の…
[良い点] どちらも互いに想いあってて、そしてかわいい感じの雰囲気があってホンワカした気持ちになれました。ありがとうございます
[良い点] 温かみのある大人な雰囲気が素敵です。 簡潔な表現から映画館で隣り合う情景や主人公の気分が伝わってきて、読んでいてほっと落ち着きました。 男性ってそういうところありますね笑 それを可愛いと思…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ