若旦那さん
こちら、都ラーヴィに行くなら船を乗り継げば良いと聞いた私、ラシルです。新年に間に合わせるべく、船旅に変更することにしました。
私達がザムを旅して、十ニ日目になります。都詣での客を当て込んだ行商人達で賑わう、アガリという名の船着き場に着きます。
ユミルと違いザムでは、月の満ち欠けに従って作られた暦が使われています。だから、ザムの新年はこれから迎えるのです。
船着き場で、フェル行きの船に乗り込んだ私達。猿王さん、同族の方を見かけたので話をしてきます、と言い残しその場を離れます。私は、流れ行く景色を見ながら、先日の行商での出来事をぼんやりと考えていました。
「こんにちは、行商の方ですか?」
「はい?」
突然、声を掛けられ現実に引き戻されます。
「ええ、そうです」
見れば、若い男性、ユミルでは見かけない上物の綿入れの服を着ています。この人も商人なのかしら?
「若い身の上で、大変でしょう・・・」
「はい?」
男性は、ユーシンと名乗り、好意的にあれこれと話し掛けてくれます。どうやら、大店の若旦那のよう。これから港で荷を運ぶ仕事があるとか。でも何か勘違いされている?
「はあ~」
行商初日でつまずいた事、再び思い出しため息をつき手すりにつかまります。すると、目ざとく指輪を見つけた若旦那さん、
「忘れ難い思いがあるのですね・・・」
(あるけど、貴方の想像している事とは違うのよ!)
どうやら、完全に未亡人と間違われています。
すると、そこへ、若! と声がかかります。男性は失礼します、といって護衛らしき人と何やら話し始めます。それと入れ違いに、猿王さんが戻ってきました。
「どうされたのですか?」
「ええ、あの人私のことを未亡人の行商人だと勘違いしているの」
「いや、それでいいのです!」
「はい?」
私が今着ている服は、ザムに行くならこれを着て行きなさい、とルドラさんから渡された男装に近い装いです。猿王さん曰く、ザムでは亡くなった夫を忍ぶ風習だとか。
「え、そんな・・・」
(ルドラさんの趣味かと思っていました)
「いや、だから私が御供しても怪しまれないのです。もともと、そういう話でしたよね」
冷静な、猿王さんの突っ込みです。
(そういえば、座主様がそんな事を言っていたかしら。すっかり忘れていました)
「じゃあ、最初の行商の時は?」
「ああ、あれは自分より弱い立場の者をいじめる、質の悪い憂さ晴らしに逢いましたな」
気にする事ないです、と言われ思わずため息が出ます。このやりきれない思いは、何でしょう?
それにしても猿王さん、ザムに詳しいですね・・・。




