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頭がこんがらがりそうです

白湯って美味しいですよね。

「……村人ではないです」


 やっと気まずい雰囲気をぶち壊してくれた少女に心の中で感謝しつつ、でも人見知りかつ内向的な性格のせいで返答が一問一答形式になってしまう自分に嫌気がさす。


 そこに追い打ちをかけるように無表情だ。絶対友達出来ないタイプなんだよな私。


 私の返答に、少女はあくまで口元のみの微笑を崩さずに反応した。


「まだ御言葉を聴く時間ではないんです。何か教会に用事でもありました?」


 うん?何か引っかかるな。今の言葉に何かが引っかかる。でも、その細やかな違和感の正体が分からない。


 でも、出来るだけ情報を集めたいな。分からないことだらけだし。


「……用事、というか、村の外から来たので……」


 こいつぁやべぇや。久しぶりの人間との会話のせいで、伝えたいことを上手く言葉に表せない。人見知りが発揮するコミュ障がこんなにも辛いとは……あれ?


 さっきまでは無人だった村だったはずだ。この少女以外に人とは出会っていない。生活感皆無の静寂に包まれた、人だけが抜かれた村みたいな印象が強かった場所だったはずだ。


 動悸が早まるのを感じる。謎の焦燥感に駆られ、思考が纏まりを拒んでいるのを理解しつつ、目の前の現実を認識しようと視線を泳がせた。


 そこには、先ほどまで存在していなかった村人たちがおり、家畜がおり、なおかつその音がハッキリと聴こえる。


 生活感皆無の静寂などそこには無かった。生活感しかなかった。


「いや、あの、すいません」

「はい?」


 思わず聴いてしまったことを誰か責めるだろうか?この身に起きた理解しがたい現象を。


「さっきまで……何も、いませんでしたよね?」

「はい?何を仰っているのですか?」

「いや、他の村の人たちとか、牛とか、豚とか……」


 自分が冷静さを欠いていることは重々承知している。もっと慎重になれと頭では理解している。でも、ほぼ反射的に聞いてしまった。


 そして、目の前の少女は変わらぬ微笑でその問いに応えた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……デスヨネー、最初っからいましたよねー、私ってば何言ってるんですかねー」


 美子を抱く手が少し強くなってしまうのを感じる。身体が強張り、私自身の理解を超えた出来事に恐怖を抱いてるということは何となく理解できていた。


 朱美やスラちゃんや樹里がいないだけでこんなにも変わってしまうものらしい。


 身体が小刻みに震えそうになるのを堪え、何とかするしかないと自分に言い聞かせた。


「大丈夫ですか?」


 私の様子を見て言ってくれたのだろうが、表情が一切変わらないので心臓に悪い。


「ええ、大丈夫です。あの、御言葉を聴く時間ではないって言ってましたけど……」

「そうですね。()()()()()鐘が合図になってるんです」


 まぁ、何となく分かってたけど、この村全体で何か信仰してるみたいだね。でも、御言葉って儀礼かなんかだとは思うけど、それって場所によってやり方変えていいんだね。初めて知ったよ。


 宗教とかには詳しくないけど、信仰する対象によって儀礼とか祈り方の方法って一貫してると思ってたよ。


「ところで、外からいらしたんですよね?」

「……えと、はい」

「でしたら、私の家に来ますか?」


 お邪魔してもいいんだろうか?正直その提案は嬉しんだけど、貴方が怖いので遠慮しますと言える雰囲気でもない。謎の断らせてくれない圧が私の回答をイエスへと導いていく。


「……ご迷惑でないのなら……」

「全然大丈夫ですよ。ついて来てください」


 そう言って踵を返す少女の後について歩き始めた。


 村の人々が最初からいたという事実に対し、納得できない部分は多々あれど、一応そこは呑み込もう。でも、この村の人たちって一切会話しないんだね。生活音に包まれてるけど、生活作業の音しか聴こえない。


 若い人からご老人まで年代は幅広く別れてはいるけれど、人数自体はそんなに多くはないみたい。パッと見て5、6人くらいしか見当たらない。


 それぞれが農作業をしていたり、家畜の世話をしていたり、家事をしていたりと何かしらの作業に没頭している。


 音が聴こえるだけで空気は死んでるみたいだ。不気味すぎて顔色悪くなりそう。


 美子は寝てしまったし、自分で何とかするしかないんだけど……よく見たら村人たの表情がみんな統一されてる気がするんだよね。


 今目の前で歩いている少女もそうだったけど、目元は一切感情を感じないのに、それを口元でカバーしようとしているのかは定かではないけど、


「……笑ってる?」


 もっと近くで見れば確実に分かるんだろうけど、おそらく微笑を浮かべている。


 知りたい欲求は凄くあるんだけど、下手なことして立場を危険にさらしても何も良いことないので、ひとまずは大人しくこの少女に付いて行くしかない。


 ……名前聴くの忘れてたなぁ……。そもそも名前なんてあるのかな?


 ……何で今、そんなことを考えたんだろう?


 何だか無意識に余計なことを考えてしまっているっぽい。


 この世界に来た当初もそうだった気がするけど、何も分からない状態って本当に色々考えながら行動しちゃうと思わない?だって安全が一切保障されてないんだよ?


 朱美たちとも引き離されるし、私の知らない現象が起こりすぎて、一周回ってむしろ冷静になるよね。


「ここが私の家です」


 少女の家まで着いたみたい。


 似たような家が点々と並んでるところがいかにも村って感じだったけど、この子の家は一際簡素というか、小さな家だった。複数人で暮らせるほどの大きさではなく、家族とどんな暮らしをしてるんだろう?


「少々狭い家ですが、どうぞ」

「……あ、ども」


 裸足だけど大丈夫かなと思ったら、この世界の人たちは土足で家の中に入るらしい。西洋風ってやつ?なら裸足で入っても何の問題もないよね。


 家の中はこれまた簡素というか、生活必需品以外何も無い殺風景な部屋だった。


「……ご家族はいらっしゃらないので?」

「家族、ですか?」


 何も考えずに無意識に聞いてしまいました。なんて浅はかな行動なんでしょう?


 言い訳させてよ。聞きたくもなるじゃん?こんな小さな家で見た感じ一人暮らしだよ。生活道具が全部一人分しかないもの。


 でもこの子の見た目中学生くらいだよ?お父さんお母さんまだ健在だと思える歳なのにこの生活ってことは、この世界の病気か災厄に巻き込まれたかって可能性が生まれるでしょ?


 だから、多少不躾でも聞けるうちに聞こうと思ったわけよ。ごめんなさい。


「家族とは一体なんです?」

「…………」


 少女は相も変わらず私に口元だけの微笑を向けながら首を傾けた。


 目が笑ってないせいで本心からの言葉なのかどうかがいまいち分からないけど、もし今の言葉が本心からの言葉だとしたら、この子ヤバくね?孤児とか?


「……あーとぉ、貴方を生んだ人?」

「私を生んだのは人ではありません。主です。私だけではありません。この村の住民はみな、主によって創造され、この世に産み落とされるのです。幸福の象徴たる死を迎えるために」

「…………」


 タスケテ朱美、スラちゃん、樹里。私ダメかも。


 この子?それともこの世界?ヤバいって。絶対ロクでもないことに巻き込まれてる自覚がある。いや、それは最初からあった。


 死を最大の幸福と考えてるヤバい宗教を信仰してるって解釈で良いんだよね?


 しかもこの子の生みの親は神様って、この世界では電波系がガチ勢の可能性普通にあるから怖さ倍増だよ。


「……えーっとぉ、じゃあ父親や母親は?」

「主は父であり、母です。万物に命を吹き込み、それを枯らせるのも主の意思一つで決まります」

「……そう、なんですね」

「ところで、貴方もこの程度のことならばご存じのはずでは?」

「え?」


 この世界って無宗教者に優しくない世界なの?何その知ってて当たり前的な聞き方。全部初耳なんですけど?


 これ素直に答えていい問いなんだろうか。もし優しくない世界だとしたら、極刑に処される可能性もあったりなかったりする?何信仰してないだけで反逆罪みたいな罪着せられたりする感じ?きつくね?


 話を合わせた方が良いのかなぁ。目が笑って無いから余計に言葉に圧を感じるんだよね。何でそんなに圧かけてくるのって言っても多分通じないだろうし。


 いざここで話合わせたとしても、美子が起きたらきっと色々とボロ出ちゃうと思うんだよねぇ……。私って同時進行で沢山のこと出来るマルチタスク派よりも、一つ一つのことに集中した方が捗るシングルタスク派だからさ。


 ……悩んでも仕方ないな。


「……とりあえず、その話は置いときましょう」

「はい?」

「この村のことをもっと知りたいのですが」

「えぇと……まぁ、いいでしょう」


 うん、もう話題逸らすしかないよね。真実と嘘の境界線で迷ったら、別のルートに意識を向けさせればその選択肢から離れらるから、多少無理してでも会話を別の話題へシフトさせればさっきまでの会話なんて忘れる忘れる。


「外からいらしたんですもんね。村のことならある程度のことをお話しできると思います。そんなに大きな村でもないですし」

「……ふぅ。じ、じゃああの、この村ってどれくらい人がいるんですか?」


 私が気づかないうちに村人がいたっぽいし、ステルス能力に長けてるのかは分からないけど、今のところこの子も含めて数人程度しか見てない。


「そうですね……日によって変わりますけど……」

「…………?」

「大体100人から150人くらいの間がよくいる人数ですかね?」


 これは、この子自身が村人の数を把握してないってことで良いんだよね?日によって変わるとか訳わかんないこと言ってるけど、まさか本当に日によって人数が変化するとかそんな超常現象起きないよね?


 これってどう返したらいいんだろう……。そんなもんですよねーって共感した方がいいのか、それとも、日によって人数変わるとか何言ってるんですか?って切り込んだ方がいいのか……。


 いや、この二つの選択肢に絞るのではなくあえてスルーして次の話を聞きだした方がいいかもしれない。


「家畜とかは何を育てているんです?」

「日によりますね……」

「…………?」

「多いのは牛と羊ですね。たまに豚とか鶏もいますよ」


 ……うーん、良い情報が手に入ったと喜ぶべきなのか、また日によるってなんだよってツッコミを入れた方がいいのか……。


 さっき牛っぽい家畜の世話をしてるように見えたけど、やっぱり牛だったんだ。この世界にも牛とかはいるんだね。物凄く懐かしい響きがする。食べようと思えば食べれるってことなのかな?牛乳とかも飲めると?この世界でサバイバル系の生活しかしてないからてっきりいないものかと思ってたよ。


 あ、これも聞いておこうかな。


「……この村の人たちって凄く静かですよね」

「そうですか?」

「黙々と作業を行ってるというか、会話一つなく作業音が環境音になるというか……」


 喋るの下手すぎて上手く伝えられないどうしよう。村の人たちの関係がそんなに良くないのかなって思ったんだけど……これ聞けばいいじゃん。


「この村の人たちって、仲悪かったりします?」

「そんなことありませんよ?仲も決して悪いわけではありません。仕事中でしたからね、集中しているんじゃないでしょうか」


 そういうものなのかなぁ……そういう静けさというよりは、まるで機械か人形が動いているような印象が強かったというか、そんなこと言ったら後が怖いので言わないけど。


 私の頭はかなりハッピーセットなのかもしれないけど、それなりにここが安全な場所ではないということは今の話からでも理解できた。


 ……この村からは出た方がいいかもしれない。


 そう思ってるところに、目の前の少女からまた変な言葉をかけられる。


「それに、喋る必要ってあまりないんですよ。だってみんな、意思疎通できるんです。会話をする必要は緊急事態の時くらいですかね?」


 率直に思ったのは、何言ってるんだろうこの子だった。


 滑らかに、さも当たり前のように話されると、どんどん混乱してしまう。得体の知れないナニカの話ということは理解できる。けど、言ってる意味がよく分からない。


 そこに踏み込んでいいものなのか。踏み込んだら戻ってこれないのではないのだろうか。


 この子と言葉を交わす度にどうしようもない不安が募っていく。塵も積もれば山となるって言葉あったよね。


 不安が積もるとその先には一体何があるんだろう。


 何となく頭では分かっていた。このどうしようもない焦燥感。血の気を引く寒気。


 待っているのは発狂。


 精神が汚染されていく感覚は慣れない。


 目の前の少女が人間に感じられなくなり始めたところで、重く響く鐘の音が聴こえた。

まぁ、基本は水を流し込みますけど。

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