対大魔王式勇者弾道ミサイル
「大魔王様! 勇者が――勇者がまた着弾しました!」
「ええい! 後方の警護のものをそちらにあたらせろ!」
大魔王サタンは頭を抱える。魔王城は今混乱の渦中にあった。魔王の間は伝達兵たちが報告、指示を仰ぐべく列が出来そうな勢いだ。
「マルク! お前が指示を出せ! 俺は展望台に向かう!」
「ええ!? 僕一般兵ですよ!?」
「責任は俺が取る! 命令だ! やれ!」
大魔王代理の誕生の瞬間である。マルクが迷いながらも伝令兵に指示を出し始めるのを見るとサタンは足早に展望台に向かう。展望台は魔王城の中で一番高い場所だ。普段は仕事の休憩中に景色を眺めながらティータイムをする場所であるのだが、今回ばかりは違う。
彼方には王国の城壁が見える――が小さすぎてその全貌は見ることが出来ない。千里眼の魔法を使う。
「まだまだ居やがるな……」
サタンが観たのは城壁に備え付けられた巨大すぎるミサイル発射台とそれに並ぶ勇者達であった。この発射台―勇者を射出するものである。
本来この魔王城に到着するためには迷いの森、静寂なる山、退廃なる沼地、荒れ狂う運河を越えてこなければならず、ここには四天王を一人づつ配置している。
王国がやっていることはこの4つの試練と四天王をすっ飛ばし魔王城に勇者を送り込むという所謂ダイレクトアタックであった。
発射台から勇者が射出される。
「いつまでもそんな手が通用すると思うな……よ!」
サタンが投げた魔力塊が見事に勇者弾にヒットする。
勇者はパラシュートで脱出したようだが着陸予想地点は沼地。おいそれと魔王城には来る事は出来ないだろう。
「どんどん来やがれ! 全部打ち落としてやる!」
発射台が動く。複数回。
「!? それ連射できんの!? くそっ!?」
勇者が十数人飛んでくる。サタンは3人ほどの打ち落としに成功したが残りすべては魔王城に着弾、勇者ストラッカーアウトは失敗に終わった。
「く、くそ……勇者の数には限りがある……それまで耐えるしかない……ん?」
サタンの千里眼が信じられないものを捉える。大工、商人、踊り子と勇者の列に明らかに勇者でないものが並び始めたのだ。
「……おいこれ、もしかして――この中から勇者だけを狙って落とさなきゃいけない奴か?」
発射台が動く。
「無理! それは無理だって!?」
大魔王の地獄の千本ノックが始まった。