なんか懐かれた
生命は大切だと思います。
頭の中を一回整理したいけど、色々とこんがらがってるせいで上手くまとめられない。
目の前のスライムっぽい何かは、上下にポヨンポヨンと動いた後に、プルプル震えたり、左右に動いたりしている。まだ、俺に生きてるアピールを続けているみたいだ。
……可愛い。
ハッ!?俺は何を考えていたんだ。……でもなんか、物凄く動きがキュートだ。
スライム?の大きさはバスケットボールくらいだろうか。全然敵意みたいなのを向けてないっぽいし、大丈夫……なのか?
うーん、ダメだ分からない。襲われなければいいけど……。
「うおっ」
スライム?に目を向けると、『どしたのどしたの?』と不思議がりながらこっちに向ってきていた。移動方法はジャンプらしい。一生懸命ポヨンポヨン跳んできている。
俺は驚いた拍子に座ったまま後ろに下がろうとするが、後ろ湖じゃないですかヤダ―。今から立ち上がって走るのには圧倒的に時間が足りない。
そうこうしている間に、スライム?は俺の股の間にまで来てしまった。俺はビビって声も出せない。口をパクパク開閉させるが、アドリブに弱いせいで咄嗟に言葉を紡ぐことができない。会話が成立するのかすら怪しいが。
すると、スライム?はその場で向きを変え、再度俺に戻す。どうも、俺の隣に置いてある木の枝を見ていた……のか?目とか視認できないけど付いてるのかな?
再度俺に向き直ったスライムは、『困ってるの?』と伝えてきているような気がする。
「火を起こしたいんだけど……」
間違っていたら赤っ恥だが、ダメ元で話しかけてみた。傍から見たら精神異常者みたいだ……。
すると、スライム?はフンスッと意気込んだような動き見せ、『任せて任せて』と伝えているような仕草を見せた。
俺は困惑することしかできなかったが、今も若干混乱気味だというのに、スライム?がした行為に更に頭を混乱させることになる。
なんと、スライム?が身体から触手を数本伸ばし、枝をまとめ始めたのだ。こいつの身体どうなってるんだ?
それだけではなく、スライム?はまとめた枝に近づき、その身体からガスバーナーから出されるような細い火炎放射を出し、枝に火をつけ始めたのだ。
「え?はい?」
俺の目の前で起きているのは一体何ですか?これは本当に現実ですか?というか、何故こいつは俺のこと助けてくれてるの?
ダメだ、全く分からない。こんな急展開ありえないだろ。
空腹や疲労のせいもあるのだろうが、俺は早々に考えるのを放棄してしまった。
スライム?に目を向けると、もう焚火が出来ていた。俺のサバイバル力はゼリー状の生物にも劣るらしい。
付いたのを確認したスライム?は俺に向き直り、『褒めて褒めて?』と身体を擦り寄せてきた。裸のせいでもあるのだろうが、この身体はやっぱり変だな。
「ンッ……分かったよ。ありがとね」
身体が密着するだけで声が出るってやっぱおかしいよ。しかもなんか一瞬だけなんだけど、身体全体に快感が駆け巡るんだよ。これはまずいと思うのだが、俺は一応助けてもらった身だ。ここは、相手の求める報酬を払わねば。
スライム?の頭?を撫でる。オレンジの球体が赤色に変わった。『嬉しい』だそうです。
嬉しいとスライム?はプルプル震えるらしい。密着状態ではあまりしてほしくないなぁ……。今必死に声を抑えてるけど、際どい線いってるから……。
「君、んんっ……名前は?」
喋りづらい。俺なんかしたぁ?この仕打ちは酷くない?あ、自殺してたわ。ごめんなさい、もう性感帯が多すぎてキツイよ……。
太ももに密着されてるからなのかなぁ。
俺が必死に我慢している中、スライム?は『名前決めて』とのことで。名前ねぇ……ちょっと待った。こいつ、俺と一緒に居る気か?
「お家にっ……帰らないの?」
お、やっと震えが止まったっぽい。良かった……変態にならずにすんだ。
スライム?が俺から離れたおかげだ。一瞬だけ女の子の部分を見て、俺は足を閉じた。今、新しい願望が出来た。服欲しい。あとは察して。
スライム?は『一緒にいたい』とのこと。
一緒に居たいねぇ……正直、この先一人で生きられる気がしないというのはある。結局火もスライム?のお陰で付いたし。こいつの生態とかは全く分からないけど、一人で夜を過ごすよりは、誰かと一緒に居た方がいいに決まってる。
じゃあ、名前を決めてあげようかな。まぁ、適当にスラちゃんとかで良いんじゃないの?見た目で選んじゃってる感じはするけど。呼びやすそうだし。
「じゃあ、スラちゃんでいい?」
スラちゃんが少しだけ大きく跳ねた。気に入ったようだ。なんか、一日目に仲間?家族?ペット?まぁそんな感じのが出来た。
でも、これで焚火には困らないかな。スラちゃんって動物なんだろうか?ゲームのスライムって種類多かった気もするし、スラちゃんもやっぱり他の種類がいる?
さっきの火炎放射とか、未知の領域すぎて分からないことが多すぎるよ。俺の身体のことも含めてね。後で水浴びしなきゃな。
それにしてもあれだな……スラちゃんやっぱり可愛いよな。
俺はなんとなく、スラちゃんを持ち上げてみた。ちょっと思ったことがあってね。
スラちゃんは何なく持ち上げることが出来た。かなり軽い。あと、この身体もさすがに腕で持ち上げるだけなら感じないようだ。
それにしてもスラちゃんの身体、意外としっかりしている。持ち上げたら、一部が重力で下に落ちたりするのかと思ったが、しっかりと球体っぽい形を維持していた。『抱っこ!抱っこ!』とスラちゃんも喜んでいるみたいなのでいいだろう。……興奮もしてるっぽいな。まぁいいや。
そのままお腹の上に抱えてみる、抱きしめる感じで。
「んっ……」
ちょっとだけ感じたけど、これはスラちゃんが大きく身動きを取らなければ耐えられるな。スラちゃんが、身動きを、取らなければ、ね。大事なことだから、二回目は強調させるために区切って伝えたよ。……誰にだよ。
俺に抱かれたスラちゃんは、『はふぅ』とリラックスモードに入っている。抱いてみて分かったことは、スラちゃんはオレンジの種類だからかは定かではないけれど、体温がそこそこ高いようで、お腹からじんわりと身体が温まっていくのを感じた。
ゼリーっぽい見た目をしているが、べたついたりはしないな。意外と表面はすべすべもっちり。やばい、超可愛い。
可愛いは正義だと思うんだ。もう少しくらい警戒した方がいいのかもしれないけど、こんな愛嬌のある仕草をされては抱いてしまうのも仕方ない。
さっきまでは悪いことばっかり考えてしまっていたが、もう少しぐらい頑張ってみようかな。
スラちゃんの登場で、少しだけ緊張していたみたいだが、その糸が今完全に切れ、疲労感が俺を支配した。
空腹感や喉の渇き、眠気が一気に押し寄せる。
「喉渇いたなぁ……」
流石に明日も一日飲まず食わずで過ごすと、体力がなくなってしまう恐れがある。朝一に飲み水の確保をしなきゃなー。方法はまだ思いつかないけど。
そんなことを考えていると、スラちゃんがお腹の上から地面に飛び降りた。すぐにこちらを向き、『水?水?』と伝えてくる。傍に水源あるじゃんって言いたいのね。
「そのままじゃ飲めないからねー。一回綺麗にしないと」
こう言って伝わるのかは分からないが、案の定スラちゃんにはよく理解が出来なかったようだ。『綺麗?綺麗?』と身体をクネクネしている。
スラちゃんは俺たち人間と違って身体が丈夫なのかもしれないな。火も使えるし、食べたものを体内で熱消毒するとかで。『綺麗!』え、どしたの?
スラちゃんが急に湖の方に向って行き、一本の触手を湖に突っ込んで水を吸引し始めた。
身体が一回り大きくなるくらいで止め、その状態でこっちに戻ってくる。
『綺麗!』と伝えてきながら、スラちゃんの身体の中で何かが暴れまわってるかのようにボコボコ動き、数秒ほどで元の形に戻った。何をやってたんだ?
また一本の触手を出し、俺に近づいてくる。
「もしかして、消毒してくれたの?」
まさかと思って聞いてみたが、『綺麗!』と触手を俺の口元まで運んでくる様子を見る限り、俺の考えは間違ってはいないようだ。
……でもこれ、絵面的にどうなの?女の子が口の中に触手をぶち込まれるって。いやね、物凄く喉渇いてるから、スラちゃんの好意は素直にうれしいよ?多分だけど、この子は俺に対して悪いことはしないと思うから、きっとさっきの水も綺麗に消毒してくれたんだと思うんだ。
俺が躊躇していると、スラちゃんは『水、綺麗!』と飲んでも大丈夫アピールをしてくれている。優しい子だなぁ。うん、他に視てる奴もいないし、ここはスラちゃんの好意をしっかり受け止めないとね。
意を決して口を開ける。触手の管はそんなに太くなく、そこまで大きく口を開く必要もなさそうだ。
そして、俺の口の中にスラちゃんの触手が入ってきた。ここで俺は自分の甘さを思い知ることになる。
……口の中も結構感じるんですね……。
スラちゃんの触手が俺の舌に絡み、口内を優しく蹂躙していく。多分、スラちゃんは俺のために優しく触手を動かしているんだろう。だが、そのねっとりとした優しい動きが今の身体にはクリティカルヒットなのだ。
その触手の先端から少しずつ出てくる液体(水)を口から零さないように必死に飲み込む。しかし、触手が少しうねるだけで俺の身体は快感を感じてしまい、口の端から飲みきれなかった液体(水)が零れてしまう。
「ふっ……んっ……んんっ……んくっ…んうぅ」
コクコクと喉を鳴らし、スラちゃんの液体(水)を喉に流し込んでいく。消毒したてだから、結構熱いのかと思ったが、人肌程度の温度まで下げられており、飢えていた身体にそれはとても染みた。
すごく美味しいんだけどね、スラちゃん。優しく舌を絡めたり、撫でる必要は無い気がするんだ。絶対故意にやってるよね?しかも善意で。気持ちよくなる必要はないんだよー?もうね、今快感が走りすぎて頭ボーっとしてきちゃってるから。これ以上は何かと不味いから察して!
無論、察してはくれなかった。俺はその後、体感2分ほどのディープな水分補給を行い、スラちゃんが頃合いを見て抜いてくれたのだろう……俺の唾液の線がつぅーと引かれた触手が俺の口の中から出ていき、それと同時に俺は我に返った。
「はぁ……はぁ……ありがとね……スラちゃん」
ダメだ。我に返ったとはいえ、身体が凄く火照ってしまっている。顔も熱いし、頬も赤いんじゃないか?なんか、軽く息も切れてるし、もう少し続いてたら不味かったかも。
そんな俺の様子を見て、嬉しがっているのと勘違いしたらしいスラちゃんは可愛くポヨンポヨン跳ねた。
絶頂寸前まで追い詰められたとはいえ、スラちゃん万能説が俺の中で浮上してきている。
俺は、零してしまった水で身体が濡れていることに気づいた。水浴びしてくるかな。火照りも鎮めたいし、この身体は大変だよ。
そういえばスラちゃんって、意思疎通が出来るならお使いも頼めるかな?
裸のままで過ごすのもそうだが、寝るときも裸は風邪ひきそうだし、スラちゃんっていう生物が出てきた以上、ここには俺の常識が通用しないような気がしていたので、もしや、寝床代わりになりそうなでかい葉っぱとか生えてるんじゃないかな。
それを持ってきてもらえるなら助かるんだけど……。
「スラちゃん、これくらい大きな葉っぱをいっぱい持って来てほしいんだけど、頼める?」
俺はジェスチャーでスラちゃんに大きさを伝えてみた。小さな子がよくやる、これくらい大きいのって表す時にやるあれね。『大きい、大きい、葉っぱ……葉っぱ!』とスラちゃんは分ってるみたいな感じだし、そのまま頼もう……と思ったらもう行っちゃったわ。
「テクはヤバいけど、やっぱりかわいいなぁ」
それじゃあ、俺もこの間に水浴びしときますかね。
生命を軽視していると思います。