眺望
一方、こちらはユミル王国、宰相殿のご自宅。宮殿近くに、一人住まいの身。ガランとした部屋、ぼんやり座っている宰相殿。するとそこへ、大臣殿が訪れます・・・。
「宰相殿、加減はどうだ? 少し、外の空気を吸いに表へ出ぬか?」
「・・・出よう」
宰相殿の言葉を聞いた大臣殿、徐に連れだって歩きます。
二人は、いつしか小高い丘へ到る道を進んでいました。日差しが空から差し込み、荘厳な雰囲気です。頂上に上ると、そこから王都の街が一望できます・・・。
「よい眺めだな」
「何も感じぬ・・・」
「ハハハ、宰相殿、御自分が何も感じぬ事を感じておられる」
宰相殿のそっけない返事に、大臣殿、笑いながら応じます。
無言の宰相殿、やがて重い口を開きます・・・。
「双六のように複数から一手を選ぶ際、途端に頭が働かなくなる。全てが止まってしまう・・・」
決まった仕事を行うだけなら体は動くのだが、と宰相殿、呟きます・・・。
「朝、服を選ぶ時でさえそうだ。儂は、このまま何も出来ず終わるのではないか・・・」
「ほう、そんなことが・・・」
宰相殿の言葉に、相槌をいれる大臣殿。そして、口を開きます・・・。
「宮殿での仕事など、一筋縄でいかぬ事ばかり。それでも、我らここまでやってきた。例え頭が働かなくとも、どうすれば良いかなど体に染みついておろう・・・」
「体に染みついて・・・?」
うむ、そうだ・・・と大臣殿、頷きます。
「これは、儂の心の師匠の受け売りだが、この世は波で出来ておるらしい・・・」
「波・・・?」
「うむ、波の大きさは、人それぞれだそうだ。我ら、この波の上をコマのように回りながら漂っておるというのだ・・・」
まあ、実際には浮き沈みがあるのだが、と大臣殿。
「儂は、不器用故、波の動きから外れ沈む事が多い。だがそんな時は、慌てず、下腹を軽く内に引き入れ足元を回す、と軽く思って動くと案外波に戻れる事もある・・・」
もちろん、うまくいかぬ時もあるが、と大臣殿・・・。
「そんな時、逆らわぬことよ。長い間沈んでおると、そのうち沈んでおる事に飽きが来るらしい・・・」
「無責任な・・・」
ハハハ、確かにそうだ、我らが無責任では困ったものだ、と大臣殿笑います。
「ところで宰相殿、儂は子供の頃、地に線を描くのが好きでな、無心で楽しんでおったものだ・・・」
「・・・」
「貴殿、子供の頃、何が楽しかったのだ・・・?」
宰相殿、子供時代の楽しい事を思い出せません。しかし、今はそれでもよいか、と考えます・・・。
二人が眺める王都の街、雲から差し込む僅かな光が、街の一部を暖かく照らし続けていました・・・。




