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侵入ってなんだかかっこいい響きですよね

朝起きると、部屋の中の気温が0度を指していました。

思考が麻痺し、身体の感覚も麻痺しました。

 頑張ってみようか意気込んでしまったからには行動に起こしてみようと思うのが私です。


 怖いのなんてなんのその。かわいく頬を膨らませる美子の視線すらも、髪を靡かせる風の如く流して見せましょう。


 自分でも何を言っているのか正直よく分からないので、早々に目的を果たしに行こう。


 さっきねっとりと絡みついてくるような悍ましさを感じさせる声の主はどこかへ去ってしまったようなので、脹れる美子の手を引いて教会の方へと向かう。


 村人があれだけの人数入ることもあり、なかなかの大きさを誇る教会だ。でもボロい……老朽化している印象が拭えないかなー。


 これだけボロボロなら、中の音とか筒抜けなんじゃないの?


 入り口の扉の近くまで行き、耳を澄ませてみる。


 ……何も聞こえない。


 びっくりするほど静かで、実は中がもぬけの殻になっててもおかしくないくらいの空白の時間。


 私の聴力だから聞き取れないとかかな?


「ねぇ美子、なんか聞こえたりする?」

「ウーウッウッウー」


 頭を横に振っているので、多分聞こえていないんだろう。何故か私と目を合わせてくれないけど。


 そんなに無理やり下したのが気に食わないのかなー。結構非力だから長時間美子を抱き上げられないんだよなー。


 そんな言い訳はあるものの、美子に言葉が通じるかどうかは難しいところがあるため、頭をポンポンするくらいしかできない。


 ……回復したらまた抱っこするか。


 とりあえず、何も聞こえないとなるとますます中の様子が気になる。


 ……窓があればなぁ……。


 何故なのかは分からないけど、この教会には窓がついていない。側面にもついていなかったし、裏に回っても多分ついていないんじゃないかな。


 そういえば、さっきの声がずっと引っかかっていたんだけど、あの声の主って、私と美子をここに連れてきた奴の声じゃないかなぁ?


 一回しか聞いてなかったし、少し時間がかかっちゃったところはあるけど……似てるような気がするんだよね。


 整ったってどういうことなんだろう?


 教会の周辺を散策しながら考えるが、結局のところよく分からないに尽きた。


 こういう時、朱美がいたら色々なところに気づいてくれるんだろうな……。


「アゥー。ウッウー」

「ん?どしたの美子?」

「アーアゥ、アァウアゥ」


 手を引きつつ何かを訴えてきている。その先にあるのは……これまた古びた裏口だった。


 他のところも散策してみたけど、見つかったのはこの扉一つのみで、ここからか正面の入り口からしか中に入ることはできないみたいだった。


 試しにドアノブを捻ってみれば、まぁ鍵もかけずに開くこと開くこと。


「……嫌な予感しかしないなぁ……」

「ウーウウー?」

「うーううー」


 美子と逸れないように、小さな手を握る力が少しだけ強くなった。痛くないように心掛けているけど、やっぱ内心ビビってるのか、自分でもちゃんと握れているか分からない。


 心臓もバクバクで、この扉の先に行くことに恐怖を抱き始めているのが理解できた。


「……なるようになるよね……」


 そして、扉の先に足を踏み入れた。




 〇




「………………」

『………………』


 荒廃した村の跡地にて、突如として消えた結愛と美子を捜索していた朱美とスラと樹里だったが、捜索活動は功を奏することなく終わりを迎え、途方に暮れている最中であった。


 廃村はそこまで大きなものではなかったこともあり、隅々まで探すのにそこまで時間を労するものではなかったし、そもそも朱美たちはそれなりの距離の気配を探ることができる。


 自らの肉眼と気配を探ったうえでの結論としては、この近辺に結愛と美子はいないだろうというものだった。


「……一杯食わされたわねぇ……」

『結愛無事?生きてる?』


 苦々しい表情を浮かべる朱美とは対照的に、純粋に結愛の無事を祈っているように映るスラ、その横で結愛に会えないことによるストレスなのか、全身を荒ぶらせている樹里が、無音の空間を許すまいとしている。


 そんな樹里を傍目に、朱美は胸の下で腕を組んで思考を巡らせていた。


 朱美にしてはそこそこ長い時間考え込み、辿り着いた可能性は、生物の介入である。


「というか、最初からこれしかないわよね。色々と別の可能性を考えてはみたけど、無駄足だったみたいだわ」

『結愛、大丈夫?』

「友好的な奴だったら別に害はないでしょ。でも、歪んで捻くれた感性の持ち主だったら何をしでかすか分かったものじゃないからね……最悪の場合は無事では済まないかもしれないわ。樹里っていういい例もいるしね」


 その言葉にビクッと一瞬動きがぎこちなくなる樹里を見て、朱美はため息をつく。


「美子がいるから大丈夫だと思いたいんだけど……あの子も幼いから、脅威に晒されたら一溜まりもないと思うのよね……」


 朱美は心配そうに空に向かって言葉を吐くが、それに応えてくれる仲間たちは勝手にパニックになってるため使えない。


 やっぱり心配ねと、朱美は頭を押さえながらもう一度深いため息を吐いた。




 〇




 扉の先は倉庫でした。倉庫というか、倉庫のような場所っていうのが正しいのかな?


 食料などの備蓄をしておくようなスペースが作られており、いくつか大きな木箱がスペースを取っていた。


 小麦粉のような白い粉が入った袋もいくつか置いてあったので、私の推測で間違ってはいないと思う。この世界にも小麦っぽいのあるってことかなこれ……ちょっともらえないかな。


 物欲で前が見えなくなりそうになるのを理性で抑えつつ、美子と一緒に中へと続く扉の近くまで歩く。


 あ、パンがある。西洋風のフランスパンみたいのがある。じゃあさっきの袋の中のは小麦粉で間違っていないっぽいね。


 ……いや分かってはいるんだよ?それどころではないということくらい。


 でもさ、舌が故郷の味を求めてしまって、目の前のことに集中できないんだよね。


 美子も私の視線に合わせてるせいか、パンに興味津々なんだけど?


「美子ー?ダメだよー?ここにあるものを不用意に口に入れたりしたらダメだよー?」

「ウーウッウー?」

「私も我慢するからー……というか、これそのものが罠かもしれないしね」

「アゥー?アッアー」

「そうそう、安易に落ちてるものとかを口に入れたらお腹壊しちゃうかもしれないからねー」


 この世界の生物の胃袋がどのくらい頑丈か分からないので、私の世界の基準で語らせてもらうけど。


 涎を隠し切れない美子の手を引き、扉の前まで向かう。


 案の定というか、普通に扉に鍵はかかっておらず、少しの隙間から覗いてみると、沢山の椅子とテーブルが並んでおり、大人数での食事を想定しているかのような配置がされていた。


 食堂かな?


 ここにも誰もいないみたいだし、とりあえず安全だと考えていいんじゃないだろうか?


 敵陣かもしれない場所で安全とか何言ってんのって感じだけど。


 美子も特に何も感じないのか、首を傾げているだけだ。かわいい。


 美子が警戒してないなら大丈夫でしょー。


 ということで、ゆっくりではあるけど食堂らしき場所に入った。


 人気(ひとけ)はないけど、この量の椅子とか見る限り、結構な人数を想定してるよ?


 壁際には食器棚が数個に分かれて置いてあり、それぞれ似たような食器が並べられている。丸い大きな皿が大部分を占めており、個性に欠ける印象を受けた。


「……お皿か……この世界にも存在するとは思ってたけど、普通に前の世界の百均で売ってたのと似てるもんだね」


 敢えて言うけど、一切馬鹿にしてないよ?私的に最も身近にあった食器は百均の食器だったってだけだよ?


 素人目にしか見ることができないけど、もしかしてここの食器ってものすごく価値の高いものだったりするのかな?


 食器棚の引き出しを引いてみると、そこにはフォークやスプーンなどの銀食器類が収納されていた。


 この中世みたいな世界観なら、銀皿もあると思ってたけど、あくまで前の世界のファンタジーに対する偏見って感じなのかな。


 一応、気になるところを全て調べたつもりではあったが、これといった発見はなく、この食堂の扉の先に嫌でも向かわなければならないという結論が時間とともに脳裏に過る。


 嫌だからやらないは、この教会に入った時から選択肢に含まれてないんですけどね。


「あ、美子ー。フォークとナイフで遊んじゃだめだよ?」

「ウー?アゥアゥー」

「手が滑って怪我するかもしれないよ?置いて行こう?」

「ヤ~ァ」

「むぅ、拒否の言葉だけはしっかりと理解できるようになってる……」


 少しの間美子を宥めていたが、銀食器類を大層気に入ったらしく、手放してくれる気はなさそうだ。


 ……数本くらいなら大丈夫かな。


 不器用に右手でナイフを持つ美子を見ながらそんな風に思っていると、何かが引っかかるような気がした。


 それは、確かに存在していなくちゃいけないはずのものでありながら、案外こういう場所だと気づきにくいような気もする。


 しかし、気になりだすとその違和感はこれ以上ない強烈さを強く脳に与え、何故の疑問が絶えなくなってしまう。


 この、ポッと湧き出た疑問の答えを探るべく、私は食堂の先の扉へと向かった。


 美子も不思議そうに私の後を付いてくるが、何もかも分からない中で情報とは暗闇の先を照らす一縷の光になりえるものだ。


 その情報を手に入れるためにも、気づいたことや、気になったことは最優先で調べるに限ると勝手に私は思っている。


 さっきまで後ろ向きだったくせに何をいけしゃあしゃあと宣っているのかと、鼻で笑われそうな気がしないでもないが、それはそれ、これはこれでここは一つ願いたい。


 扉に耳を預け、外の様子を確かめる。


 音は一切しない。屋内だからか、風の切るような音も一切聞こえない。


 美子も特に反応しておらず、フォークとナイフを構えて遊んでいる。……そっちに夢中になって調べて無いなんてことは、無い、はず。信じるよ?


 やはりというかなんというか、鍵はかかっておらず、そのまま奥に進めそうなので、ゆっくり開いて外を確認する。


 そこは一本の通路となっており、その壁には色とりどりのガラス細工が施されていた。


 正直、何を表現してるのかは分からないけど、花っぽいものと植物、おそらく自然を題材に作ったのではないかなーと適当に流しておく。すごく綺麗なのはわかったよ。


 近くに扉があり、その奥が礼拝を行う場所になっているんだろうね。


 扉と逆方向の通路を見てみるが、そこには扉らしきものはなく、ただ通路が続いているのみだった。


 ……これは、読みが当たったってことでいいのかな?


 この疑問に対する自分なりの答えは予め用意していた。


 しかし、当たってほしくはない答えであったことを認めざるを得ない。


 なぜなら、この答えがそのまま現実となってしまうと、私の常識が通用しない可能性が浮上してくることになるからだ。……頭痛くなってきた。


「やっぱり、無いよね?」

「ウゥー?」

「調理場」

「アゥアゥ?」

「あぅあぅ」

「オッオー」

「おっおー」


 私は裏口から入ったわけだけど、そこは食料の倉庫となっていて、その次の扉が食堂となっている、と。


 ここまでは別におかしくはないんじゃないかなって思っていた。


 しかし、食堂に食器類が置いてあるのに軽く疑問を抱いていた。


 ……料理を作った後に乗せる食器がないとどうしようもないでしょうよ。なに、ものすごくデッカイお鍋でもあるの?それなら話は別かもしれないけど、それにはちゃんとした調理場というか、そこそこ大きな部屋が必要だと思うんだよ。それが無さそうなんだよね。


 調理場と食堂を離す必要って、大して無さそうだし、むしろ距離あったら料理冷めちゃいそうな気がするし、これはあれかな?


 私にとっての常識が通用しない感じかな?


 この世界の常識を私は知らない。


 それに対し、私は基本的に私にとっての常識の枠組みの中で物事を捉えるわけで、この空間の存在がその枠組みから逸脱してしまうような事例ならば、私が常識だと決めつけてしまっているものすらも疑ってかからなくてはならないという事態になりかねない。


 もうなってるかもしれないね。


 急に自信がなくなってきたぞー?


 ねぇ、美子?


「……ウゥゥ~」

「どうしたの?美子?」


 急に威嚇しだしてもー。私の後ろに誰かいるみたいなのはやめてよー。


 それで本当にいたら私心臓が飛び出ちゃうって。


 多分、私の表情は凄く硬くなっている。もしかしたら青くもなってるかもしれない。


 だって、後ろからさっきまでは感じなかった気配を感じてるんだから。


「探していたんですよ?御言葉の時間になっても教会に来ないものですから……心配、してたんです」


 その声は、私の耳元で囁くように語りかけられた。

寒いですね。

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