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魔王、奴隷少女を拾う

 我はベルムト=サタニキア・アモデウス──魔王である。

 我は困っている。


 なぜ困っているのか。

 それは、人間の娘を拾ってしまったからである。


 いや、正確に言うとうちのポチ(エンシェントドラゴンロード)が拾ってきてしまったのだが。




 ここは人間の国に存在する洞窟──ポチの寝床である。

 ポチが拾ってきてしまった娘を見ると、首には呪いが込められた紋章が刻まれている。


「奴隷紋……まだ新しいな。ふむ、奴隷か……」


 奴隷。

 人間が人間を所有物として家畜のように扱う制度である。

 愚かで狂った制度だ。


「不快だな」


 そもそも人間はなぜ人間を物として扱うのか。


 この世界のヒエラルキーで最も下等な種族ゆえ、自分より下の存在がいないからに違いあるまい。

 滑稽なことである。


 ──ブレイク・オール・ザ・カース


 我は拾ってきた娘の奴隷紋を解除してやった。


「これで貴様は自由だ」

「どうし……て……?」

「己の首が締まっている事に気づきもしない愚かな人間を見ているのが不快だったからだ」


 奴隷紋は魂を蝕むのだ。

 それは捨てられた犬の肉にくい込み始めた首輪を切ってやるくらいの気持ちだった。


「街の隠れ家へ連れて行き洗ってやれ」


 我は震える少女を一瞥しポチが潜む洞窟を後にする。そして、ここから最も近い都市(人間の国の街だが)の貴族街に、密かに作られた隠れ家への転移門を開いた。


 ──ディメンジョナル・ゲート



 配下に命令し少女を風呂に入れさせ、我は簡素な玉座に腰掛ける。


「さて、あの娘はどうするべきか」


 我のペットが拾ってきてしまった以上、魔王の威信にかけてそのまま放り出す訳にはいくまい。

 魔法で記憶をいじり、この都市の適当な人間の家庭にでも委ねるのが妥当だろうか。


 我が思案していると隠れ家の周囲を警戒していた配下が慌てて我の前に転がり出てくる。

 そして、息も絶え絶えと言った様子で片膝をつき口を開く。


「恐れながら申し上げ……!」


 発言を許してもいないのに報告を始めた配下に対して、傍で控えていた四天王のうちの一人──支配のモリスが「魔王陛下に対して無礼な……!」と配下の声を遮る。

 我は片手を上げて制し、這い蹲る配下に続きを促した。


「人間どもに此処の存在が露呈しました。すぐにでも攻め入られようとしております!」


 配下の話によると、我が少女の奴隷紋を消したことに勘づいた奴隷商ギルドの人間が此処へと押しかけてきたようだ。


 しかしそれはおかしい。

 そんな事があるはずがないのである。


 ここは仮にも我が魔王の隠れ家である。

 魔王城には遠く及ばないが、何重にも隠蔽工作を施してあるのだ。


 外観はこの貴族街ではありふれたごく一般的な館であり、その上で常に認識阻害の多重結界魔法を展開、更には周辺住民の記憶も操作しご近所付き合いも演出している。

 勇者でも無ければ、認知することすら難しいはずだ。


 ──だと言うのになぜ人間どもが?


 我はスキル〝並列思考〟を駆使してその疑問を考えつつ、人間どもの動きを把握すべく館内に設置された監視用のギミックを発動させる。


 ──ダーク・クリスタル・モニター


 発動と同時に我の目に信じられない光景が飛び込んでくる。

 そして、映像を映し出すクリスタルから人間どもの怒号が聞こえてくる。


「ここだ! 奴隷泥棒はここにいるぞ!」

「こんな像が置いてあるんだ! 間違いない!」

「店の修理代も耳揃えてきっちり払ってもらわちゃならねえ」


 像。

 そう彫像である。純金製の。

 我が信じられない光景とはこの事である。

 一つは我が魔剣を構えた姿で、もう一つは我が片膝をついて一輪の薔薇を持っている。しかも小指が立っている。

 更に、遠くを指してマントを靡かせてポーズを決めているものなど、他多数。


「いったい何個あるのだ……っ!」


 どんなに建物に隠蔽工作をしても庭にあんなものがあっては、違和感を誤魔化しきれるはずがない。

 というよりもむしろ、ここが魔王に関係する建物ですと宣伝しているようなものである。


 館の門の所にこれみよがしに設置された我の像を見て、ため息を着く。


「あの像を設置した者は後で我の元へ来い」


 はい。

 四天王のうちの一人──慈悲のメティーラの肩が動きました。

 お仕置き確定です。


 とはいえ、ここで騒ぎを起こしたくはない。

 少女を連れて、一時撤退だ。


 ──ダーク・インビジブル


「不可視化が使えるレイスとボーンデビルアサシンは我の護衛だ。シャドーデーモンはあの像を撤去せよ。迅速かつ跡形もなく闇に飲み込め。もはや人間どもに姿を見られても構わん! それ以外のものは各自転移でシュトルン城まで後退せよ!」


 我は急ぎ風呂場に向かい、小綺麗になった元奴隷の少女を抱き上げる。


 ──ディメンジョナル・ゲート


 そして転移門を出現させ、魔王城へと帰還した。


 少女は疲れていたのか、我の腕の中でぐっすり眠っており静かに寝息をたてている。

 今にして思えばこれが嵐の前の静けさと言うものだったのだろう。

読んでくださってありがとうございます!


月之木ゆうです。

テンポよく書き進めたいと思いますので、応援よろしくおねがいします!

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