洗礼2
「猿王さん、ちょ、ちょっと待って。私、ここ無理・・・!」
下は断崖絶壁・・・。
一歩踏み外せば、谷底へ転落です!
猿王さんは、背負子を抱え僅かな岩の角を足掛かりに、崖に張り付きながらもすいすいと進んで行きます。私は、流石に足がすくんで動けません。でも、早くしないと、追っ手が迫っています。どうしてこんなことになったの・・・?
それは、つい先ほど、行商初日で手厳しい洗礼を受けたあの村。逃げる様に村を出ると、村長さんの奥様らしき人、兵隊さんらしき人を引き連れ、こちらを指さし何か叫んでいます・・・。
「ラシル殿、急ぎましょう!」
「え?」
驚く間もなく、手を引かれ山道を駆け出します。猿王さん、大きな荷物を背負っているのに、逃げ足の速いことといったら。
「はあ、はあ、ちょっと待って・・・」
息が切れて、これ以上走れません。猿王さん、そんな私を見かね背負子を降ろすと、様子を見てきますと言い残し、辺りを探り出かけます。
猿王さん、暫くして戻ってくると、
「この先に橋があります。その下に身を隠しましょう」
そう言って、私を引っ張ります。はあ、はあ・・・。フラフラでついて行く私・・・。
すると、急に視界が開け、深い谷底にかかる一本のつり橋が現れます。猿王さん、つり橋の脇をするすると降りていきます。
え? ちょっと・・・。
「ラシル殿、早くこちらへ」
急がされて崖を少し降り、僅かな足場を頼りに、木々をかき分け断崖絶壁を這って行きます。
「おい、いたか?」
突然、誰かを探している声が上からします。猿王さん、口に指を当て静かにするよう私に指示します。幸い、ここは木々が張り出し上から見ると死角になっています。
「いや、いない。もう、橋を渡ったか・・・?」
「さあ、何ともいえぬ。下はどうだ?」
(心臓がバクバクしてきました! お願い、見つかりませんように・・・)
「見えねえ、でもあの強欲女の言うことだから本当かどうか?」
「ユミルの間者か、本当なら大変だ。ハハハ!」
(違います・・・!)
どれ程たったでしょうか? 辺りが静かになると、私たちは、そろそろとつり橋のところまで戻ります。
「ユミルの間者なんて、言いがかりだわ。ひどいです!」
あの村では大変な目に遭った上、そんな言われように憤慨する私です。
「まあ、当たらずとも遠からじ、と言うところですかな?」
猿王さん、静かに笑いながら、二人でつり橋を渡っていきました。




